サポートアイテム
教室に入ると井上さんが顔を向けた。それから少し笑った気がしたので、僕も笑って見せた。
「大変なことになったよね…。学校の外ってどうなってんの。塞がれたって言ってたよね」
「須永が言うにはそうです。ゲームをしてクリアしないと出られないんですよ」
「クリアしたら出られる?」
「そう考えるしかないです。その可能性を信じないのなら、もう絶望しかありませんから」
須永ってゲームするんだ。あいつはゲーム漫画アニメとか一般ティーンの関心とは無縁の世界にいるような感じがしていた。ツァラトゥスなんちゃらがなんちゃらって本読んで、僕たちを頽落した畜群でアンガージュマンが必要で、それは自己疎外である、とか考えてそうだな、と思って若干距離を感じていたし、じつはすこしカッコいいとも思ってた。仮に割と普通の奴で日ごろから僕らと同じようなものを楽しんでいたのなら、それは非常に疎外感をかんじていたことだろう。
とはいえ、SASUKEみたいなゲームでなくてよかった。あれなら即死だった。これにはまだ考えて行動を決める余裕がある。
「デスゲームさせたいのならも一回でてきて詳しい説明してほしいな」
「多分出てきますよ」
「ところで二人で話したいことって何?」
「私、井上メイというんですれど」
「うん、マサの友達でしょ」
「まあ、そうですね」
なんか濁すような言い方だった。
「私は柏木さんのお兄さんのことを信用できると思っているんですよ。一方的にですけど、先輩の話を伺って言いまして」
「マサが僕のことなんか言ってたの?」
あいつがそんなことするとは思えない。しかも良いように言うとは思えなかった。どちらかといえば嫌われていたはず。でもちょっと実は弟に好かれていたと期待している自分がいて、真剣な顔で聞いていた。
「いやそうじゃなくて、噂話デス。」
彼女は視線をそらし、なんか歯切れの悪いい方した。さすがに彼女の言うことが怪しい気がしてきた。
「それでですね。先輩がよければ、これから一緒に行動したいんですが」
「僕はいいんだが、ワタルは嫌がると思う」
「それじゃあワタルさんと一緒に行くことに決めたんですか?」
「そこはまだ保留させてもらっている」
「私は人数が多い方が有利だと思っているんですけど」
「普通そうだよね。ワタルはなんか人が増えると、足の引っ張り合いになると思っててさ」
「そこはゲームに対するメタ読みの違いですね。須永の性格とかからいろいろ推測をたててるのかもしれません。私は須永を知らないですから」
「メタ読み?」
初めて聞いたんですが?
「ゲーム外の情報からゲーム内の傾向を予想して有利を得ようすることです。別に特別なことではないです。ゲーム外のことを上位のゲーム、メタゲームということもあって、そこでの戦略を下位のゲームと区別して使ったりもします。」
「なるほど」
よくわからんかったが、わかったふりをした。信頼されているようなので、印象を下げるのはまずい。ようは盤外戦術じゃん。須永はゲーマーなのか、ますます自分の須永像が崩れてゆく。
あいつのこと何も知らなかったんだな、僕は。
「そういえば井上さんはアイテムもってる?」
「持ってますよ。コレ」
そういって、左手の甲を向けた。中指に指輪をしていた。
「別に誰にも隠すつもりはないです。先輩のは?」
「僕さ、アイテム貰ってないんですけど」
須永、忘れたのなら今からでもいいからください。あまりにも不利です。
「カバンに入ってませんでしたか?」
「カバン?」
そういえばどこやったっけ?
「空のカバンをもってスタートしたので、おかしいと思って開けてみたらカバンの底で光り輝くものがあって、それがこの指輪でした。」
「思い出した。カバンは廊下に思いっきり投げ捨てたんだ」
唖然とした。
「なんでそんなことを?」
責めるよう口ぶりに聞こえたので、すこし早口になる。
「学校に誰もいなくて、愉快になって、気持ちが弾んで、そのテンションで、それーって感じで廊下奥に向かって投げ飛ばした。その後2階体育館で須永に会って…」
言ってて自分バカじゃんと思った。
「ば、あ、いや。そのカバンに入ってますよ。取りに行かなければ」
今、井上さん馬鹿って言いかけた?いやそれよりも僕のアイテムが大事だ。
「3人で取りに行こう。一緒に来てくれるよね」
「ワタルさんのことは?」
「呼んでくる」
そういって廊下にでた。階段付近からいつ化け物がでてくるかも分からない事実にめまいがした。それと同時に他の4人のことを考えた。物音一つない。第二校舎、校庭、グラウンド、は距離があるからどんなに騒いでも音は聞こえない、彼らはそっちにいるのだろうか。
ワタルをよんで僕のカバンのことを説明して、カバンの元まで3人で行動したい旨を話した。彼は了承した。
「お前ってときどき意味わからないことするよな」
ワタルに真顔で言われた。返す言葉もない。すると井上さんが口を開く。
「私の指輪のこと教えましょうか?」
彼女の指に僕らの視線が集まる。
「これはつけている人の俊敏性と隠密性を上げてくれるようです」
「ほー。どのぐらい」
とワタル。
「つけてみていいですよ」
と言うので僕らは交互にその指輪を試してみた。体の反応がワンテンポ早くなっていた。これを付けた僕はワタルの全力パンチのラッシュを上体の動きだけで余裕でかわすことができた。逆に僕がワタルの体を小突くこうとすると、ワタルはそれをどうやっても防げないでいた。突きが素早いというより、初動が速くなったためらしい。さらに全体的に体が軽く感じるので、持久力や加速力も上がっている気がした。おまけに足音や吐息、衣擦れの音がしなくなるのだった。
これ持って帰れないかな?
「すごい」
とりあえずは、これをつけていれば彼女については安心できるとおもった。ワタルには札があるし。
問題は僕だけだが、それもこれから解決するだろう。ちなみにワタルは自分のアイテムについては教えなかった。井上さんは気にしてないようだったが、後で僕からワタルに促してみようと思う。
「よし、いこう2階の廊下教室から出て右側に思いっきり投げたはず。だから階段付近まで飛んだかも」
そこに行くまでやはり頼りになるのはワタルの方だった。考えてみれば井上さんの指輪は自分だけしか守らないのに対してワタルの札は自分以外も守れる。でもワタルは個人主義で、井上さんは協調的、裏腹な性質のものを渡されたということになる。須永の仕掛けなのか?でも井上さんは須永と面識がないらしい。謎は多い。
あれ、この辺りだと思うのだが。そう思いさらに廊下の奥に進む。いやさすがにここまでは飛んでいかないだろう。来た廊下振り返る。ない。ない。
二人とも歩みを止めて僕の方を見た。僕はありもしない廊下の死角を探していた。
「この辺りに投げたんだが」
内心泣きそうになっていた。
「ありましたよ!」
階段付近から井上さんの声が聞こえる。急いで駆けつけると、それは確かに自分のもので、カバンのファスナーの口が全開に開きっぱなしであった。すぐに中を調べつくすが、何も残っていなかった。
僕は落胆を隠せなかった。
「泥棒がいるねえ」
階段の上からワタルが二ヤついて言う。人の不幸を楽しんでる感じが腹立つ。
「誰かが先に拾っただけしょ。事情を説明したら返してくれますよ」
「そうだね」
すると、ワタルが階段から弾き飛ぶように降りてきた。ワタルの顔は表情がこの上なく険しかった。僕も井上さんすぐに察したが、動きはやはり井上さんの方が早くて、僕が動き出すまえに彼女は僕の手を引っ張って廊下ほうへ駆け出していた。僕は唐突に引っ張られて崩した体勢をどうにか整えて、彼女の手をつかんで一緒に廊下へかけていた。そのときワタルの方を見るのも忘れなかった。彼と一瞬目が合った。
ワタルはこっち確認する視線を一瞬むけて階段の上に向き直った。その後すぐに大きな音と光。僕は走り続ける。
駆け出して廊下の端の階段までたどり着いたとき僕らは止まった。ワタルはついてきていない。おいて逃げてしまったこと事実が突き刺さる。
「この大きな音ってさっきも聞きましたけど。アイテムですかね?」
僕が死の危機からの緊張とダッシュの疲労でゼイゼイしているのに彼女は本当に落ち着いていて、感心してしまう。
すぐに、ワタルはすたすたとこっち歩てきていた。僕らも歩み寄った。
「一匹だけだったから、速攻片付けたぜ。複数じゃないならどうにかなるな」
彼は得意げだった。助けてやったぜと思ってるのだろう。僕も感動していた。彼には感謝の気持ちでいっぱいだった。
「ありがとう。逃げだしてすまなかった」
「いや、お前が残っても困る。お前何もできないんだから。」
何言ってんだ、というよな顔でこっち見ていた。確かに言われたとおりな気がしてきた。逃げなくてどうする。
「アイテムで倒したんですね?」
井上さんが確認するように聞く。
「そうだな攻撃アイテムだ」
この場にきても全部は言わないらしい。こんな駆け引きに何の意味があるのか分からない。まどろっこしい。全部言ってしまうのが正しい選択だと思った。命の危機から脱して大胆になっているのかもしれない。
「こいつのアイテムは札で電撃を出せるんだよ」
ワタルは驚愕の表情を浮かべた。
「はあ、言うなよバカ」
少し強引にでも説得するほかない。3人一緒。それが一番生存確率を上げる。
「いいだろう。これから協力していくんだから。それしかない。この3人は一蓮托生だ。偶然だったにせよもう出会ってしまったんだから、これに賭けるしかない。僕らは3人はパーティ。お互いをかばい合って須永に立ち向かわなければとても生き残れない。」
ワタルは冷めた目で見てきた。
「一番の無能が決めていいことじゃないだろう」
確かにそうだと思う。
「これはゲーマー須永の考えた世界なんだから、仲間を増やしていくのは当然だろう?RPGであえて仲間をつくらないことで、得することなんてありえないだろ」
「RPGかどうかはしらんが、須永の復讐劇なんだよこれは」
「証拠は?」
「ねーよ」
「前!」
井上さんの凛々しい声が響いた。
そのとき、須永その人が視界の突如現れた。
僕ら3人は固まって様子を伺う。須永はこちらに歩てきた。こちらを見ているようで見ていないようなかんじで、映像を見ているようなきになった。
「今7人にむかって同時に話しかけている。7人全員が同じ私の姿と声を同時に聞いていると思ってくれ。そのため、私の受け答えに違和感があるかもしれないがご了承いただきたい。」
須永君のヴァーチャル配信ってわけね。こいつほんとに何でもできるみたいだな。
しかし顔見てマジにムカついてきた。なんちゅうことしてくれてんだこいつ。
「安心して聞けるように、今はゲームのMOBや仕掛けは動いていない。攻撃されることはない」
「さて、ふむ。どうやらすこしは合流できたようだね」
須永の話が始まった。
影キャに魔法の杖 水都 @funakid
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