攻撃アイテム
「まあいいや。わるいけど柏木とちょっと二人で話したい」
僕としては3人力を合わせてやりたいので、こういう提案は受けいれ難かった。こそこそ話す必要があるとも思えない。
「いいっすよ。だけど、私も柏木さんと二人で話したいことがあるんで、話がすんだら隣の教室に一人で来てくださいね」
彼女は念押すように僕の方を見た。
そういって、平然と戸を開けて教室から出て行ってしまった。いや、だからなんで余裕で廊下を出歩けるんだ君は。傷つきたいとかそんな願望あるタイプ女の子か。もはや呆れてきた。
「まったく怖がってないみたいだけど、どうなってんだ。」
「アイテムだろうな」
「なにそれ」
そういえば彼女もアイテムがどうたらと言っていたような気がする。
「ほら、最初に学校にいるのに気付いたときに貰ったもんだよ。アイテムって読んでる。さっきまでいたもう一人と俺と井上ちゃんがみんな最初からアイテムを持っていた。それぞれ別のものだ。多分7人全員持ってる。お前ももってんだろ?」
「ないけど」
「嘘つけ!」
ワタルは不愉快そうににらんできた。こっちも睨み返す。ないもんはない。
「そんなものがあるなら見せてろよ」
「いいぜ。だが他の奴には何を見たか喋るな。これは絶対に守れ」
強い口調で半分脅すように言われる。付き合いが長いので、いまさらこいつの出す迫力だとか怒気とかに驚いたりはしない。
軽い感じ頷いて答える。
彼が出したものは、お札であった。折りたたまれた紙に墨で卒塔婆に書かれてるような字が書いてあって、その周りを朱色の模様が囲っていた。。
彼はさらに、前に突き出して見せてきた。よくみると、青白いオーラのようなものが発光している。話でっちあげるために自作したものではなさそうだった。
へー、と思って顔を近づけたら、いきなり札から小さな電光が跳ね飛んで、前髪に当たった。
「うお!なに!?」
彼は無様に後ろに飛び跳ねた僕を見て、にやっと笑い、札を懐にしまった。
「これは攻撃アイテム。俺はこれを使って電撃を放てる。もうこれの力で化け物一匹葬ったぜ」
「すごい」
力を誇るように言うワタルを僕は、羨望の目で見ていた。これが在ればどれだけ心強いことだろう。ワタルの妙な余裕の正体がようやくわかった。何があろうとこいつについていこうと思った。
ワタルはずる賢いし、電気出せるし、なにより俺を信用してくれてる。
「それでおまえのは?」
「いや、そんなのなかったんだけど?どういうこと?」
「やっぱりおまえ、須永に恨まれてんじゃねえの?直接なにかしなくても、例えばあいつの好きな女がお前のことを好きみたいだとかでも、お前に切れてることはありえるだろ。お前はもてるし」
もてると言われて、悪い気はしないのだが、毎回口歪めて非難がましい言い方なんだよなこいつ。
「でも、あいつ絶対恋人いないだろう」
こんな決めつけは酷いが、もう須永って凶悪犯だし。
「好きな奴ぐらいはいるだろ。そいつが別の男と仲良く話してる姿見たらムカつくだろ」
ワタルは言うまでもないこと言わせるなというような顔だった。
「理不尽すぎる」
「まあいいや、俺と組もうぜ」
「OK。他の5人とはどうするの?」
電気は強い。これは揺るがぬ事実。神が鳴るとかいて雷となった。僕はこれに賭ける。
「他の奴らとは信用できなくなったり利害の合わなくなるまでは協調してもいい。どうせすぐそうなると思うぜ。そう仕向けてくる。協力関係ができても二人か三人までだと思っている。俺はお前のこと分かっているから組めるんだ」
「井上さんも誘っていいよね?まだ協力しても不都合なことないもんね」
「いや、よそう。俺のアイテムバレたくないし」
え?なにその能力バトルみたいなセリフ。
「何で?」
「念のためだ。後々不利になるかもわからんだろ。とりあえずは凌げる力があるから、誰かを当てする必要はない。まず藤棚を見に行く」
藤棚は魔法の水たまりのようなものがあった。たしかに行っても損はなさそうだし、敵への対抗手段もある。
「彼女を一人にするのかよ?一緒連れて行けばいいだろ。彼女が札のこと知って何の問題があるんだよ」
ワタルは難しい顔して答えた。
「あいつのことはさっき初めて会ったから信用できるか分からない。あいつもアイテムあるんだからあんな余裕そうな態度なんだよ。心配すんな」
なぜかワタルは後々7人での間で争いが起こるというヴィジョンに取りつかれているようだった。こいつの性格があまり外交的でないことにも関係しているかもしれない。いつも決まった人としか話さなかったし、せっかく他の人と話す機会があっても面倒そうにしてた。
僕としては、彼の札の力に頼らざる得なのだが、後輩の女の子でマサのクラスメートの井上さんをほっとおくことは容認できなかった。
黙っていると、向こうも黙って何も言ってこなかった。ワタルとは付き合いが長いので僕が何を悩んでいるのかも当然わかっているだろう。
「あ、そうだ。お前ちょっとこれ使ってみろ」
そういって札を渡された。受け取って彼を見る。ワタルは少し離れて、黒板の方を指さした。念じるだけだ、といった。僕はドキドキしながら、咳払いをして、札を掲げたら、間を置かず即電撃が発射された。黒板の中央は表面の素材が剥げ落ちてて、その周りは焼け焦げていた。赤い残り火がチラチラ光っていた。音と光に驚いて二人とも腰抜かして尻もちついていた。
ワタルと顔を合わせて、しばらく呆然としていた。僕はワタルの口空けて目を丸くした、サルの赤ちゃんのような間の抜けた顔を見て思わず笑い声をあげた。ワタルも笑い出した。
「ノーモーションで打つなよ。ビビっただろバカ」
「こんなもの、要領が分からないに決まってるだろ。こっちがビビったわ。」
笑いの波が静まると。立ち上がり札を返した。彼はそれをしまう。
「お前が使えるってことの意味わかるか?使用者は限定されてないんだよ」
「つまり、取り合いになるって?」
それは愉快ではない可能性だが、別に同じ目的のためになら誰が持とうが使おうかどうでもいい気もする。やはり、ワタルは7人で争うという予想を強く持っていた。
「正直なとこ奪ってでも欲しいだろ?だから用心が必要なんだよ」
となりの教室の戸が開ける音と廊下を歩く音がした。井上さんだ。当然だろうあんな音を出せば。
「まった。まだ話がすんでないから開けるな」
ワタルは慌てていた。多分黒板を見られたくないのだろう。
「何の音ですか。大丈夫なんすか」
「大丈夫。問題ない。すぐに柏木をそっちに行かせるから戻って待っててくれ」
「すぐにお願いします」
井上さんは戻っていった。
「絶対言うなよ」
「それは大丈夫だ。だけど組む話はとりあえず保留にさせてもらう」
「は?井上ちゃんと一緒じゃなきゃいやだってことか?」
ワタルは切れかけていた。とはいえ、僕も引けない線だった
「井上さんの話聞いてから判断する。それがむこうの話を聞くうえで当然だとおもうし」
「うわ出たよ。この女好きが。アイテムも見せてやったのに。信じられねえ。」
ワタルは顔を強く歪めて忌々しそうに吐き捨てたが、耳障りだが、正直なれてたんであまり怖くなかった。たしかに僕が強引だが、あいつは僕が引かないポイントというものをちゃんと知っているから、なんだかんだ言って今回は向こうが引いてくれるだろう。僕らはこんな感じでうまくやってきた。
不機嫌極まりないワタルを背にして、僕は教室を出て隣にむかった。
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