感情のカンパネラ
霧乃有紗
プロローグ
空を見上げ、群青色の空を瞳へ落とす。瞬きを1つ零し、視線を下ろしてから私は建物の配管を蹴る。身体を捻り、空中で落下地点を制御する。とっくの昔に眠っている中層から眠ることのない下層へ向かって私は建物を伝い下っていく。
時には公共施設の屋根を、時には人の家の屋根を掴まり、落下の軌道を変える。今日の郵便物はそこまで重くないので、壊れやすいトタン屋根の上も着地することができる。時折私の足音がうるさいようで、背後から怒号が飛んでくるが、元々不法占拠している連中なので気にする意味もなし。叫び声を右から左へ受け流しながら、建物の屋根へ着地し、針山のように乱立しているアンテナを避けながらまた屋根から飛び降りる。
配達員。私が今やっている職業。一般的に政府や企業で雇われているような配達員とは異なり、車などの運送方法を取らない、高低差が激しいこの都市ならではの職業。島の外の世界と違って一部の治安があまりよろしくないこの人工島の中において、安全に手紙や軽い荷物を運ぶには私みたいな配達員が必要……らしい。ちょび髭の郵便局長がいつも誇らしげに言っているから多分そうなのだろう。
段々と明るくなっていく風景を見ながら、屋根から道、道から違法建築されたベランダ、ベランダから下層の屋根へ……私が数年間で編み出したルートを通り、目的地へと向かっていく。すると、私の目線の下。何が動いているのが見える。トラブルから回避するため、身体が勝手にルートを変更する。
*がしゃん。
衝撃、反転、天が地に、地が天になる。口の中に少しだけ唾液が溢れる。
衝撃の後、背中から何かが崩れ落ちる音が聞こえてくる。
「こわ~~~い~~~~っ、
地となった天の彼方からふざけた女の声が聞こえてくる。彼女は面白そうだが、私にとっては全くもって何も面白くない。右手を握り、左手も握る。つまり両手ともに動く。私は閉じていた瞼を開き、空を見上げる。いつも通りの狭い空に微かな星の光。明日は晴れだったっけ。
「調子に乗りやがってこの……っ!」
ふざけた女の声とはまた別の男の声。この島では見たことがない、外からこの『シマ』へとやってきた所謂新参者。聞いた話だとどうやら若い連中に対して粗悪なお菓子を売りさばいているらしい。
わざわざ『ウチ』の『シマ』で。
私は拳を地面へ突き立てながら立ち上がる。背後にはどっかの馬鹿が捨てた廃材が積み立てられている、だからこんなに痛かったのか。地面へ突き立てた握りこぶしからミシミシと音が漏れる。小指から順番に握られた拳は私の鼓動に合わせてとくんとくんと厚く固くなる。
「は、はは!? なんだこの女!?」
「あ? 別にただ立っただけだろうがよ」
私は男をじろりと見る。オレンジ色の派手なシャツに似合っていないサングラス。腕時計には分不相応な高級腕時計。金の使い方がちゃっちくて下手くそ……とそんな印象を受ける。男は立ち上がった私を見ながら、視線をあちこちに飛ばしている。何か増援を探っているのか、武器を探しているのか。私がとんとんとステップを踏み呼吸を整えていると、すぐに近くに落ちていたビニール傘を手に取る、そしてそれをまるで刀のように構える。
その様子を見て呆れた私は髪の毛をがしがしと掻いてしまう。何と言うか、手近なものを武器にするとしても、もう少しマシな獲物はなかったのかと。そして再び拳を固める。
「わぁ、グー作ってる、めりめり~こわ~い」
「めりめりはやめろ普通に語感が悪くて気持ち悪い」
「え~」
怯えた仕草をしながらさらにふざけたことを言うのは、最近この島へ来た詐欺師……こと
「メリンダっち、がんばって~」
「メリンダっちってなんだ舐めてんのか」
「べろべろ~! がんばって~」
「わかった後でぜっっっったい! ぶん殴る」
百々村は後で殴るとして、とりあえず目の前の馬鹿を制圧せねば。男は私と百々村のやり取りを見ながら傘をどちらへ向ければ良いのかわかりかねているようだ。
可哀そうに。私たちに傘を向けること自体が間違いだ。彼が取るべき行動は『逃走』のみだったのだ。
男はとりあえず百々村に向かって傘を振りかざす。おそらく百々村がか弱い女性に見えたのだろう。傘を振りかざされた百々村はスッと目を細め、少しだけ身体を傾け、傘を避ける。そして空を切った傘の先端を左脚で踏みつけ、右脚で傘本体をへし折る。あっさりとへし折られた傘を見て男は目を丸くする。
「女物のブーツは踏まれると痛いんですよ~」
彼女は胡散臭い笑みを浮かべながら、傘からぴょんと退く。百々村には敵わないと思ったのだろう、男は私に向き直り、へし折れた傘を振りかざす。私はすぐに男の顔面に自分の拳を叩きこむ。頬なんて柔らかい部位ではなく、鼻をへし折るつもりで、顔のド真ん中へ叩きこむ。指の付け根に何かを砕く感触が伝わる。そしてそのまま拳を振り切る。男は背中から地面へ叩きつけられ喚き始める。おそらく鼻を折られた痛みで喚いているのだろう。
「ったく、うるっせぇなぁ。今何時だと思ってんだ」
私はそう言いながら、吹き飛んだ男のオレンジ色のシャツの襟を引っ掴み、無理矢理立たせ、もう一度固く拳を握る。
「良い子はねんね、しないとな?」
「わぁ~。絶対痛いやつだぁ~」
*ばきっ。
「おっと」
私は思わず声を漏らす。下層の建築物は粗末なことが多いのだが、踏み抜いた足場は自分が思っていた以上に脆く、一般市民が住んでいる屋根の一部が破損してしまった。後でちょび髭の郵便局長に補填してもらうように言っておかないと。空を瞳に映すと、まだまだ星が瞬く時間帯。さっさと仕事を終わらせないと、日が出てきてしまう。階段の手すりに着地し、そのままの勢いで滑り降りる。
エメラルド色の扉の家に一通、確か中層からの手紙、もう一通はカーキ色の扉……これは上層の人間からの手紙。ポストへ扉の下へ、扉の隙間へ、窓の隙間へ。ありとあらゆる手段を講じて手紙や荷物を詰め込んでいく。まだまだ仕事は残っている。私はひび割れだらけのコンクリートの上を走りながら、次の目的地へ向かう、その時だった。一人の女性が私に向かって何かを投げたのが見えた。
……それは紙袋で、『フランカの店』とシールが貼られている。私は紙袋をキャッチしながら、女性に向かって声を掛ける。
「ありがとうっす! 代金はちょび髭郵便局長へ!」
「わかってるヨー」
女性……フランカは柔らかな笑みを浮かべながら、そのまま自分の店へと戻っていった。
今日の朝ごはんは何になるかな。
紙袋をそっとポシェットへしまい込む。
仕事終わりの楽しみが増え、私は少しだけ笑みを零しながら、また屋根へ駆けあがり、目的地へ向かって飛んでいく。そして鉄板の上へ着地する。
*カンッ。
「よし」
仕込みが完了し、鍋へ蓋をする。残りの作業は開店前にやろう。腰に手をあて、軽く捻る。するとばきばきっと言う音が鳴る。夜まで営業する日はどうしても早朝まで仕事を続けないと、作業が間に合わない。身体はとっくの昔に悲鳴をあげているのにやめられないのは、私がワーカーホリックなのか、何かから逃避しているのか。手袋や帽子、エプロンを外し、店のホールにある椅子を3つくっつけ、その上に寝転がる。すると、その私にふっと見慣れたタオルケットが巻かれる。
「ありがト、ユーキ」
私にタオルケットを巻いてくれたのは、この店に入り浸っている少女……悠希だった。彼女は普段、絵本を描いていて、それなりに稼いでいる……らしい。あんまり彼女のことを詳しく聞いたことはない。
……と言うより、この島の下層に住んでいる人たちはあまり他人の詮索をしない。暗黙の了解というか、本当に信頼し合った時にくらいしか身の上の話はしない。過去を明かすと弱みになってしまうという一面もあるが、過去に縛られず、ここに居られると言うメリットもあるからだ。
「昼前に起こすよ」
「うん、お願いしまス」
彼女の言葉を聞き、私は大きく欠伸をする。郵便局員さんに紙袋渡したし、仕込みも終わったし、売り上げの計算や発注は……起きてからでいっか。
そんな考えがぐるぐるぐるぐると……。
思考が落ち着いてくると、悠希が使っている色鉛筆の音が耳に入ってくる。この音を聞いていると、だんだんと眠たくなっていく。
しゃっ、しゃー……。
*しゃっ。
「っべ、夜? ってかもう朝か、んばぁぁぁぁやらかしたぁ」
私は髪の毛を引っ搔き回しながら、カーテンを開く。目の前に広がるのは隣の建物の窓。間近に迫る建物は、日照権もくそもない下層の建物では一般的な風景だ。どうやらお隣さんはすっかり寝ているようで、カーテンが閉じたままである。私もすぐにカーテンを閉じ、日用品やゴミでぐっちゃぐちゃになっている床の隙間を探す。獣道を行くイノシシの気持ちになりながら缶とビニール袋を避けながら部屋を渡る。今日こそは今日こそはと先延ばしにしていたことを本当に今日こそは終わらせないと。
じゃないと私はもう……。
「っていけないいけない。出すって決めたんだから」
私は自分自身を鼓舞し、すぐに手に取れるように玄関の床に置かれていた封筒を手に取る。
何回も確認したけど、もう一度確認しておこうか。
私はそう考え、目を凝らし、封筒の宛先を見る。ちゃんとそこには私が通っていた大学の名前がへたくそな字で書かれている。
本当に何度見てもへたくそな字だ。
それからちゃんと自分の名前……坂本・蔵持・
「私は別にー悪くない。ボールペンがインクを出さなかったのがー、悪い」
独り言をこぼしつつ、私は封筒を上着の内側へしまい外へ出ようとする。その時なんとなく上着の内側が寂しいことに気が付く。
しまった。
「あ、やべ。スマホ」
思わずそんな言葉が漏れる。私はまたゴミだらけの床を渡り歩き、ベッドの上でふて寝をしていたスマホを拾い上げ、急いで玄関まで戻る。決意が揺らいでしまわないように。
外も寒いだろうし、靴でも履こうか。そう考えたものの、今の私はあいにくの素足。靴下を探しにまたゴミ渡りをする気力はない。
ちょっとだけなら大丈夫、だろう、きっと。
そう考え、私は埃がかぶっているサンダルをつっかけ、玄関を開く。外からは寒い風と肉まんの匂いが漂ってくる。
「ああ、さぶぶぶ」
外は予想通りの極寒。早々にサンダルで外へ出たことを後悔しながら、玄関を閉じ、鍵をかけ、階段へと向かう。私の部屋は四階、エレベーターもないので、歩いて階段を下りるしかない。本当ならエレベーターあり、オートロックありの物件を借りたかったのだが、所謂経済的事情でそういうわけにもいかなくなった。
二週間前から切れかかっている電灯の点灯に目を細めながら、私は階段を下り、一階まで下りる。目の前にはほっそい道路があり、向かい側にはいつもお世話になっている雑貨屋と一回食べたっきり二度と食べないと誓ったくっそまずい肉まん屋がある。
私はそれを見て左側へ歩き始める。時刻は午前四時だというのに、酔っ払いやらなんやらで一向に鎮まる気配がないこの場所は人工島の下層。雑多と呼ぶにふさわしい場所。いつでも騒がしいし、いつでも楽しいことがたくさんあるし、危険もたくさんある。
……とは言ってもよほど変なことにでも首を突っ込まない限り、そこまでひどい目には遭わない。道のど真ん中にテーブルを置いての酔っ払い同士の腕相撲やら限界飲酒大会やらを横目に私はとある場所へ向かう。
普段は目に映っても気にも留めないものなのだが、いざ利用とすると探しがちになるもの。そう、郵便ポストだ。
この島……というか島の下層の郵便ポストは少々特別製で盗難や破壊防止のためかやったら頑丈で、しかも防犯カメラが六台くらい見張っている……らしい。私は防犯カメラを数える趣味はないため噂の又聞きだ。寒空の下、ゆっくりと人混みをかき分け、家から徒歩三分くらいにあるポストへ向かう。
その道中、何やら人だかりができていて、急に道が通りづらくなる。
また誰かが喧嘩でもおっぱじめたのだろうか。歓声から察するに新参者に対して誰かが喧嘩を吹っ掛けたらしい。
半ば呆れながら巻き込まれないように端のほうを歩く。
触らぬ神になんとやら。くわばらくわばら。
そんなことを考えながらまた道を歩く。いつも通りの喧騒にいつも通りの光。
下層の眠らない光は、人々の闇を少しだけ照らしてくれる。私もここに来なかったら決断できなかっただろう。
まあそれでも将来どうするのかなんて決めていないのだが。
頭の中で色んなことを考えていると、目の前にやたらと明るい郵便ポストが目に入る。めちゃくちゃごつくて、めちゃくちゃスポットライトで照らされている。
「意識するとこんなに目立っていたんだね、キミ」
そう言いながら私は上着の中から封筒を取り出し、深呼吸をする。
こうすうしかない、こうするしかない。
私は何度も自分に言い聞かせながら、封筒を一般郵便へ投函する。ポストは静かに、かちゃん、と口を鳴らす。その直後、私の内側から得体の知れない不安がこみ上げてくる。
覚悟したはずだったのに、またくじけそうになっている。
しかし先ほどとは違い、もう後には戻れない、このポストを破壊することはできない、早朝の回収で中身も郵便局へ運ばれるだろう。
私はもう、大学には通わない。これからは父の元から離れなければならないのだ。
そう考えれば考えるほど呼吸が荒くなり、視線が定まらなくなる。失ったはずの左胸がずきずきと痛み始める。
最悪な気分だ。最悪最低で目の前がくらくらする。
早く家に帰らないと、確か、家に帰れば吐き気止めとか不安を和らげる薬が……。そう考えた時だった。
私の顔に何か布っぽいものがくっつく。そして柔らかい。
何にぶつかったのか、確認するために顔を上げる。
そこには修道女の格好をした、かっこいいお姉さんが立っていた。
「あえ?」
私は混乱する。当たり前だ。さっきまで大学とか自分の父親のこととか色んな嫌なことに向き合わなきゃって考えていたのに、考えた先でなんか美人な人と追突してしまっている。
なんの冗談だ?
ふらつく足に鞭を打ち、私は今できる精一杯の笑顔を浮かべながら。
「ご、ごめんなひゃい」
と情けない声で謝る。私にぶつかられたお姉さんはというと、私のことをじっと見つめ、何かをつぶやいている。私は残念ながら読唇術は使えないので、読み取ることはできない。
そもそも目の前の彼女は日本人なのだろうか。
フードの隙間から見える髪は、白に所々明るい水色が入っていて、顔の表面、三分の一ほどやけど痕に覆われている。そしてすらりと長い脚の先にあるのは登山を連想するようなごっついブーツ。
アンバランスというか、コスプレのようにも見える。
「あの?」
驚きの連続で嫌な思考は消え去ってしまった。私は慌てながら修道服の女性の顔を覗く。彼女はなんだかひどく驚いているようだ。
いや、当たり前か女の子がつっこんできたんだから驚くのも無理はない。
「大丈夫ですか? どこか、ケガでもしましたか?」
私は繰り返し女性に話しかける。女性はしばらく驚き顔で立ち尽くしていたが、唐突に反応する。
「……大丈夫」
彼女はそう言うと、修道服を翻し、歩き始めた……その時だった。彼女に向かってくる人が三人。なにやら女性に向かって声を荒げている。
支離滅裂……というか狂った叫び声をあげているため、何を言っているのかがわからない。
トラブルを回避したいと思っている自分と、目の前の女性に手助けしたい。そんなせめぎ合いが私の脳内で繰り広げられる。そうこうしているうちに、一人が女性のもとに近づく。手には小さなナイフが握りしめられている。
危ない。
思わずそう声をかけようとしたその時、ナイフを持っていた人間が回転し、地面へ墜落した。よくよく見てみると、ナイフを持っていたほうの手を女性が持っているではないか。目の前の光景に唖然としていると、女性は無言のまま腕をスッと捻る。ごきんというあまり聞きたくない音が耳に入ってくる。
「あ゛っ……」
腕を捻られた人は呻くことしかできないようだった。ほかの二人はその様子見て一歩後ろへ下がる。
「特に用事がなければこのまま帰ってほしいのですが」
とても綺麗な声で淡々と告げる。声を荒げていた二人は一瞬面食らったような表情を浮かべたが、すぐに大声をあげて女性に襲い掛かった。
「火の粉は振り払わねば」
彼女はそう言い、先頭の一人……女性のお腹へ拳を叩き込み、噎せている女性を押しのけたあと、二人目の男の首に腕を叩きつけ怯ませる。そして男の人の股間を蹴り上げ、女の人には裏拳で後頭部を強打する。流れるよう動作に私はパクパクと口を動かすことしかできなかった。そんな私のことを見ながら彼女は言う。
「失礼。お見苦しいところを」
「ああいえ。こちらこそー、そのー、すんごい護身術、ありがとうございますっ!」
とまあ間抜けな言葉を私は返す。我ながら本当に間抜けだ。しかしそんな言葉を聞きながらも女性は優しく笑い、その場から離れる。
ごみごみとした下層の風景に修道服というのはいくら夜の闇があったとしてもとても目立つ。また誰かに絡まれていないと良いけれど……。
彼女を見送ったあと、私は少しだけ震える。
そうだ、今サンダル履いてるんだった。
私は慌てて帰路につく。空はまだ夜のままだ。私はほんの少し脱げているサンダルを整えるため、つま先を地面へ叩く。
*とんとん。
オレンジ色のシャツの男の眉間にボールペンの先端を当てながらメリンダ・ワーボイスは言う。
「で、誰に雇われた?」
先ほどまで喧嘩……と言うには少々一方的だった暴行が終わり、暑かったのだろうスーツのジャケットを脱ぎ、メリンダ・ワーボイスはオレンジ色のシャツの男……もとい薬物の売人に対して拷問を始めていた。
誰に雇われたのか。
何が目的なのか。
報酬は何を約束されていたか。
彼女はあの手この手を使って彼から情報を引き出すだろう。最悪、設備がある場所まで連れていかれるかもしれない。
「だっ……誰にも、雇われて、ねぇよ! これぁ、俺が作った商品だ!」
彼はそう言って目線を地面へ向ける。そこには先ほどメリンダ・ワーボイスによって強奪された彼の商品がある。見た目はコンビニエンスストアなどで売られている切手そのもの。
しかし、普通の切手と異なるのはサイケデリックな色をしていること。おそらくだが違法な薬が混じっていることだろう。
「ほぉーん……お前が、ねぇ……?」
銀髪をほんの少し揺らし、メリンダ・ワーボイスは切手をまじまじと見ながら言葉を続ける。
「うちの部下から聞いた話だとこいつを舐めた馬鹿は歯と骨を溶かし、鼻から脳みそを出していたって言っていたが」
「は、はぇ!? そ、そんなわけ……」
「そんなわけない? 今お前、そう言おうとしたか?」
売人の失言にメリンダ・ワーボイスはボールペンをぐりぐりと押し付け始める。ちょうど頭蓋骨と頭蓋骨の継ぎ目に食い込むように。
「言え、誰に雇われた」
「へぇぁ……あっ……」
「言え、こいつはなんだ」
「ひぃぐぁ……ぅぅあ」
「言え」
段々とメリンダ・ワーボイスの力は強くなり、売人の額がぷつっと破裂したような音が鳴る。ここで一旦止めないとまずいか。
私は笑顔を作りながらメリンダ・ワーボイスへ声をかける。
「メリメリ~、拷問するのはいいけど小夜ちゃんのボールペン汚さないでよね~」
「ああすまない。ちょっと赤いインクを付けちまった」
「付けちまったじゃないですよ~」
「すまないすまない」
彼女は売人とずっと目を合わせながらボールペンを眉間から離す。そして先端を売人の眼球のほうへ向ける。
「申し訳ないことしたからこのボールペンは買い取らせてくれ、こいつの片目でもちょっと良いボールペンは買えるだろうし」
そう言いながら、先端を売人の目じりに置く。何をされるのか察したのであろう。売人は怯えた声を漏らし始める。
「メリンダ~? そうしたら一生口開いてくれなくなるって~。こいつは拷問を受けるプロじゃないから逆にしゃべれなくなるよ~?」
「…………それもそうだな」
彼女はどうやら少しだけ怒りを鎮めたらしい。目じりからボールペンの先端を離す。
「しゃあない、世間話と行こうかおにーさん」
「ひゃい……」
「おにーさんの利き手はどっち?」
「へぇゃ?」
「どっちが利き手なんだ? 右? 左?」
「みっ、右っ。右でしゅ!」
「そう、右利きか。じゃあ」
メリンダ・ワーボイスは売人の左手にボールペンを絡ませる。
「左手はいらねぇな?」
そう言ってボールペンを絡ませたまま左手を踏み潰した。ぎりりっと言う音と、売人の悲鳴が周りに響く。
「さぁ、右手も失いたくなかったらちゃんと言え。誰に雇われた!?」
「雇われてねぇ! 本当に雇われちゃあいないんだっ!」
「今度嘘言ってみろ、中途半端に落ちた爪を全部剥がすぞ?」
「本当だぁっ! 本当ひ! よほはへて! ない!」
「ふーん」
彼女は視線を決して外さず、詰問を続ける。
「じゃあこの切手は? どこから手に入れた」
「い、ひっ、いつも、使ってる、サイトからだ!」
「サイト……ああ、その手のサイトか」
この男が言っているサイトというのは、きっと深層Web上のどこかにある『そういう人専用』の売買サイトなのだろう。
警察ですらメスを入れるのが難しいところから仕入れてきているのは確かだ。そうなるとこの男は勝手に薬を仕入れて勝手にこの島で売買しようとしただけなのか?
末端価格ならいくらでも吹っ掛けられるとは言え、そんなことをするか? わざわざ彼女が目を光らせているここで。
私は思考を巡らせながら男に問う。
「その切手って、どんな名目で買ったの~?」
「あ、アイスを、50口分っ」
「50! はぁ~……なかなか思い切ったねぇ」
私はなるべく優しく声をかけ続ける。目の前の男に希望を持たせるために、わざと。
「へ、へへ……ここでは飛ぶように売れるって言われたもんで」
「ほぅ」
売人の言葉にメリンダ・ワーボイスは眉を動かす。それもそうだ、彼女の『城』を土足で荒らされているのだ、彼女にとっては面白くもなんともないだろう。
私はいつでも止められるように身構えながら売人に質問を続ける。
「それで? あなたに素敵な商品を渡してきたの。誰だか知ってる~?」
「わ、若い……女だった、へへ、いい声してた。顔は……なんかマスクとサングラスで隠れててわからなかった……」
「名前は?」
「し……しらない」
「メリンダ」
私が声をかけた直後、メリンダ・ワーボイスは男の左手の人差し指……正確には爪を持ち上げようとする。
彼女の行動に気が付いた売人は慌てて言葉を吐き出す。
「本当だ! 本当に知らない! 誓ってもいい!!」
「何に誓うつもりなんだこのタコ」
彼女はそう言って、売人の指から手を離す。そして『商品』をしっかりと持ち、私に来いとジェスチャーする。
「ほっといて良いんですかぁ~?」
私の声にメリンダ・ワーボイス……マフィアのボスは舌打ちをしながら。
「あとでこのダボの通信機器やらなんやらをすべて洗う。後始末は……部下に任せる」
彼女がそう言って手を挙げると、物陰から一人二人三人と男女が姿を現す。
用意周到と言うべきか、一般人に扮していた彼らはメリンダ・ワーボイスに向かって軽く会釈をしている。
「あー……ったく詐欺師の相手するだけでも疲れるのによ」
ぶちぶち文句を言いながら彼女が歩き出したその時。
「死ねぇ!!」
そんな声とともに売人が立ち上がり、折れた傘を突き出す。背中を晒していたメリンダ・ワーボイスに向かって。
ああ……。と私は頭の中で嘆く。
メリンダ・ワーボイスは振り返ることなく近くに駐輪されていた自転車を持ち、軽々と振り回す。自転車が直撃した売人は声も出せず地面へ転がる。
「そうか、もっと激しいのが好みか」
彼女はそう言い、自転車を高らかに掲げる。ああ、あれは誰の自転車なのだろうか。
修理できないほど壊れるんだろうな。
私はそんなことを考えながら、自転車の持ち主を哀れんだ。
*がしゃん。
「嘘じゃん……」
私は思わず手荷物を落としてしまった。目の前にあるのはぐっちゃぐちゃにひしゃげた私の自転車。昨晩はいつも以上に外がうるさかったし、目覚ましはセットし忘れるし、自転車はぶっ壊れているし、今日は厄日とかいうレベルではない。いくら下層の治安が終わってるとは言ってもピンポイントで私の自転車だけ壊れるのはそれは違うじゃんか……。とりあえず私はスマホを取り出して、通話アプリを開く。そして履歴の一番上にいるバンド友達……
『ごめん。自転車破壊されてたから集合遅れる』
私はため息を漏らしながら手荷物を取り、自転車へ近づく。車でも突っ込んだのだろうか。あまりの破壊っぷりに驚きを隠せない。
近づいてみると、ひしゃげた自転車に何かが挟まっているのが見える。
「え、なにこれ」
私はその挟まっている何かを引っ張り出す。引っ張り出したそれは雑に折りたたまれたチラシで、チラシの片面にボールペンで文字が書かれている。
『すまんこわした。下記の住所に来てくれ、弁償する』
そう書かれていた。
「いやいやいやいやいやいや?」
私は思わずそう言ってしまった。言った後で周りを見たが誰もいなくて助かった。
壊した本人かいたずらで別の人が書いたのか知らないが、見ず知らずの住所に行くのはあまりにも危険ではないのか?
でも自転車がないと中層の大学まで行くのは大変だし、公共交通機関は高いし……。
悶々と色んなことを考えていたが、スマホの震えで意識が現実へ引き戻される。通話アプリを確認するとそこには音苑から返信が。
『笑』
笑、じゃないよ。私は急いで画面をフリックし、文字を打ち込む。
『本当なんだって、マジで大破してんの』
『笑』
『あっ、めんどうくさくなってるなこいつ』
音苑の呆れた視線が容易に想像できる。私は一応スマホで大破した自転車の写真を撮り、チラシに書かれていた住所へ向かうことにする。
普段なら絶対にやらないであろう行動に自分が一番驚いている、けれどそれほどまでに漫画のようにぶっ壊れた自転車を見て気が動転したのだろう。
ここまで不幸な目に遭うのであれば、これ以上の不幸など早々起こりえないだろう。
そう考えてしまったのだ。
もう一度私はチラシに書かれていた住所を確認すると、どうやらここから近いみたいだが……ん? 私は目をこすり、もう一度住所を確認する。なぜならその住所はある意味では有名な場所だからだ。
下層は基本的に集合住宅が多い、あふれんばかりの人間を丸ごと受け入れるためには集合住宅がもってこいだということと、一軒家を持つ人間は大体中層か上層へ言ってしまう。治安が良くない下層に一軒家を建てること自体がリスクだ。そんなこの場所でとてつもなく目立つ屋敷がある。もちろんアパートとかマンションではない。建物が乱立しすぎていて、日がなかなか差さない下層の中でも日光に照らされるように建っている屋敷。
「やっぱりいたずら? でもこんないたずらを気軽にできるもんじゃないし……」
その屋敷の持ち主は簡単に言ってしまえばマフィア。めちゃくちゃ綺麗な言い回しをするのなら自警団の本拠地。チラシの住所通りに従うのであれば、そんなところまで行かなくてはならない。
本当に呼ばれているのか、いたずらなのか……。
「と、とりあえず一旦行ってみて。ダメそうだったら帰ろう……そうしよう」
誰に言うでもなく私は独り言をこぼしながら住所へ向かう。
そして、五分後。
私は早速チラシの住所へ足を運んだことを後悔した。門番らしき大男が二人、門のところで仁王立ちしていて、私のことをサングラスごしににらめつけている。
怖い、シンプル怖い。
帰りますー。
なんて口にしようものなら首根っこ掴まれてバラバラにされるか海の底に沈むか、どろどろに溶かされるかもしれない。頭の中で任侠ものの漫画のことを思い出しながら、私は無い勇気を振り絞り、門番に声をかける。
「ぁ……ぁのう?」
「あ?」
「ぃ」
門番の片方が声を上げる。ついでに私も情けない声を上げる。怖い、怖すぎる! 曲がりなりにもこの人工島の下層で暮らしているから多少トラブルとか怖い目とか遭ってきているけど、ここまで怖かったことはまず、ない!!
私がぷるぷる震えていると、声を上げた門番がさらに私に凄んでくる。
「なんじゃ? 用件を言えや」
「あっ、ぁぁぁ、あの」
「だから用件を、言えや」
今にも掴みかかってきそうな門番に私はすくみ上る。やっぱり怖い、本当に怖すぎる!! どうやって逃げようか、チラシのことを言う? もうそんな勇気はどっかへ消え去った!! 平和な日々に戻りたい!! 何も考えずに読書をしていたあの時に戻りたい!!
そんなことを考えていると、ずっと黙っていた門番のもう一人が私に目線を合わせるように腰を落とし、言葉を発する。
「……エッセンホイップ・キャンディポップのEllieさん?」
なんでバレてるのぉ!? 怖いやら顔バレやら何から何までうまくいかない!! バンドモードの時と違って前髪を全力でおろして眼鏡をかけてるのに! なんで!?
「お? それって兄弟の好きながーるずばんど? じゃねぇか」
「おうよ」
おうよ? おうよじゃないって!!
私の頭の中はもうミキサーで様々なものが……感情の行き場やら現実の逃げ場やら情緒の安定感やらなにもかもが混ぜこぜになっている。どうしよう、どっから何をすればいい? 歌うのか? 歌えばいいのか? なにを!? なにを歌うの!? 即興!?
ゆでだこになって目を回していると、何かが空を切る音と、かんっと言う音、そして怒号が聞こえてくる。
「おい! てめえら!! 客人ひとりも招けねぇのか!? あぁン!?」
もっと怖い人出てきた……!! 銀髪で身長が高く、なんか頭に包帯を巻いている人が出てきた。着崩したワイシャツにすらっとした黒いパンツを履いた女性は自分が投げたもの……水筒を回収する。
「しかし姉御、こいつぁ用件を言いやがらねえんです」
「お前な、お前に睨まれて平然としていられる堅気がどんぐれぇいるかってくらいわかんだろうが」
「へい……」
さっきまで凄んでいた大男がしゅんとしょぼくれている。お願いだから私の目の前で任侠映画をやらないでほしい。
すると、ファンと言ってきた男が小さく言う。
「兄弟、とりあえず通そうや。俺たちがここにいると通れやしねぇ」
「それもそうだな兄弟」
そう言って二人とも道を開く。私は身を縮めながら、二人の間を通る。すると銀髪のお姉さんが先導し始める。スタスタと歩いて行ってしまうため、私は後をついていくのに必死だった。
玄関から靴を脱ぎ、廊下を歩き、怖い人たちがたまに会釈してくるので、それをペコペコと返し、ガリガリと精神力を削られながら、銀髪のお姉さんについていく。
最終的にめちゃくちゃ広い和室へ通された。年季を感じる畳と、調度品だろうか、めちゃくちゃでかい壺がいくつかと、でっかい掛け軸が複数。
お金持ち、なのかな?
なんて現実逃避もすぐに終わりを告げる。
「自転車に関しては本当にすまない」
銀髪のお姉さんはそう言い、机のどんっと何かを置く。大きなカップに大きなスプーン……。
すっ、スーパーで売ってるでっかいカップアイス食べてるー!!
おおよそ一回もしくは一人で食べることを想定されていないサイズのアイスを持ちながら、銀髪の女性は続ける。
「柄が悪い輩が居てな、ちょっと教育するために使っちまったんだ」
そう言いながら、先ほどぶん投げた水筒を片手で開き、そのまま飲み始める。銀髪のお姉さんとは少し距離があったものの、アルコールの匂いが私の鼻の中へ入ってくる。
「メリメリ? さすがにお客さんの目の前でアイスと酒を飲むのはどうかと思うよ?」
真後ろから聞こえてきた声に私はびくっと身体を震わせる。驚きすぎて声すら出なかった。
ゆっくり、ゆっくりと背後を見てみると、そこには黒髪でボブカットの女性がそこに居た。意味があるのかわからないくらい小さな丸いサングラスをかけていて、どことなく胡散臭い。たまに作曲家もどきでああいうのいるなぁなんてことを考えていると、その女性がずいっと近づいてくる。
「お名前は?」
「へ?」
「『へ』さん?」
「ああ、いや違い、ます。私の名前は……」
ここで偽名を使いことも考えた、けれど目の前の女性に嘘は通用しないから無意味だ……とそんな気がした。なんといえばいいのか、頭の中を覗かれているような妙な錯覚を覚えるのだ。私は素直に自分の名前を言う。
「
「へぇ、恵里衣。ですかぁ」
ズン、と空気が重くのしかかる。得体のしれない何かに私は圧倒される。初めてライブハウスで歌った時より遥かに緊張しているのが自分でもわかる。彼女は目を細めながら、私の眉間に人差し指を置き、そっと離す。そして親指と中指で何かを掴み、私から手を放す。その後、離した手を広げ、自分自身の手のひらを見つめる。すると、にこっと笑顔に戻った。
「なるほど、佐藤恵里衣さん。嘘はついていないみたいですねぇ。うっかり小夜ちゃん☆」
緊張が解け、私の背中に冷や汗が垂れる。できることなら二度と味わいたくない感覚だ。安堵の息を漏らし、畳へへたり込むと、女性は言葉を続ける。
「佐藤恵里衣。バンドのヴォーカル。音苑と言う相方が居る」
「へぁ!?」
彼女はにこにこと笑いながらしゃべる。さっき解けたはずの緊張がまた戻ってくる。
「中層の大学……泪橋ランド大学二年生。経済学部。単位は目立たないために普通……ってところかな」
女性の言葉に私は喉がからからになる。もちろんこの人に会ったことなどない。バンドのお客さんでも見たことがない。
一体この人は……?
すると銀髪のお姉さんがため息を一つこぼし。
「百々村、あんまりからかうな」
と窘める。するとトドムラと言われた女性は「はぁい」と言うと、私から離れ部屋から出て行ってしまった。一体全体彼女は……?
「お前あいつになんかやったか?」
「え? いえ、おそらくなにもやっていないと思うのですが……」
「あいつにしては珍しく動揺していたからよ。まあいいか」
動揺? あれで?
私は疑問符を浮かばせながら、トドムラさんが去ったあとを見ていると、銀髪のお姉さんが空になったでっかいアイスカップ(もう食べたの!?)にスプーンを放り込み。
「あんまり多くは渡せないが……おい!」
と声をかける。するとどこからか一つの札束が宙を舞う。札束が……札束!?
「口止め料こみこみだ」
そう言って、彼女は私の目の前へ札束を勢いよく置く。
*ドンッ。
<<衝撃を検知>>
<<システム起動>>
カリンは瞼を開き、景色を確認します。そこはカリンを包むための
とく、とくと小さな鼓動を検知できます。カリンは今度は脚部を動かします。
<<INFO 揺り
システムを無視し、カリンは脚部を動かします。
<<WARN 脚部損傷。
<<WARN これは重大な命令違反です。速やかに揺り
痛覚を検知。カリンは顔をぎゅっとします。しかしカリンは感動しています。生体反応がカリンに宿っている。ログにそう記録されているからです。
<<WARN 速やかに揺り
カリンは動きます。
冷たい。カリンは冷たいを感じています。
<<INFO 警報発令。命令違反により警報を発令しました>>
システムはずっと騒いでいますが、カリンは無視します。右足。左足。交互に『床』を踏みしめます。とても冷たいです。次にカリンは上半身を
体温の低下を検知したまま、カリンは歩きます。ここがどこだかは把握しておらず、衛星からの電波が届いていないのか、現在位置を特定することもできません。カリンは心を躍らせます。なぜなら初めての冒険だからです。
初めての光景、初めての感触、カリンには初めてだらけです。
全身に接続されていた管はすべて取り払われ、カリンはそのまま近くの扉へ行きます。知識通りであれば近づくだけで開くはず。そうカリンが処理した瞬間、扉があっさりと横へスライドします。カリンは開かれたドアの先へさらに足を踏み入れます。するとけたたましい音が鳴り響き始めました。そして慌ただしく人が動くのも感じます。カリンはその音とは反対側へ走り始めます。初めて走りましたが、身体的には問題はなく、軽やかに走ることができます。いくつかのドアをくぐり、カリンは大きな大きな扉へ行きつきました。周りを確認すると、とても高い天井ととても遠い壁があり、たくさんのコンテナがきれいに設置されています。生体センサーで中身を覗いてみると、何かがもごもごと動いています。
カリンが観察を続けていると、遠くから人の声が聞こえてきます。耳を傾けてみると、どうやら監視用のカメラからカリンの居場所を割り出しているみたいです。このままではカリンは
どうやらセキュリティロックが掛けられていて、生体認証によるロックが施されているようです。カメラから対象者の網膜パターンを確認し、ロックを解錠するようです。カリンはカメラの前に行きましたが、エラーメッセージとともに、端末はだんまりを決め込んでしまいました。カリンは少しだけ考え、カメラを引きちぎることにしました。少しの溝に爪を立て、そのまま引きちぎります。するとカメラがむき出しになり、中身が見えるようになりました。カリンはそのカメラの配線に指を添え、情報を流します。
<<INFO 解錠シークエンス起動。セキュリティロックを解錠します>>
<<WARN この行動は現行の法律では違法の可能性があります。実行してもよろしいですか?>>
システムの声にカリンは静かに頷き、セキュリティロックを解錠します。すると大きな扉が大きな音を立てながら、左右へ動き開き始めます。隙間からとても冷たい風が入ってきます。体温の低下を検知、しかしカリンの好奇心は収まりません。
扉と扉の隙間から外へ出ると、そこには空が広がっていました。そして地面にはごつごつとした道が広がっています。カリンはその中を駆け抜けます。
緑、灰色、白。色んな色を観察しながらカリンは終点へたどり着きます。そこから先には手すりつきの壁があり道がなかったのです。
カリンは手すりへ登り、さらに壁へ登ります。登った壁の下、カリンの足元にはたくさんのピカピカとたくさんの生体反応を検知できます。カリンとは違うニンゲンたちがたくさんいる世界が足元にあります。
好奇心。黄色の感情がカリンの脚部を動かしました。心臓部(生体制御リアクター)がとくんと跳ねます。そしてカリンの
<<WARN 高所からの落下を検知。 緊急退避を実施します>>
警告音がカリンの頭部の中で響きます。
*ピピピピピ。
電子音で私は目を覚まします。枕元に置いてある目覚まし時計が陽気に朝を告げていて、私の意識を掬い上げます。そっと目覚まし時計を止めて、私はゆっくりと起き上がります。今日もいつも通りの時間で外はまだ少しだけ暗いです。部活動に入ってらっしゃる方ならもっと早く起きているかもしれません。私は少々ふらつきながら、鏡の前へと向かい、学校の制服へと着替えます。私は正直朝は強くないのですが、身体が勝手に制服へ着替えてくれます。ボタンを留め、緑色のリボンを整えて、私は欠伸を堪えながら自分の部屋から出ます。窓からはメイドさんたちが育てている花たちが咲き誇っています。こんな寒空の下でも強く咲いている姿に少しだけ元気をもらいます。
廊下ですれ違うメイドさんたちへ挨拶をしながら食堂へ向かうと、すでにお父さんとお母さんが食事をしていました。すぐに私も椅子へ座り、メイドさんから朝ご飯を受け取ります。
今日の朝ご飯はライ麦パンとマーマレードジャム、そして小さなグラタンです。熱いのは苦手なので、グラタンは後回し、先にパンを食べます。
「お母さん、今日は会合があって遅くなりそうだ」
私がパンにかぶりついていると、お父さんがそう言い、新聞紙をたたみます。お母さんは「わかったわ」と言うと、お父さんの後を追うように食器を片付け立ち上がります。
「
お母さんが私に問いかけます。口の中に入っていたものを飲み込み。
「はい、いつも通りに帰る予定です」
と返す。するとお母さんは。
「お母さんもちょっと遅くなるから、お夕飯、先に食べてて」
と言い、そのまま部屋からいなくなってしまいました。ここ最近、お父さんもお母さんもお仕事で忙しいようで、なかなか三人で食事をとる機会がありません。ちょっと寂しいけれど、忙しいのなら仕方がありません。
私は残りの食事をとり、身支度のために洗面所へ向かいます。
歯を磨き、髪を整え、もう一度だけ制服を整えます。そしてメイドさんが用意してくれた学生鞄を持ち、外へ出ます。
「いってきます」
振り返りながら私が言うと、いろんな人が頭を下げます。頭を下げなくていいと何回も言ったけれど一向に従ってくれません。まだまだ私に威厳がないからなのだと思います。
門を開き、歩くこと三分。私が通っている学校へ到着します。自家用車で来る子、自転車で来る子、途中まで電車やバスで来る子。たくさんの生徒で門の前はごった返しています。私はそんな人たちの間を縫い、学校へ入ります。
外履きを上履きへ履き替え、自分の教室へ行こうとしたその時、職員室の前に一人の生徒が立っているのが見えました。真新しいパリッとした制服に身を包みながら、どこか不機嫌そうな表情を浮かべた子。胸元のリボンは私と同学年の緑色。お見掛けしたことがない方なので、もしかしたら転入生なのかもしれません。私がじーっとその方を見ていることに気がついたのか、私を見てムッとした表情を浮かべてしまいました。私はそんな彼女に笑顔になってほしくて軽く手を振りました。すると彼女は鳩が豆鉄砲を食ったような表情をし、ちょこっとだけ手を振り返してくれました。満足した私はそのまま自分の教室へ移動することにしました。
教室へ到着し、私は学生鞄の中からシマエナガがデザインされている筆箱とこれまたシマエナガが描かれているノートを取り出します。かわいい丸っこいデザインが私のことを癒してくれます。シマエナガのイラストをうっとりと観察していると、いつの間にか先生が到着し、教壇の前に立っていました。私は急いで背筋を伸ばします。
「はい、おはようございます」
先生の声を聞き、私を含めクラスメイトが朝の挨拶をします。いつも通りの朝。変わらぬ日常。そう考えていた時でした。
「今日は急ですが、転入生が我がクラスに加わります」
その声にクラス中が騒がしくなります。当たり前です。こんな寒い時期に転入生なんて一大イベントですから。私は何となく今朝、職員室で待っていたあの子かなーなんて考えていると、先生に促され、女の子が教室へ入ってきます。
予め段取りが決まっていたのでしょう。彼女はホワイトボードに苗字と名前を書き。
「
そうぶっきらぼうに言います。金雀枝と書いて、エニシダって言うんですね……。
彼女は自己紹介が終わると、質問は受け付けないと言った感じに、さっさと席へついてしまいます。どうやら彼女は他人と交流をする気はないようです。
まあそれも学校生活の一つの形でしょう。私は転入生……金雀枝さんのほうをじっと見ます。彼女は私の視線に気が付いたのか、私の方を見ます。また私が小さく手を振ると、すごく恥ずかしそうにまた手を振り返してくれました。
満足した私はシマエナガのノートを広げ、授業の準備をします。
「今朝、ここ上層部で爆発事故が発生したそうです。おそらく人工島放送局から何らかの通達はあると思いますが……」
そう先生が言ったその瞬間。外から大きな音が聞こえてきます。
*こちらは人工島管理局です。
そんなアナウンスで目を覚ます。
まぶしい。
私のまつ毛を陽の光が撫でてくる。煩わしいことこの上ない。私はもぞもぞと身体を動かしてみる。
どうやら拘束はされていないようだ。
動けることを確認し、私は左腕をゆっくりとあげ、腕の内側を見る。そこにはたくさんの文字が刻まれている。所謂タトゥーだ。
その文字を目に追いながら、起床後のルーティンを始める。
私は名前をたくさん持っている、ある時はアリスだし、ある時はチョウだし、またある時は花子だ。そんな定まらない名前を固定化し自分のことを思い出す。
アイス。リーフ、ペーパーに月光。私の名前は……。
そうだ、
私は段々と意識が覚醒し、周りの状況が見えるようになってきた。質素な部屋に散らかったら衣類、そして閉じっぱなしのカーテンに開けっ放しの冷蔵庫。誰が付けたかわからないテレビが燦々と輝いている。
それからすぐに蒸せるような汗の匂いが鼻につく。
ぼーっとしていると、喉が渇いていることに気が付き、起き上がる。すると 右隣には裸の女性。左隣には裸の男性。
ああ、そういえばそうだったっけ。
二人とも疲れ切っているのか、動く気配がない。私は開けっ放しの冷蔵庫に近づき、中身を物色する。
切手に、タバコに扮した葉っぱ。おおよそ飲めそうなものはない。あまりにも怪しすぎるドリンクがあるが、これでも命が惜しいため飲まない。人生の教訓。
仕方ないから水道水でも飲むかと蛇口を捻ったが水は一滴も出てこない。
あー、そういえば水が出ないからシャワーもなしにやったんだっけ。
私は昨日の出来事を思い出そうとしたが……すぐに諦める。覚えていないということはあまり楽しくないことだったのだろう。
飲み物は外で買うか。
そう考え、周りを見てみるとなんとまだ残っているウイスキーがあるではないか。
ちゃぽんちゃぽんと三分の一ほど入っているのを見て、私はそれを拝借する。適当な上着を見繕い、適当な靴を履き外へ向かう。
日はもうとうに高く昇っていて、下層の一部を明るく照らしている。
「今日は晴れか」
ウイスキーを一気にあおり、火を身体にくべる。食道が燃えるように痛かったが、まあこれはいつも通り。
飲み終わった空き瓶を道路に捨て、私はどこに向かうでもなく適当に歩き始める。
今日も今日とて根無し草。どこの家に泊まりに行こうか。
そうだ、まだ出禁になっていない酒場でも探すか、下層ならばそこら中に酒場があるし、今から下見にでも……。
そう考えたときだった。
「あっ! 王子ー!」
そんなかわいらしい声が聞こえてくる。
声が聞こえたほうへ振り向くとそこには、そこには、あー……多分過去に抱いた女の子が居た。
私の頭の中の図鑑を探してみるのだが、まあうまくいかない。
「あのね、今日ね、30万も稼いだのっ」
「へぇすごいじゃないか」
えーっと、黒いツインテに、涙袋メイクに、どっかで見たことのある桃色と黒色の衣装……。
「サリナね、王子とデートしたくて本当に頑張ったんだよっ」
「これはこれは頑張ったね」
そっかサリナかー! 忘れてたー。
私は上着をそっと直し、さりげなく肩に手を置き、引き寄せる。
「ちょっと飲み足りなくってね、どっか飲める場所、ないかな」
「やった! えっとね、ここらへんだと」
とりあえずこの子に話を合わせて今夜のご飯をもらうことにしよう。
昔からそうだが……名前を覚えるのが本当に苦手だ。名前と顔が本当に一致しないのだ。特にふらふらとどこに居つくでもない生活を送っていると、さらに記憶に残らない。
目の前の彼女は私に向かって色んなことを話してくれる。興味のないことばかりなので、私はひたすら聞き役に徹する。彼女たちも別に私に何かを言ってほしいわけではない。だからずっと彼女の話を聞く。返事もしっかりとして、ちゃんと会話をする。
「……それでー、ねずみ袋を破裂させてやったわけ、ウケるでしょっ」
「ははは、そうだね。でもあんまり危険なことはしちゃいけないよ」
「大丈夫っ! ちゃんと護衛も頼んでいたから!」
話をしているうちに気が付いたのだが、この女はどうやら過去に一緒に夜を明かした
……驚くほど冷たい。最初から何か様子が変だと思っていたのだが、やはり……。
「最近は何をキメてんの? ラズベリーパイ?」
「ううん、それよりももっとぶっ飛ぶやつ! 安いし、安全だし、目玉も飛び出ない!」
「おお、それは驚きだね」
新しい薬。十中八九まともな代物ではない。どの違法薬物も結果的には身体を破壊しつくすものだが、彼女が服用しているものは明らかに質が違う。
もちろん、悪い意味で。
私は彼女の手を引きそっと抱き寄せてみる。突然の抱擁に彼女は黄色い声を上げているが、もちろん抱き寄せるのだけが目的ではない。
体温は低い、呼吸も荒れている。心臓の動きも不規則。私は抱き寄せた彼女を少しだけ離し、そっと口づけをする。
……鉄臭い。本人は気づいていないが口の中は血でズタズタになっている。
見つめあうために瞳を覗いてみると、白く濁っている。
目もやられているのか。
私は彼女から離れ、また手をつなぎなおす。
「すまない。ちょっと人肌が恋しくなって」
「えへ……えへへへ……」
私は適当な言葉を並べながら考える。ここまで人体を破壊する薬とはなんだ。石灰でも飲まされたか?
ともかく私は巻き添えを食わないようにしないと。
思考をまとめながら、指を絡め。
「案内の続きをしてくれ、なに、退屈はさせないよ」
心にも思っていないことを言い、彼女の背中を押す。
*トンッ。
苛立っていたのだろう、私は強くスマホの画面を押す。
数秒間コール音がなったあと、恵里衣に電話が繋がる。
「もしもし。恵里衣? もう大学の講義終わった……は? そんな慌てた声出してどうしたの?」
スマホのスピーカーからは恵里衣の慌てた声が聞こえてくるのだが、何を言っているのかいまいち理解ができない。
どうやらトラブルに巻き込まれているようで。
「恵里衣? 聞こえてるー?」
『聞こえてる! 聞こえてるけど!!』
「落ち着いてしゃべって、音がキンキンしてる」
『落ち着けない状態! なのっ! あとえーっと……1時間くらいすれば、バスでそっちに到着するから!』
「はいはい、期待しないで待ってるよ」
『音苑ーっ!!』
うるさいっての。
恵里衣の悲鳴をかき消すため、通話終了ボタンを押す。
ここは大学の広い休憩所。泪橋ランド大学の数少ない宣伝ポイントだ。あまりにも広いため、ダンスの練習が行われていたり、たまに演劇をやっている時もある。昔はここで演奏をしたこともあったが、教授に怒られてからはやらなくなった。
恵里衣が到着するまでここで待つか……。
私は不貞腐れながらバッグの中から色んなものを出す。
お菓子に楽譜に筆箱に音を確認するための五度圏型のハーモニカ。休憩所の机の上に広げるだけ広げた。
チョコプレッツェルを口へ銜えながら。楽譜を広げる。五線譜の周りには色とりどりのメモが記載されていて、そろそろ楽譜の白い部分がなくなってしまいそうだ。
何曲作っても何回やり直しても、記憶の底から思い出しても、『あの音』を再現することができない。何度も何度もやり直しているのに、似るどころかどんどん離れていく。
自分の正確無比の機械みたいな『冷たい音楽』に嫌気がさす。
どうすれば自然になるのか、どうすれば暖かい音になるのか、どうすればお姉ちゃんの音楽になれるのか。
私は何度抱えたかわからない頭を抱え、五線譜へ向き合う。恵里衣には申し訳ないが、また楽譜を変えないと。
がしがしと髪の毛をかいていると、数本抜け手のひらに落ちる。
そこには根本が黒い白髪。
姿形ばっかりお姉ちゃんに似てきてる。
自分の至らなさに苛立ち、チョコプレッツェルをやけ食いする。口の中はもうチョコでいっぱいだ。
何か苦いものでも飲もうか。
そう考えたとき。
「~~~♪」
心が踊る。あれだけ聞きたかった『音楽』が耳に入る。喧騒を打ち消さないように描かれた音、自然であたたかいハミング。
「お姉ちゃん?」
思わずそ私はそうこぼしてしまった。しかし当たり前だが、お姉ちゃんはいない。
いつの間にかハミングは消え、いつもの大学の喧騒が耳に入る。
「……そうだよね、お姉ちゃんがここに居るわけ、ないよね」
自分でもわかるくらい落ち込みながら私は椅子へ座る。
私のお姉ちゃんは数年前、大事な人の人生を『終わらせた』。お姉ちゃんは「うざいから殺した」と一貫して主張をしていたが、私にはわかってしまった……お姉ちゃんは自殺の手伝いをしたのだと。お姉ちゃんはそのまま少年院へ行き、両親はそんなお姉ちゃんと縁を切った。大事な娘の音苑……私のキャリアに傷がつくからと言って。
私はお姉ちゃんの音楽が好きだった。いや今でも好きだ。だからこそ彼女の音楽を作ろうと今の今まで躍起になっている。しかし私が作る楽曲はどれもお姉ちゃんには似ず、ずっと悩み続けている。恵里衣は私の音楽を好きだと言ってくれるが……。
「よしっ、がんばろ」
私はお姉ちゃんを振り払うため軽く頭を振る。そして、五度圏型のハーモニカに息を吹き込む。
*ぷぁぁぁ。
機械によって制御された歯車が動き、鎖によって繋がれた作品が天井へ向かって移動する。
私は跳ね返ったペンキを拭いながら、自分が描いてきた作品を見る。
「やっと、やっと取り戻せる」
失った日々を、時間を、瞬間を。やっと取り戻せるんだ。
大きな大きなキャンバス、何年も思い描いてきた設計図がようやく完成を迎えそうだ。
別の色を使うため、私は車椅子を動かし、ペンキを集めている箇所へ移動する。たくさんの色の中から桃色……喜びの色を手に取る。
すると、大きなブザーが私のことを邪魔する。部下の誰かが私に用事があるらしい。どうせくだらないことだろう。私は車椅子に取り付けられたリモコンを操作し、扉を開いてやる。そこには血相を変えた研究員の姿が。
私はブラシをペンキに浸しながら、リモコンを操作し、作品を地面へ降ろす。
「報告です! 彼女が逃走しました」
「彼女とは誰だ? 部下か? お前の彼女か?」
「あのっ、そのっ! カリンです。カリンが逃亡しました」
私はその言葉を聞き、首を傾げる。
「人形が逃げる? 冗談を言うのも休み休みにしてくれ。それとも何か? 人形が意志を持って逃げたとでも?」
「その、本当なんです! 繭を自力で破って、そのまま飛び降りてしまったのです!!」
私はそれを聞き、頭を抱える。どうやら作品を仕上げている暇はないらしい。この報告がどこまで本当なのか、確かめる必要がある。
「ゼナイト局長……!」
「騒ぐな、喧しい。すぐ向かうから報告書を十五分でまとめろ。報告しきれなかったらお前のチームは解体だ」
私はそう言い、ブラシを空のバケツへ放り込む。
*カラン。
コップの中の氷が転がる。私の目の前にはたくさんの皿が積まれている。これでも何回か皿を下げてもらったのだが……。
「いやぁーお客さん食べるねェ!」
キッチンから橙色の髪の毛を後ろ結びにした女性が顔を出す。
ここの店主で私のオーダーに何回も応えてくれたいい人だ。
「お腹が空いたもので」
「お財布の中身を先にみせてくれなかったラ、今頃食い逃げ疑惑で警察の準備してたヨ」
「はあ」
ここのレストラン、『フランカの店』の料理はとても美味しい。もう何杯スパゲッティを食べたかわからない。
「父さんに食べて寝る子は育つって言われたから」
「まだ育つ気だなんテ、おもしろい子だねェ」
「……本当に美味しかったから」
私はお腹をさすりながら、皿を見つめる。
……さすがにお腹いっぱいだ。これ以上食べたら、動けなくなってしまう。そろそろお暇しようと私は財布から札束を渡す。
店主は札束を受け取りながら私に言う。
「一応警告しておくけド、あんまりキャッシュは持たないほうがいいヨ? ここは治安が良くないシ」
「大丈夫です。私は父さんの娘なので」
「……まあ大丈夫ならいいんだけド」
店主……フランカさんは苦笑いしながら私から受け取った札束を数え始める。
いやしかし……こんな安い値段でこんなたくさん食べてよかったのだろうか。父さんと一緒に暮らしていたころはもっと高い値段を払っていた気がする。
「ん、一枚多かったヨ」
「チップで」
「いやまぁ……それなら受け取っとくけド」
フランカさんは渋々と言った表情で受け取る。私はそれを見届けた後、荷物であるトランクケースを持ち、店から出ようとする。すると背後から。
「今後ともごひーきにー」
と聞こえてきたのだ。
「うんっ、また食べるっ!」
と返す。
フランカさんは意外そうな顔をしたが、すぐに笑顔になり手を振ってくれた。
ドアをくぐるために身をかがめ、店の外へ出る。冬の空気が私の鼻の中をくすぐる。
ほとんど日陰である人工島の下層部。治安は相当ひどいようで、毎日なんらかの犯罪が起こっているとのこと。この島へ到着し、同僚になる警察官から美味しい料理屋を聞いてから、フランカさんの店にいくまでに2回犯罪を見かけ、三人ほど拘束し、同僚へ預けている。
私の容姿が目立つのもあるだろうが、とにかくここは新参者に厳しい。ことあるごとに絡まれるのだ。
「おっとそこのおねーさんちょっと待ってよ」
……考えているそばからまた絡まれてしまった。
私はため息を漏らしながら、声が聞こえたほうへ顔を向ける。
「フランカんとこでたんまりと金を落としてたよなぁ?」
「ええ。それ相応の対価を支払うのは当然のことでしょう?」
「だったらよぉ、ちょっと俺たちに分けてくれないか?」
「……その対価は?」
「ああ? あー……ちょっと遊ぶなんてのはどうだ」
そう言うと男は笑う。つられたのか別の男たちも笑う。
三人、か。
私は念のため、ジャケットの中から警察手帳……もどきを取り出す。
「一応警察だけど」
「あぁ? 警察がなんだってんだよ。臆病者の証明書じゃねぇか」
そう言ってまた男たちは笑い始める。
ここへ来たときから感じていたことだが、この下層ではうまく警察が機能していないらしい……と言うより犯罪件数が多すぎて手が回っていないのだろう。だからこそワーボイスファミリーのようなマフィアが自治を担当しているのか。
警察が、国家権力がなんだと騒ぎ立てる三人を見ながらふと考える。
そういえば、父さんに言われたことを思い出す。
『いいか? 小春。お前は美人だ、美人はそれだけ敵を作る。敵が来たらどうする?』
『ねじ伏せる』
『違う。いや、ちょっと違う。ねじ伏せたら相手が可哀そうだ』
『ならどうするの父さん』
『小春。そういう時はな』
私は目線を周りの建物へ向ける。玄関、窓、テラス、看板、むき出しのアンテナ、室外機……。
防犯カメラの類はない。
人も彼ら以外はいない。
なら、教えを遂行できる。
『周りを見て、人の目や、防犯カメラがなかったら、徹底的に、ぶち転がせ』
私はトランクを蹴る、すると中から30cmほどの警棒が飛び出す。私はそれを掴み、手を伸ばしてきた人間の手首を砕く。
「い゛ぁ!?」
怯んでいる隙に警棒を持っていないほうの親指で喉仏の下に食い込ませる。第一関節くらいまで食い込んだの確認し、私はもう一度警棒を構えなおす。
私が何をしたのか、まだ気が付いていないようだ。唖然としている男の側頭部へ警棒を叩き込む。男はそのまま地面へ倒れこむ。
「なっ、おまっ……警察じゃないのか!?」
残った一人がそう言い始める。私はもう一度、警察手帳を彼に見せる。
「警察だ。だが、お前らみたいに襲ってくるのなら、ぶち転がせって父さんが言ってた」
そう言いながら私は警棒を勢い良く振りかざす。
*がんっ。
「う゛……」
やっっっと動かなくなった。あたしは肩で息をしながら、ぼこぼこになった金属バットを地面へ捨てる。
人間と言うのは存外頑丈だ、特に打撃で殺そうとするとそれなりの力と時間がいる。
スマホを開き、地面に転がっている『モノ』を写真で撮影する。
こいつは公共交通機関で痴漢を働いていた『悪』だ。一度通報されたのだが、冤罪だなんだと言い張り、裁きから逃れたのだ。
「裁きからは逃げられない。悪いことをしたら報いを受けるべきだ」
あたしはそう言い、スマホでSNSを確認する。そこにはたくさんの人とたくさんの悪意とたくさんの正義がはびこっている。
いまだに虐げられている人はたくさんいて、そんな苦しんでいる彼らを差し置いて、悪者たちはのうのうと暮らしている。誰にも裁かれることなく。
「『えもたん☆彡 様。貴女の代わりに私が正義を執行しました。』っと」
痴漢被害に遭っていた女性にそうメッセージを送り、また別の助けを探す。
もうダメだよこの国。
これで男女差別がないって言ってるの終わってるって。
女さん、理解できないwww
首吊り事件、汚職事件、見殺し事件、結局うやむやでどれも解決してないじゃないか
タイムラインにはそんな言葉ばかりが並んでいる。まだまだ人々は絶望し続けていて、まだまだあたしの救済が届いていない。こんな腐った世界は早く浄化しなくては。
あたしはスマホのメモ帳を開き、テキストを確認する。
仕事は山積みでどこから裁きを下すべきか……。あたしは優先順位を立てながら、ポリタンクのキャップを取り、中身を男の顔面へ振りかける。するとあっという間に男の顔に特徴が無くなり、個性が失われる。
「きれいになーれ、きれいになーれ」
しゅうしゅう音を立て、皮膚が焼ける音が聞こえる。これで罪は消える、これで世界はきれいになる。
あたしはポリタンクを適当なところへ捨て、男のスマホを手に取る。きれいにする前に、ロックは解除してもらったので、問題なく開くことができた。あたしは設定画面で電池が切れるまでスリーブにならない設定をし、きれいになった男の写真を撮り、いろんな人間、サイトへ送信する。そしてメモ帳に二文字、漢字を打ち込み、スマホを地面へ置く。
*かたっ。
「『浄化』か」
私はブーツの先でスマホを動かす。スマホの裏にメモなどはなし 私は死体のような何かの観察する。
ここは人工島の中層。商業施設と商業施設の間にあるスペース。ここに入るためには鉄扉を跨ぐ必要があり、その鉄扉にも鍵が取り付けられた。過去形なのは南京錠が解錠さえた状態でぷらんぷらんと引っかかっているのを見たから。
どうやらこの人間……だったものは男のようで、痴漢容疑があったのようだ。しかし目ぼしい証拠はなく、冤罪なのに自分はこんな扱いを受けていると、インターネットへ発信していたとのこと。……ここまで、SNSで顔を消す前の男の画像とともに書かれていた。新規アカウントではあるが、こんな凄惨な画像を貼り付けているのだ、あっという間にアカウントは凍結するだろう。
顔を消した奴の言い分だから痴漢がどうたらが事実かどうかはわからない。
ただ一つ確かなこともあり。
「こんなもの、救いに見せかけたただの快楽殺人だ」
吐き捨てるように私は言う。
私がここへ来た理由はこの快楽殺人者を追うためだ。
シチリアでいつも通りに業務を行っていたらいきなり上司に依頼されたのだ。退勤寸前、なんなら休暇の直前に仕事を入れられたのだ、たまったもんじゃない。
快楽殺人者の正体は不明、一人なのか複数なのかすらもわからない。いつも通りのむちゃぶりをだが、一応上司も上司の上司にけつを突かれているらしい。よりによって政界の人間まで消すもんだから色んな人間から恨みを買っているようだ。
この島の下層部を取り仕切っているワーボイスファミリーの誰かかと最初は考えていたが、こんな適当で杜撰な対応を見るにこれはプロの仕事じゃない。
調査を始めて二日ほど経過するが、まだ解決どころか事件の入り口にすらたどり着けていない。
昨日は下層、今日は中層。快楽殺人者はどこへ行くのやら。
私はストレスを隠すため、ハミングする。音は即興だ。中層の雰囲気と風の流れを聴きながら、音を乗せる。
「心地良いハミング」
不意を突かれ、私は押し黙る。考える間もなく、ガンホルダーから『愛銃』を取り出し、感覚のまま発砲する。計画外の速射で私の腕が軋むが、放った弾丸は対象を穿った。
しかし、対象は少しだけのけぞるのみで、倒れることもない。
「ホローポイント弾、防弾チョッキがなかったら危なかった、かも」
「結構なものを叩き込んだつもりだったんだけど。顔を消す偽善者に、過去の亡霊に、今度はロボット? どうなってんのこの島は」
「む、ロボットじゃない。父さんも私は機械じゃないって言っていた」
そう言って彼女は花のように先端が咲いている弾丸を取り出す。常人ならあばら骨にひびないし骨折、運が悪ければ肝臓の破壊に至るというのに、この女……。
彼女はトランクケースを地面に置き、上着の中から何かを取り出す。
「一応、警察」
そう言って中身を見せてくる。これは……。
「日本の警察手帳ではないみたいだけど。馬鹿にしてんの?」
「まだモドキなのはそう。これから作ってもらう」
「……んで? 警察屋さんが何の用? 私を逮捕しに来た? 絶賛銃刀法違反だし」
「貴女をしょっぴくのは簡単……ではないけど、目的はそれじゃない」
彼女はそう言い、トランクケースのを開き、中からやけに豪華な封筒。そこからさらに紙を取り出す。
そこには。
「SNS上で活動している『神様』を捕まえたい」
私が追っているであろう人物と同一の特徴がその紙に刻まれていた。
「協力してほしい。この馬鹿げた執行者を止めたい」
「協力を断ったら?」
そう尋ねると、いきなりトランクケースを蹴る。すると何かが飛び出し、彼女の手に渡る。
気が付くと、私の首元に警棒が当てられていた。
「ご協力をお願いします」
「脅しでは?」
思わず私はそう言ってしまったが、目の前の警察屋さんは何も気にしていないらしい。ため息をつきながら私は答える。
「わかった、わかったから。ただこっちも仕事で動いている。見つけ次第対象は消させてもらう」
私がそう答えると意外なことに彼女は頷き。
「それでもかまわない。一刻も早くこの事件を終わらせたい」
本当に警察屋さんかよ。と思わずぼやいてしまいそうだった。
私は銃を太ももに巻いているガンホルダーへしまい、警棒からそっと離れる。すると彼女はまと警察手帳……モドキを再び取り出し。
「私の名前は小春・アンバーグラス。父さんの娘で国際警察の一人」
そう名乗った。アジア系の顔なのに、どうも変な訛りがあると思ったら海外の人だったのか。私は普段は袖の中にある左腕を出し、腕の内側に刻まれているタトゥーを見せる。
「シチリア、スピッツィキーノファミリー。名をデイアネイラ」
「デイアネイラ、デイアネイラ。うん」
彼女は何回か頷き私の名前を反芻する。そして首を傾げながら口を開く。
「どうして修道服を着ているの?」
またこれか。
毎度毎度聞かれるこの質問。辟易としながら定型文を返す。
「うちの上司の趣味」
そう言って私はこの場から立ち去る。
「何らかの手段で必ず連絡する」
背中でそんな言葉を受け止めながら私は歩き出す。そして中層の大通りを繋ぐ鉄扉を開き勢いよく閉める。
*がんっ。
「どうも、金雀枝さん」
ウチの机を強く叩かれる。
転入初日から絡まれるってマジ?
ウチは深いため息をつきながら三人のクラスメイトをにらみつける。お昼休みまでは全然普通だったのに、いきなりこの態度。先生のご機嫌を伺っている様子もないから、大人がいなくなってから強気になったわけではなさそう。
インナーカラー入れてるのがばれた? いや、さっきトイレの鏡で確認したときはまだスプレーの黒で隠れてたはず。お嬢様学校だって聞いていたのに、なんでこう高圧的な人間に当たるかな……なんて考えていると、向こうから口を開き始める。
「半年前、ニュースで見たことがありますの。生徒40人集団自殺事件」
その言葉を聞き、喉の奥がキュッと詰まったような感覚に陥る。こいつ……。
「集団自殺とはメディアが勝手に言っているだけみたいですね。本当は、違うんですから」
にやにやと笑いながらそいつはクラス中に聞こえるように言う。本当に趣味が悪い。
「創作の中だけと思ってましたわ。デスゲームだなんて」
「……で? なんでそれをわざわざここで言うわけ?」
ぶっきらぼうにウチは言う。にやにやにやにやと鬱陶しい。
「先生に聞きましたの。聞くの大変だったんですよ?」
「……口軽っ」
「まぁっ。本当のことなんですね!」
あの教師、びくびくしているなとは思っていたが……生徒の『何か』に屈したのか?
生徒と先生との交渉がまかり通るなんて、今まで通っていた学校とは何から何まで勝手が違う。
「クラスメイト40人を殺害し、デスゲームに生き残った生徒……金雀枝真緒。また学校へ通うだなんてどんな神経してますの?」
「あんたにそんなの関係ない」
「関係おおありですの。もしまた貴女が暴走したらと考えると……クラスメイトに被害がおよぶなんて考えたくもありませんわ」
こいつ、本当にイライラする。横にいる金魚のふんもなんか言っているがギリギリウチに届かない程度の音量で言葉を発していて、何を言っているのかわからない。
呼吸が荒くなる。怒りと悲しみで。
殴ってやりたい。今すぐにこいつを黙らせたい。
「やだ怖いわぁ。わたくしたちも殺されちゃうのでは?」
そう言い、彼女はウチのことを煽る。人の琴線に触れるのが随分得意なことで。お望み通りとウチが拳を握ろうとしたその時。
パンッ!! という大きな音が聞こえる。破裂音にも似たその音の直後、ウチのことを煽った張本人が床へ倒れこむ。
彼女は何が起こったのか理解できていないようだった。
ウチも何が起こったのか数秒間理解できていなかった。最初こそはたいてしまったのかと自分の手を見つめていたが、そんなことはなく。
「恥を知りなさい」
名前は……名前はまだわからない。今朝、職員室と自席でウチに手を振ってくれた女の子が彼女のことをはたいたらしい。
「なっ……わたくしに向かって……!」
「人の傷口を土足で踏み荒らすなど、金雀枝さんが許しても、この西園金糸雀は許しませんよ」
さっきまでのおっとりとした雰囲気はどこへやら。彼女がうっとり眺めていたノートに描かれていた白丸の可愛らしい鳥みたいな雰囲気から一気に獲物を狩る猛禽類みたいな雰囲気に様変わりしている。
「苦手なものを排除したい、遠ざけたいという気持ちは尊重します。人間の習性であり、苦手な人と長時間居ると苦痛なのは理解します。ただ!!」
彼女は倒れ込んだ女子生徒の胸倉を両手でひっつかみ、無理やり立たせる。
「私の前で人を傷つけるのであるならば、それ相応の対応をしますよ」
こ、こえー……詰められていないウチですら怖がっていると、胸倉をつかまれていた女子生徒は震え始め、彼女……ニシゾノカナリアの手を振り払うと。
「行きますわよ……!!」
と言い、取り巻きと一緒に教室から出て行ってしまった。
転入初日からなんて日だ……なんてことを考えていると、ニシゾノカナリアが小さく震えているのが見える。
一応お礼を言わないと。そう考え口を開こうとしたその時。
「なんてことでしょう……なんてことをしてしまったのでしょう!!」
彼女は大声で言う。唐突の大声に私もクラスメイトもびくっと身体を震わせる。彼女が顔を上げると、なんだか顔色が悪い。
「私、クラスメイトに手を……しかも……っ、胸倉を掴んで……あぁぁぁぁ」
……どうやら彼女は考えなしにあの行動に出ていたらしい。すごい大慌てで「どうしましょう、どうしましょう!」と繰り返している。
私は少しだけ息を吐き、ニシゾノカナリアに言う。
「もしなんかあったら、一緒に怒られ、よう? ほらウチが先に喧嘩売ったことにすれば、あんたが悪く言われることもない、でしょう?」
「それじゃいけません! 嘘はいけません!!」
なるほど。不器用か!
心の中でツッコミを入れながら慌て続けている彼女を見る。
どうしたものかな……。
「本当に、本当にどうしましょう……そうだっ、彼女に謝って……わわっ!」
「ちょっ、危ない!!」
*バタンっ。
「あ。ちょび髭局長」
フランカの店で私がそう声をかけると、局長は一瞬だけ顔をしかめる。しかし何か諦めたような表情に移り変わり。
「お前なぁ。ツケはやめとけって言っただろう」
と言い、局長の隣の椅子を引っ張った。座れ、そう言いたいのだろう。
「で? 今朝のフランカシェフのメニューはなんだったんだ?」
「ズッキーニとドライトマトとモッツァレラチーズのパニーニ」
「俺よりいいもん食ってんじゃねぇか」
私は局長の隣に座り、フランカに言う。
「てきとーなパスタほしいっす」
「あーごめんネ。パスタ品切れ」
「えっ。なんか大口の客でも入ったんすか?」
「食いしん坊さんが昼にやってきてネ……今は米かパンしかないヨ」
「じゃあ米系で」
「あいよー」
フランカは私の注文を聞くと厨房へ引っ込んでしまう。局長はグラスを傾けながら私に言う。
「明日の早朝の仕事だが、ちょっと気を付けてほしい」
「いつも気を付けてるっすよ。やりすぎなくらい」
「それは重々承知の上で、だ」
局長は机の上にあったスマートフォンのロックを外し、画面を私に見せてくる。そこには局長が飼っている猫さんが映ってる。
「猫さんっすね。また太りました?」
「あ? あ、違う。これじゃない」
そう言って両手でスマートフォンを操作し、私に見せつけてくる。今度は大量のテキストが書かれている。私はそれを目で追いながら画面をフリックする。
顔を消された死体。骨まで溶けたジャンキー、出回り始めた謎の薬物、上層部の施設の一部破損および一部施設の突然の厳戒態勢。
「なんか嫌な予感がするんだ。優秀な配達員を死なせたくはない」
局長はそう言い、スマートフォンをしまう。そしてまたグラスを煽る。そんな局長を見ながら私は。
「大丈夫っすよ。きっと」
そう言い、局長がつまんでいたであろう生ハムを横からかっさらう。
「あっ、俺のハム!」
「一枚くらい、いいじゃないっすか」
「それで一枚で済んだ試しがないだろ、ほら言ってるそばから!」
「ほっぱいっす」
「こんにゃろ!」
今日も人工島は息をする。人々の喜び・悲しみ・怒りすべてを飲み込んで。
鼓動を続ける。
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