買い出しとダブルデート③

時間は14時半を少し過ぎたあたり。俺たちは本来の目的である買い出しをするためにスーパーに入った。

「何を買うんだっけ?」

「水と氷。後はスポドリの粉。蜂蜜とレモン。まぁそういった食べ物、飲み物関係ね。今日のうちにある程度作り置きしておきたいわ。」

「じゃあ結構な量がいるな。」

「その為に二人を連れてきたのよ。男手は絶対に必要だから。」

成程と思う。

「でもそれなら部長が必要だったんじゃないか?あの人が一番筋力があるぞ?」

「ダメよ。カップル二人の仲に一人だけなんて拷問に等しいじゃない。その分イチャイチャできるんだから頑張って。」

「あ、はい。」

確かにそれはそうだ。こうやって手を繋げるのも後ろの二人も手を繋いでいるからだ。そうじゃなきゃ店の中では手を放していただろう。

早速俺たちは水のコーナーを見て回る。

「箱で買う?」

「そうね…。嵩張るけどどうせ使い切るしね。」

「箱かぁ。往復する?」

「そうね。一回じゃ無理でしょ。」

頷いて箱に二箱入れる。バスはここからそう遠くない。

「二人とも買い物が手馴れてるわね。」

桐生先輩に声をかけられた。

「まぁ付き合いも長いんで。中学の時もこうして買い物をしてたんすよ。桜はバスケ部だと俺に声をかけてきてたので。」

「だって貴方以外と二人で歩くと告白とかうざかったのよ。あの時はお互い幼馴染にご執心だったんだから丁度良かったでしょ?」

桜の言葉にふふっと桐生先輩が笑う。

「確かに颯汰君は一途よね。いや鈍感なのかしら。一人しか見れない呪いにかかってる?」

「嫌味ですか?今絶賛二股中ですけど。」

ジト目を向けると更に笑われた。

「おい、志保。あんま笑ってやるなよ。特殊な状況だし仕方ないんだから。」

要先輩がフォローをいれる。別に言い訳する気は無いけど。

「ごめんなさい。でも大変ね。王子さまは守るものが多いものよ。貴方はまるで物語の主人公の様な人だから頼りたくなっちゃうわ。因みに魔王は東堂仁ね。金と権力にものを言わせる大魔王。そのジョーカーが貴方ね。」

「まぁそうっすね。いつだって水の中でバタ足して溺れないようにしてる残念な勇者ですけど。」

俺は何も持っていない。才能に関しては何一つ。持っているのは諦めない心と丈夫な体。親がくれた宝物だ。だから多少の無理は通して大切な人の為に努力できる。

「そこが格好良くて目を離せないのよ。だから私は颯汰が好き。世界中の誰よりも愛してるわ。」

桜の声が後ろからかかる。そうだ最強の装備があった。勝利の女神の愛。これがあれば負けないし負けられない。

「本当に眩しいほどに素敵なカップルね。要。貴方も優勝を目指してね。」

「分かってる。あの男にそれでパンチを入れれるんだろ?ウインターカップも取りに行くさ。」

「ふふ。それでこそ元婚約者。さぁ運んじゃいましょ?何週かするんでしょ?」

何か腑に落ちない言葉が聞こえたけど流して俺たちは水運びに集中した。


すべて運んだバスの中、桜は疲れ切って俺の肩に頭を乗せて寝ていた。

要先輩の方を見ると要先輩が頭を桐生先輩の胸に埋めながら寝ていて苦笑する。

「あー、あと1時間余裕あるが夜景でも見に行くか?」

運転手がそんなことを言い始める。

「あら、いいんですか?」

桐生先輩が聞くと運転手はまぁなという。

「伝統なんだよ。俺は引退してから数十年運転手をしてるからさ、こういうことは毎年ある。その度に夜景が見えるスポットに連れてってやるんだ。俺も過去に同じようにしてもらって今はそいつが嫁なんだ。あの時の運転手には感謝してる。だから同じようにしてやることにしてんだよ。」

「流石伝説の卒業生ですね。」

「よせやい。昔の話だ。」

何のことだかさっぱりわからない。

「あの…。何の話ですか?」

「あら?知らないの?彼はウチの高校のOBで元プロよ。知っている人は少ないけどね。名前も名乗んないし、学校の名前も変わってるから。」

「マジすか…。」

「昔の話だ。膝をやっちまって引退したんだよ。15年前になる。このバスは俺の持ち物で、俺は顧問の教え子なわけ。まぁそんなことはいいだろ。行くのか?行かないのか?」

「勿論行くわ。一回行ってみたかったの。」

その言葉はまるでどこに行くかを知っている様な言葉だ。

「はは。アンタは怖い姉ちゃんだな。どこまで知ってるんだか。」

「知ってることだけよ。」

そういって微笑みながら要先輩の頭を撫でる。この人だけは敵に回せないなと苦笑した。


バスが止まる。俺は桜を揺り動かす。

「ふにゅ…。着いたぁ?」

「旅館じゃないけどな。」

俺の言葉にきょとんと首を傾げて一つ欠伸をした。可愛い。

要先輩の方を見ると向こうも起きたようだ。顔にチャックの後がついてる。少し面白い。

「15分だ。それしか待てねぇからな。」

一切名乗らない運転手が扉を開ける。俺は桜の手を引いてバスから降りた。

「凄いわね…。」

「あぁ。」

手を繋いで夜景を見る。俺たちの住んでる街より遥かに光が多い。

空を見上げるが夜景は見えない。都会は星が見えないというのは本当だったらしい。

ここから旅館までは45分。旅館のご飯は19時。ギリギリだ。だけど15分でも見る価値がある。

「もう少し暗かったらもっと綺麗だったかもな。」

俺が呟いた瞬間花火が遠くで上がった。

「綺麗…。」

「マジか…。これはとんだサプライズだ…。」

ここまで見越しての15分。今は夏休み。どこかで花火大会がやっていてもおかしくない。

運転手の彼をチラリと見ると花火を見ながら煙草を吸っている。ナイスガイとは彼の事を言うのだろう。

もう一度花火を見る。

「桜。俺は必ず成し遂げて君と結婚するよ。」

ここで彼は結ばれたと言っていた。きっとそういう場所なのだろう。だからこそ俺たちを連れてきたのだ。

「うん。必ず幸せにしてね?」

花火を背にキスをする。俺には桜しか見えず、誰かに見られてるとかは考えなかった。



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