第41話 監視者


ーいよいよ……。

 が動き出したなぁ………。ー



今の時刻は………9時38分……。


が爆誕してから1年と少しが経った。


今日はの日だ。

が一歩を踏み出し、ついに歴史が動き出す記念すべき日。


はと言うとここ数週間、今日を心待ちにしすぎて一睡もできていない。

……おっと時間……。

……………………まだ38分のままか…。




「…大丈夫ですか……」

「…あん?」

「いやだから、大丈夫ですかって聞いてるんです。ここ最近ぽかんとされてばかりですよ。」


ふぅん。自分でも知らねぇとこでボーっとしちゃってたか、、



。 


「まぁなんだ。心配するな。」

「あの、心配するなってほうが無理ですから。昨日の会議も目ぇガン開いて虚空見つめてニタニタ笑ってますし、今日は数秒に一度のペースで時計見てそわそわしてらっしゃるじゃないですか。

何か楽しみにしてらっしゃることでもあるんですか?」

「おー。まぁんなとこだな。

今日を以って…やっとってもんだな。」


俺の回答の真意を汲み取れなかったらしく

このカーリーヘアの美人部下は、歯切れの悪そうな返しをした。

「ふぅん……。


あ、でもけい……………むっ…。」




うるせえうるせえ。

それ以上喋るな

幾ら美人で心地の良い声をしているとはいえそれ以上俺に小言を言うくらいなら黙っていろ。二度と喋らなくても一向に構わない。

俺は今最高に気分が上がってるんだ。

9時39分になった。



あと21

あと21に動きがある。



「……え?…ねぇちょっと警部…」

「………あんだよもぉ……」

俺はわざと機嫌が悪そうな顔を作った。

「…どこ行かれるんですか……?」

「……ヤニだよヤニ。黙って行かせろ。」

「…またですかぁ……?」




…ったく。口うるせぇ奴が居るってのは

難儀なものだな。

こんなことならとかにでもなるんだったな。

わざわざ警察じゃなくて。


ただまぁ、が見つかるのも時間の問題で、の適正も既に生まれているはずだ。


もう少しの辛抱だろう。

に比べればな。





一応こんな能力持ちの奴を認知してはいないが、仮に他の奴の頭ん中を覗き見る事ができる奴がいたとしよう。

もしそいつが俺の頭を覗いたら、きっと俺は躊躇無く頭のイカれた奴だって烙印を押されるんだろうが、



理解できなくて当然だ。



誰も知らなくていい。

誰も何も知っていなくていい。





……何を語り手っぽく言葉を組み立てててるんだ俺は。そろそろ興奮で本格的に頭がイカれてきたか。


俺はそう自嘲しながら、煙草を吸いに行くと机を立った手前、外に出て携帯電話を取り出した。

そして15分ほど前、先ほども煙草を吸うと言い訳して外に出て、電話をした相手を再び呼び出す。

すると予想通りワンコールで繋がった。



「どうだ様子は。」

「先ほど、赤髪あかがみの友人らしき人物がカラスを車に乗せて去って行きました。

どうやらクソ烏先うせんつもりはないみたいですね。」



俺は心臓の鼓動が早くなっていく音を聞いた。

脳が痺れ、眼球の真裏がざわつくような

滅多にない極限の期待と興奮が波のように

心へ押し寄せてくる。


……か……」

「?何か言いました?」

「あぁ、気にするな。それで?」

「赤髪の家から半径500メートル以内に存在しているは私の確認し得る限り37台ですが、どれが烏先かはまだ…。とりあえずまだ動きはありませんが…。」

「俺も、もう向かっとくかな。」

「それがいいかもしれません。」

「おっす。ありがとうな。」

「いいえ。それでは後ほど。」




いよいよか。

俺はカーリー部下にしばらく戻らない旨を伝え、車に乗り込んだ。

目的地は赤髪の家。

警察署ここから最寄りの駅まで車。そっから電車に乗ったほうが早い。


妙にエンジンの低い音が心地良い。

興奮している証拠だ。











お前らの人生はこっからだ。


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