第35話 げえせん

ーウィィィィン……。 ガシッ…。ー



「これ……取れる世界線あるかな……?」

「……まぁ、これまでの傾向からすると

十中八九無理だと思うが…。

なにかの間違いで取れるってことがあるかもしれねぇだろ?」

「もう1000円も使っとるんやよ?そろそろ

女神様微笑んでくれな心折れちゃうよ。」

「…俺神とか信じてねぇんだよな。」

「あははっ。神社の子なのにぃ?


でも…………

……私は結構信じてるかな神様。…って、」



「「あ」」



バタンッ。


「取れたな」「取れたわ」



「「…………」」


「これからは神って存在を疑って生きていくよ。」

「そうね。それが良いと思うよ。」



くれぇぷ屋を後にして約四、五十分。

俺達はげえせんにずらりと並んだ機械に

夢中になっていた。



例えば


てれびの画面のような物に分身を映し出し、それが搭乗する車を操作して競争する機械や、

面積のでかい円状の浅く突き出た突起や、

縦横無尽に可動する棒を忙しく操作し、

画面に映っている人間同士を戦わせる機械。


どちらにも勝ち負けの概念があり、凛央さんに勝つことはできなかったが、体験したことのない興奮や臨場感が楽しめてどれもよかった。


しかし、

車の競争では彼女の失敗を逆手に取り、つたないながらも慣れがきて、一時は独走を決め込んだものの、凛央さんの策略に嵌まってか、空の滑空中に青い甲羅が俺に狙いを定めて直撃してきたせいであえなく落下。

大幅な時間を無駄にしたところで今度は緑の甲羅を投げ付けられて追い抜かれ、逆転を

許してしまった。


格闘のやつでは

操作方法や操作方法をしっかり読み込んだ

うえで挑んだものの、凛央さんの手慣れた

連撃をかわしきれず、牽制けんせい技に釣られて体力を大きく削られたせいで、あっけなく敗北してしまった。

しかも最後は行動を読まれて大技をぶち込まれる始末。


これらには極めて強い悔しさを覚えた。



俺はこれまで、腐っても剣道を研鑽けんさんしている武人ならば、相手に行動を読まれるなど論外であり、実力が足りない愚者であると思っていた。しかし格上というのは敵の行動をよく観察し、それを逆手に取って一瞬の隙を作り、勝利へと繋げる存在なんだと思い知らされた。

そんな興味深い気付きも得られた。


しかし一番興味深いのはやはり

今俺たちが興じているこれ。




くれえんげえむというやつだ。 



機械を技量や感覚、直感に任せて操作することで、上手くいけばぬいぐるみや菓子が

手に入るという引き時の難しい遊びだが、

今のように景品が手に入った時の嬉しさというと堪らなかった。

凛央さんと協力してと考えるとそれは尚更。


俺は獲得した白くて大きいお化けの

ぬいぐるみを取り出し、頬を擦り付けて

抱きしめた。

舌がでろんと飛び出ていて、刺々しい歯を覗かせながら怪しく笑っている一方で、つぶらで愛着の湧く目をしている。

しかも俺の足から腰くらいまではある大きな大きな存在感。



「ふふふ。のりおこっち向いて。」

「え?…って、むっ…………。」


ぬいぐるみに抱きつく姿が余程可笑しかったか、凛央さんは携帯を使ってそんな俺を写真に収めた。 

やはり彼女は笑っていた。


ぬいぐるみではしゃぐなんて餓鬼かよ


と、嘲笑されているのかと一瞬思ったが

そうではなかった。

それにしては彼女の笑みは穏やかすぎた。


「よかったね。」

「…うん………、」

「え?なんで照れてんの?」

「……え…?」

頬と額が腫れたように熱い。

「な、なんでもねぇよ。」



どうやら俺は、穏やかな凛央さんの顔を見て本当に照れてしまっていたらしい。

なんとか誤魔化そうとしたが、彼女には全てお見通しだっただろうな。

結局最後の最後まで彼女には勝てなかった。



☆☆☆☆☆☆☆



外はもう既に暗くなりかけていた。

薄い橙色の空にからすが飛んでおり、一日の終わりと冷たい夜の始まりを想起そうきさせるこの時間が、俺は案外好きだった。



停めてあった原付に跨り、再び走り出す。 


目的地は本屋。

凛央さんの友人宅が営む個人書店。

俺は少し壁の変色しつつあるような

田舎の街並みに溶け込んだ古めの建物と、

そこで一日の仕事を終えようとしている

若い女性を想像した。


「楽しかったー?のりおー」

「おう。めちゃくちゃ楽しかった。

こんなに穏やかに暮らせた日…初めてだ。」

「…………。

…そっかぁ。よかったよかった。

のりおが楽しかったんなら、よかった。」

彼女はぱちりと目を細めた。




凛央さんっ。

「んー?」

「あんたって歳幾いくつなんだ?」

「えー。普通それ聞いちゃうかー?

…どんくらいに見える?」

「………二十二くらいか?」

「お、いいねぇ。」

「…え?、合ってんのか?」

「んーんー。25さーい。」


つまり……、俺より十三も年上か。


やっぱ到底二十代とは思えない程

慈愛に満ちた優しい人だな、と思った。









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