第34話 視線

ーそれからの俺達は手を繋ぎながら歩いたー



やはり白髪はくはつ赤髪あかがみの組み合わせというのは目立つのだろうか?


さっきから髪を染めている人間はちょくちょく見かけるしすれ違ったりもするが、そいつらは俺達ほど視線を浴びていないように思える。

きゃつらが鈍感なだけかもしれないが、俺としては好奇の目や凛央さんの美貌故か当てられる羨望の目に、ぎょろぎょろ捉えられていくのがわりときつかった。


まぁきっと、俺と凛央さんが明らか年離れて見えるってのも原因の一つなんだろうが。

 


しかしそれを抜きにしても。







そのなかにただ一つ。

俺は明らかに異色なる視線を感じていた。


まるで監視されているかのような。

じとっとしたぬめりのある視線。

勘違いならいいんだが、

殺気のような肌に突き刺さってくる鋭さが

含まれている気さえする…………。




「えっ!ここクレープのお店なんて入ってたんだぁ。……あーー。んー。

バナナのやつ美味しそうだなぁ…。


ねえねえのりお。


…………のりお?…どした?」


「…あ、いや。なんでもない。」


視線自体が勘違いにしては、あまりにも鮮明すぎる。しかし俺がどれだけ周りを見渡しても、嫌な視線の主らしき人物は見当たらない。

ずっと生暖かい風が吹いているような感覚が肌に纏わりついてくる…。


「ホントに大丈夫?」

「おう。大丈夫だよ。」


視線それを無視するわけでは無いが、

凛央さんとのせっかくの外出なんだ。

彼女にそんな存在が居ることを知られる訳にはいかない。



俺は気味の悪さと何故か胸に揺蕩たゆたう不吉な予感を拭いきれないでいたが、無理矢理心を切り替え、凛央さんと くれぇぷ

という名の甘味を頬張った。




☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆





「ここにも本屋さん入ってるんだけどさぁ。

近くにある別の本屋さん寄ってでもいい?

辞書買うの。」



俺のくれぇぷに乗っていた蜜柑みかんが無くなり、凛央さんが最後の一口を飲み込んだとき、彼女はそう言った。


「…別に良いけど。なんか理由わけがあるのか?」

「うん。実はそこ友達の家でさ。

書店してるとこなんだ。最近会えてなかったから会っときたいなーと思って。」

ふうん。そういうことか。

「いつからの付き合いなんだ?その友人とは。」

「ん、中学のときだよ〜」

…というと、同級生だろうか?

俺は彼女くらいの年の女性を想像した。


「明るくて良い子なんだ。」

俺は彼女がそう言うのを聞いて安心した。

凛央さんの友人ということで、もとより

嫌な人間だと決めつけてはいなかったが

それが裏打ちされたような瞬間だった。


…彼女の言うことはなんでも信じてしまうな。

極端な話だし、自分でもこれは悪い癖だと

自覚をしているが、凛央さんがもし地球が丸くないと言い出したとしても、言い分に少しでも頷ける部分があれば俺はとことん信じてしまうかもしれない。

地球は丸いと、既に裏付けられているに彼女が歯向かおうとしていたとしても。


でもきっと彼女はそういう周りの視線なんか気にせず生きられる強い人間なんだろうな。

彼女は言っていた。

髪を染めると世間からの風当たりが強い、と。

彼女の髪に落とし込まれたあかじみたあかあか

そんな派手な色の彼女が言うんだから説得力がある。

それでも彼女は

自分の好きなもので生きていく、と言った。


彼女は強い、本当にしみじみそう思う。



話を戻すが

彼女の友人という肩書を持つ人物だからと

いって、俺と合うとは限らない。

俺からしたらとことん嫌な奴かもしれない。


やはり俺はと聞くだけで

まず一番に嫌な印象を抱いてしまう。


ある種それも悪い癖だぞと、俺は自分に言い聞かせた。




「さてと。それ食べたら辞書買って帰る?

それとも、まだここでなんかしてく?」

俺は返答に詰まった。

「なんかって例えば…?」

「え…?なんかっつったらなんかだよ。

ゲーセン行ったり遊んだり。


……そういう欲…のりおには無い…?」





これは良い機会だと思った。

普通の人間はげえせんに行って遊ぶ。

それを学ぶ機会。

きっと楽しい思いができるだろう。


それまでは腰を下ろしていたが、やがて立ち上がった凛央さんに俺は

「じゃあ遊びたい。げえせんに行きたい。」

と言った。


なぜだか俺は初めて

自分の意見を素直に伝えられた気がした。


これまでは心のどこかで気を遣ったり、

申し訳ないなと思いながらだったり、

凛央さんの優しさに絆されてだったりで、

遠慮がちだった俺が折れて意見を言うことが多かったように思う。

促されてではあったが、さも気が変わったかのようなごく自然な流れで意見を言えたことに関係の進展のようなものを感じ、俺は嬉しくなった。



「よし。なら行こか。」

「おうよ。」



げーせん…。

一体そこはどんな場所なんだろうか。



興奮する気持ちを抑えつけながら、先ほどの視線のことなどすっかり忘れ、俺はくれぇぷを口に詰め込んだ。






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