第21話 朝ごはん

ー 眩しいなっ… ー


窓から差す日の光を煩わしく思いながら俺は目を覚ました。



…あ…、ここ凛央さんか………。




昨日の記憶を辿る。

凛央さんに抱きしめてもらっていたところまでは覚えているが、そこからの記憶が無い。


…泣き疲れて寝たとか言わねぇよな。

……だとしたら…残念だな…。


手札というのは俗な言い方だが、もう殆ど

俺の正体は明かした。

もう隠し事はないと、神に誓ってもいい。

まあ神なんか信じてねぇけど。



凛央さん…どこ行った…?



「…っお……。」 

何やら青い紙に書き置きがされてあり

それが緑色の筒で押さえてある。


どれどれ……、ふふっ…。

凛央さんって字は案外汚いんだな。

丸くて可愛らしい字をしている。


まぁ、大人は筆を持つことなんか滅多にないだろうし、字の上手さが低下するのなんて仕方ないんだろうが。



〘おはよのりお。 重たいかもしれんけど

朝ごはん電子◯◯◯に入れてあるから食べて。昼には帰ると思うけど遅くなるかもしれんでお菓子つまんでいいからね。 自由にしとって。〙

とのことだ。  




電子◯◯◯……。

この片仮名を解読しようと思ったがそれなら向こうに行って探したほうが早いだろう。

お菓子…は、この緑の筒か。


なにやら極めて薄いじゃがいもを揚げたような菓子だな。片仮名ばかりで読めはしないし、玉ねぎと白い液体の絵があるだけで味の想像できないが、どんな味なのか興味が湧いた。昼時が楽しみだ。


凛央さんが寝室として使っているであろうこの部屋を開け、ひんやりとした廊下を通って二つの扉を見つける。

片方はかわや

もう一つはさっきの部屋より一回り大きい、黒く茶色い木のような材質の部屋だった。


奥には机や椅子、流し場や冷蔵庫などがあり、生活感が漂っている。




お、…。


机の手前にある黒い液晶。

これは…てれびというやつか……。


あの糞家にもあった。

だが俺は見られなかった。

なにがなんでも見せてもらえなかった。


見てもいいかな…? 

きっと凛央さんなら許してくれるだろう。


てれびの側面にある電源を弄り

程なくして液晶が光りだした。


…うわっ………。


『ーては続いてのニュースです。

昨夜九時頃、岐阜県の園崎さんのお宅で新種のミノムシが発見されました。これに対し各国の専門家は今日の昼にでも向かって調査したいとコメントしており、我々の取材したドイツ在住で世界的にも有名な美野蟲田先生は本日朝8時頃、岐阜県に向かったとのことです。独自に園崎さんにインタビューを行ってみると

新境地を見せてやる、

とのコメントがいただけました。

今やミノムシが世界的なブームを巻き起こしています。次はどこで新種のミノムシが見つかるんでしょうね。お、続いての速報です。北海道の発寒に在住の川端さんのお宅で、またまた新種のミノムシがーー』



いかんいかん。

てれびが珍しくてつい見入ってしまった。


ちなみに内容なんか上の空だ。

なんだよみの虫の専門家って。


すげえなてれびって。

これが当たり前にある世界ってすげえな。



てれびはつけたままで

とにかく朝飯を探そう。

んーと…、……冷蔵庫…ではない。

電子なんたら……



あっ。


これかも。


台の上に黒い箱があった。

その中には皿が三つ入っている。


小さい皿が一つとそこそこ大きな皿が二つ。

どうやら温めと書かれているところを

押せば、温かくしてくれるらしい。


へぇ…。こんな機械もあるんだな。



ぴー!ぴー!ぴー!! 


その装置を起動させて数秒後

やがて高い機械音が温めの終了を合図した。


がこんと取っ手を手前に倒すと

米と油の香りに混じって

鼻を刺激するような香りが飛び込んできた。


皿を見ると、赤黒くてどろどろした汁…?

のようなものがその香りの正体だと察した。


豆腐やえのき茸、ねぎが浮かんでいる


俺は熱さに耐えながら、机に白米、揚げ物、そしてやばそうな赤茶のやつを置いた。


流し台にあった箸を使って手を合わせ



いただきます




と誰もいない部屋に向かって言った。

俺の声が虚しく部屋に響く。


特に理由なんかなかった。

これまでの俺なら絶対やらなかった。

強いて理由を言うなら、

凛央さんならやってそうだなと思ったからだ。



さて…………。

一番気になる赤黒い汁。


ん………。くそっ……。


箸じゃ掬いづらいな……。

口つけて飲むか……。

…ずずっ。

……っっ辛っ!?!?!

んであっつ!!!!!!!!





これっ……あれか……?!


白米と食うのか……?!

些か辛すぎるだろう…。 



こんなもん食いもんじゃねぇと割と本気で

思ったが、辛味を白米で緩和し、ほくほくとしたじゃがいもの揚げ物で箸休めをしながらなんとか完食した。





とっても美味くはあった。一応な。


流し場で食器を泡で洗い、流し台に立てかけて一息。


てれびはいつの間にか、若い男が大きな車の上で歌う場面に変わっていた。


『心配かけたー♪あなた傷つけたー♪』


そんな歌詞の内容を聞きながら

まだひりつく口の中を気遣って水でも貰おうとした。しかし、冷蔵庫に視線を移す前に全く別のものが目にとまった。




お…これは……?


それは棚に置いてあった一冊の本。

他の本とは違って、明らかに分厚く題名がない。

何故か急激に興味をそそられた。

俺はそれを手にとって中を見た。


、……おっ………あ………すご……




その中には絵の写真がたくさん入っていた。

そのどれもが撮られたもののようで

売り物ではないことがうかがえる。






もしかしたら…凛央さんの作品集か…?

やっぱ凛央さんは本当に画家なのか……?




俺は始めのぺーしの、人間と林檎の絵を眺めた。


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