第9話 噛み合わない
ー はんばーぐ… はんばーぐ… あ。 ー
凛央さんが勧めてくれたはんばーぐに興味が湧いた俺は、めにゅう表から
○○○ー◯
といった文字の配列のものを探し出した。
その中でも一番値の張らないものを指差す。
仮に口に合わなかったらやらしいかなと
思ったからだ。
「これだ。これがいい。」
「うん。いいよ。」
「……………」
「……………」
「ん…?」
「…まさかそれだけ…?」
「…? おう。」
それを聞いた凛央さんは
なぜか困惑を示した。
「えっ? それだけ?
…………お腹減っとるんやろ?」
「? おん。だいぶ腹ぺこだ。」
俺としてははんばーぐが食えればなんでもいいんだが…。
「え? 遠慮なんかしんくていいし
遠慮のしかたヘタすぎじゃない?
それも頼めばいいで他のも選びなよ。」
……え?
別に遠慮なんかしてるつもりなんかないぞ?
どう意味か問いたかったがそれを堪え、
代わりに
「遠慮なんかしてない。それでいいんだよ。」と答えた。すると、いよいよ眉を寄せて俺を見つめてきた凛央さん。
「……どう考えても遠慮しとるやろ…」
と呟いたのを俺は聞き逃さなかった。
少し考え込んだ後
「嫌いなもんとかアレルギーとかない?」
と聞いてきた。
…あれるぎー…?
…………あぁ…。いかんいかん。
こうして会話中に間を空けるのは……。
「どっちもねぇ。なんでも食うさ。」
些か納得のいかない様子だったが、それを聞いた凛央さんが机の隅に置いてあった小さなからくりを押し込むと、数秒後さっき席を案内してくれた女と同じ服を着た細身の男が現れた。
「お伺いします。」
「コレ2つください。」
「はい。以上でよろしいですか?」
そんなやり取りの末に凛央さんが頷くと
その男は厨房の方へと戻っていった。
洒落た湯呑みに水を注ぎながら凛央さんが口を開く。
「調子乗って量多いやつ2つ頼んじゃった。
食べれなかったらあげるね。」
「は? 待てよ。なんでだよ。」
値段の安くて量の少ないやつで良かったのに。
そんな俺の問いに 「なんでも。」 と答えになってない返答をしながら
「ここのご飯美味しいから大丈夫だよ。」
と続けてきた。
「余計なことすんなよ。」
と言葉に出して責めようと思ったが、凛央さんの顔に「嫌がらせなんかじゃなくて、ただアンタに腹一杯になってほしいだけだよ。」と書いてあるような気がして気勢を削がれた。
「それに……」
「…?」
「単品のハンバーグだけでお腹膨れるわけないやんか。」
と凛央さんは言った。
………単品…………?
単品というと……
はんばーぐのみということか?
想像していたような味噌汁や白飯もなく?
確かにそれでは腹は満たされないだろうし
遠慮をしていると思われるか…。
…くそが。分からん言語や常識があるってのは難儀だな…。
早いとこどうにかしねぇと…。
それに、めにゅう表を見直すと俺の指していたものと凛央さんの頼んでいた料理の金額には千円以上の差が開いていた。金額やら量やらで、図らずも気を遣っていたかのように見せかけてしまったわけか。
…量多いやつ頼んでくれたって言ったっけな…。仮に口に合わずとも食べきらなければ。
でも凛央さんが頼んでくれたやつなら…
…凛央さんと同じやつなら…
……寧ろ食べねぇと駄目か……。
「結構量多いからね。覚悟しなよ。」
「…そうかよ。………ありがとうな。
俺の気持ち…汲んでくれて…。」
彼女の笑顔に当てられたというのもあったが、垣間見える凛央さんの優しさに触れたのが大きかったのか、照れずにありがとうと言うことができた。
そんな性に合わない俺の自発的なありがとうに多少驚いたようだったが、それに対して
凛央さんは微笑みを返してくれた。
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