第6話 優しい女-情けない俺
ーかくして体は心の芯まで温まり
指も
俺は女の貸してくれた大きめの手ぬぐいで体を拭いて風呂場を出た。その時に気付いたのだが、風呂場の天井が丸みを帯びた構造をしている。 珍しいな、なんて思った。
すると洗濯機の上にはおそらく無難な物を選んでくれたであろう、…しゃつ。
…とか言ったか。
そんな名の浸透した黒い西洋下着と、
白い柄の入った緑の下履きが
畳んで置いてあった。
下着の下履きは使い回しでいいな。
胸のあたりだけが微妙にゆるいのに違和感を覚えたが、衣類を全て纏った俺はあの糞家とは違う、木のぺたぺたした感覚に新鮮味を覚えながら、さっきまで寝かされていた部屋に向かった。
そして扉を開けて思わず目を見張る。女が
煙草を吸いながら
携帯電話を弄っていたからだ。
煙草は容姿や性格を問わず
人間を沼にはめるんだなと再確認した。
同時に心の中で勝手に作っていた女の像の色ががらりと塗り替えられたような、なんとも言えない喪失感も感じていた。
だが
容姿が云々と言っておきながらも、
目を伏せて煙草を少々
何だか艶やかでどきっとさせられた。
しかしなんとか動揺を隠す。
「お、さっぱりしたね。」
女はにこっと微笑んだ。
「パンツは使い回してくれた??」
ぱんつ…? あ、下着の下履きか…。
「……おう。」
…なぜだろう。どこかもやっとした気持ちになった。
不安のような、後ろ髪を引かれるような
……
「ん。パンツは買いに行ったらなあかんね。」
………その言葉を聞いて
焦燥感の正体がわかった。
そして、同時に少し安心した。
俺はいつまで…
ここに置いてもらえるのだろうか。
この女は………………
……………………優しいから…。
俺の家の全容を知らないから…。
もしかしたら家出してきた餓鬼を匿うのが
本当にそいつの為になるのかということを
考えてくれているかもしれない。
育てていくのに余程の自信がある奴か…
後先の考えられない
家出したのがませてたり色気のある餓鬼で
拾ったのが下心のある奴だったらば…
実家に戻るのを引き止めたり
居候を許し続けるのかもしれない。
だが…俺と女にこれらは当てはまらない。
これは俺の思い込みだが…。
拾った主が、家出した餓鬼をいつまでも
匿い続けるのが正解だという結論には至ることはないのではないか。
あの女も…。
もしかしたら今にでも
「一週間もしたら帰り。」
なんて言うかもしれない。
……でもそれはまだましな方なんだろう…。
「明日には帰るんだよ」
と言われる可能性だってあり得た。
しかし
「パンツも買いに行ったらなあかんね。」
と言ってくれた以上、すぐに俺に帰宅を促すつもりはないと分かって安心したのだと理解した。安心と同時に、なんだか嬉しかった。
そんなことを考えていると…
女はまだ三分の一ほどはあった煙草を、
近くの蒼くて透明な灰皿で揉み消した。
「ごめんごめん。 煙吸わしちゃったね。」
…あ、俺のこと気遣って揉み消したのか…?
「いや、別に気にしてなかったし…
吸ってていいんだぞ…?」
そう言った俺の声。
それが自分には幾分幼稚に聞こえた。
「いやダメでしょ。
…まだ子どもなんだから…。」
俺は舐められたと思ってむっとしたが
俺のことを気遣ってのことなんだと気付いたのを思い出し、黙る他なかった。
ありがたいけどさ。
…それじゃ居心地が悪いじゃねぇか…。
風呂に入って落ち着いたからか
何故かとんでもなく情けないことを
思ってしまった自分がいる。
あぁ…
なんかこの女には…
嫌われたくないな……
さっきまで利用するだのなんだの考えてた
自分がとんでもなく恥ずかしいな…
って。
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