第3話 はじめての気持ち

一 何がだよ・・・。

好きで髪染めてやがる奴に

  何がわかるっていうんだよ!!ー



心の中でそう叫びながら

もう3発顔面に入れてやった。


女の端正な顔がぐにっと歪むたびに発せられる痛そうな喘ぎ声を癪に思いながらも、まだ まだ手を止めてやるつもりはなかった。

肘を引いてもう一度振り抜くべく拳を固める。その末に放った一撃はかろうじて壁にいなされたが、拳の痛みは即座に怒りへと変換されて女に向く。しかし…。


「うわっ!?」


俺は足元を払われて尻餅をつかされた。

まずい。


「・・・調子乗りすぎやなクソガキ。」


案の定女は仰向けの俺に馬乗りになってきた。ばたばたと手足で暴れたが、それがたいして意味をなすことはなく、女の左手によってあっという間に両手を絡めとって押さえ込まれた。

存外女の力が強いせいか、

はたまた俺の不調ゆえか、全く抵抗はできなかった。 まもなく自由な右手を浮かす女。

まあ・・・殴り返されるわな・・・。

悔しかったが、観念した俺は目を瞑った。

くるっ……。



べたあああぁ一一っ……



…え…?


目を開けると女は笑っていた。

しかも右手にはいつの間にか絵の具のついた筆を持っている。

まさか…

俺の顔面に・・・・・…

なんか描いてやがんのか?!?


「やめろおおおおおおおお!!!!!!!!」

「あはっ! やだね!!!」


怒気丸出しの叫びをあげる俺と、

にこにこしながら一斉の淀みなく筆を走らせる女。しばらくは叫び続けたがいつまでも喉が続くわけもなく押し黙るほかなくなり、されるがままになってしまった俺。

終いには冷たい絵の具と柔らかい筆が擽ったいだなんて間の抜けたことしか感じなくなっていた。


「よしっ!! かんせー!!!」

体感5分は続いた顔面塗り絵がよっぽど楽しかったようだ。

女は腹を抱えながらけたけた笑っている。


「なにが可笑しい!!」


女の小馬鹿にしたような笑顔にむかついて

そう怒鳴ると、女は目を鳩にした後吹き出した。

「あははは! なにが可笑しいって鏡見てから言いよー!!」

女は俺の腹を軽く叩きながら馬乗りの体勢を崩すと周りを見渡して手鏡を手繰り寄せた。

それを乱暴に寄こす。すると・・・・・・。


「ふふふ・・・・・・!」突然口角が上がった。


目元の下に皺ができたのを鏡が教えてくれた。


・・・認めたくはないが・・・・・・。

紛うことなく俺は・・・・・


「どお? おかしいやろ??」


笑ってしまったらしい。


頬には黄色の渦巻き、目元と口まわりは濃い緑、その他は耳に至るまでがめだしぼうのよう に黒く塗られている。

苛々してるのに・・・。

むかむかしてるはずなのに・・・・・・。


なんで………………。


女が俺の肩に手を置いて顔を覗き込んできたのでそこに唾を吐いてやろうかと思ったが、 なぜかそれすらできなかった。


「可笑しかねえよ………………」

そう言って強がるが女はむくれた様子で再び鏡を向けてきた。

其処に映った二番煎じは、女の目論見通りまたしても俺の笑いを誘った。

「ふふふ・・・・・・! っああもうくそがああ!!」

「あはっ!ほれみ!!やっぱ笑っとるやん!!!」

五月蠅うるせえ!!可笑しかねえ!!!」

もはや弁明など不可能だった。




こんな気持ち・・・

初めてだった…………………。

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