同期

4月中旬、新入部員が揃ってきた。私を含め今年は4人だ。しかし妙なことに、私以外は男の子で先輩からは心配をされた。演劇部は通常女子部員が多く、男子部員は非常に珍しい存在なのだ。人間付き合いが苦手な私にとって、女だの男だのそんなのはどうでもよかった。私が怖いのはひとりぼっちになること。まず体験入部からいっしょの彼に話しかけてみた。

「えっと、奏多君だよね、改めてよろしくね」

「あ、うん。そうだね、よろしくね」

奏多君こと赤坂奏多、彼はいつもにこにこしていた。ひとまず仲良くはなれそうだ。彼の隣にいる子にも声をかけてみた。

「ひろき君だよね、よろしくね」

「・・・うん」

ひろき君こと大村ひろき、彼と初めて目があったのは5月の終わりだった。

もう一人は同じクラスの子で、尚且つ席が隣だった。社交的な子で、あっちからよく話しかけてくれた。彼の名は冴島こうだ。その頃はコロナ禍で、演劇部に入部したものの、部員と顔を合わせる機会は例年に比べ少なかったそうだ。それでも4月後半に朗読の大会があって一年生も出られるということで、私と奏多君は出場することになった。他の二人は任意であったため、今回は出ないことになった。大会当日、奏多君は母親と待ち合わせの場所まで来た。彼が携帯を与えてもらったのは高校に入ってからで路線などはよくわからないらしい。ちなみに私も高校に上がるタイミングでスマホを与えられた。大会のルールは、至って簡単で、与えられたさまざまな教科の教科書の指定されたページを学校ごとに工夫して読むというものだった。私たちの学校は家庭科だった。セリフ分担をして、読み方の工夫をして、と先輩方は試行錯誤していたが、私たち一年生は取り敢えず与えられた文章を大きな声で読むこと頑張ることにした。控え室で、奏多君は何回も何回も与えられた文章を呟いていた。非常に真剣な表情で私は少しだけ怖いという感情を抱いた。私たちはパンナコッタの作り方を、おかしく、悲しく、楽しく朗読した。他の学校の作品は面白くて、同時に圧倒されて少し辛かった。大会はあっという間に終わった。控室の後片付けをして、荷物を全て持ってから再集合をして結果発表だ。控え室で先輩は

「今回はしょうがない。次の大会では頑張ろう」

と言っていた。私もそんな気はしていたがやはりダメなんだと実感した。早々荷物をまとめ、再集合場所に行った。参加校16校、その内最優秀1校優秀賞1校と決まっていた。参加校は皆集まっていたが結果発表が妙に遅れていた。私は早く帰りたくてしょうがなかった。奏多君の表情は見えなかった。数十分後、ようやく審査結果の発表になった。最優秀は部員が数十人いる強豪校だった。次に優秀賞。ここで審査の先生が予想だにしなかったことを言った。

「今回は優秀賞が2校あります」

私は頭の中で、どこの高校が優秀賞を取るのか予測してみた。もう自分たちが取ることはないだろうと考えていて、逆にこの予測を楽しむことにしたのだ。

「優秀賞は、影山高校と徳立高校です」

徳立。一瞬時が止まった気がした。徳立。私の高校だと認識するのに時間がかかった。歓声と拍手が会場を賑わせた。前に座っていた奏多君は私の方を振り返って、手を上に上げた。ハイタッチだ。彼はぐしゃぐしゃの笑顔をしていた。私は涙をこぼした。

そのテンションのまま奏多君とツーショットを撮り一年生のグループラインに送って賞を取ったことを自慢した。奏多君も私もぐしゃぐしゃの顔をしていて、ひどい写真だったが、祝福の返信をしてくれた。帰り際に顧問の先生にアイスが買える程のお金をもらって、みんなでスーパーで買ってその場で食べた。奏多君はコロコロアイスという何個か一口サイズのアイスが入っているものを買っていた。私はジュースを買った。

「それ、私食べたことないな。美味しいの?」

「ごめん、蓋に口つけちゃった」

別に私は一口くれなんて言ってないのにと言おうとして飲み込んだ。

「え、いいよ。今度買ってみようかな」

「ん、美味しいよ」

次の日買ったコロコロアイスは甘くて、冷たくて口の中がじんわりした。


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二人 羽田 舞愛 @Manaka0622

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