始まり

高校1年生の春。私は徳立高校演劇部を訪ねた。当時私は、普通高校に通いながら劇団に通うことを考えていたが、一応高校の演劇部も見ておこうと思ったのだ。というのも、私は小学生の頃から演劇というものに強い憧れを抱いていたが、小学校や中学には演劇部がなく、演劇に対する思いを日々募らせてきたのだ。そんな軽い気持ちで参加した体験入部から、三年間この部活でさまざまな経験をすることを私は当時考えもしていなかった。

演劇部に部室はなく、視聴覚室での活動を基本としていた。先輩は女の人ばかりで、距離感が近くてびっくりした。コミュ障だった私はその距離感に少し着いていくのが難しくて戸惑った。そんな先輩たちの中に背の高い男の子がいた。先輩との会話に笑顔で参加していて、先輩なのだろうと思っていた。「今日の体験入部はまいちゃんと赤坂君だけか〜」「そう見たいですね」とさっきの男の子が答えていた。彼は同級生だった。「よろしくね」にこにこと話しかけてくる彼は私とは正反対の人間なのだろう。そう直感した。彼の目が綺麗で、キラキラしていて眩しかったのを覚えている。帰り道、正門で「じゃあね」と言われて手を振ってみた。しかし結局彼も同じ電車で、駅までの道は妙に気まずかった。

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