二人
羽田 舞愛
再会
「あのね、おととい美容院に行ってね、髪整えようとしたんだけどさ」
彼はあの頃と変わらない、軽いセンター分けをしていた。約束の時間は10分ほど前で、湿った前髪から相当慌ててきたことが伝わる。久々に会った彼は、あの頃と何一つ変わっていなくて、私は泣いてしまうのを堪えるので精一杯でやっとの思いで言葉を絞り出した。
「行こうか」
彼はマスクを浮かせて、ゆっくり呼吸をした。
「なあ、自販機、あるかな」
「ホームにはあるんじゃないかな」
彼が買ったスポーツドリンクから結露が指をつたって滴った。それはとても綺麗で、思わず唾を飲み込んでしまった。彼は「ん?」と言わんばかりにこちらを見た。私は目を逸らした。これは、よくない。浮かれている私が自分で怖くなる。期待すればするほど傷つくことは分かっていた。分かっていて辛かった。彼が笑った。
「赤坂、元気だった?」
当たり障りのないことを、平然を装って話した。
「ん、元気よ。倉石は?」
「私も、うん。まあまあかな」
口角が緩まないようにするのに精一杯で、私は頑張って話した。
彼はふわふわした笑顔で、楽しそうに話していた。
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