おねえちゃんとお出かけしました 6

(そよそよと優しい風が吹き、木々が小さく鳴る)

(二人は喫茶店のテラス席のテーブルを挟んで向かい合っている)


「あ、ご、ごめん。変な話になっちゃったね。本当にごめん」

(何かまずいことを言いかけたというように慌てた顔になる)


「長々と湿っぽい話しちゃったね。ごめん。他の話をしようか。何か楽しいことのお話をしようか」

(取り繕うように別の話題を探す様子)


「え、えーと、どんなお話をしようか? あ、最近、世の中ではいろいろなこと、あったよね」


「そうそう。今年の初めに日本の無人探査機が月面に着陸したんだよね。すごいよね」

(声が次第に元の調子に戻って行く)


「その少し後にアメリカの民間の探査機も着陸したし……。去年は去年でインドの探査機が着陸したし、今年もこれから中国の探査機が行くんじゃないかな」


「月面探査機ラッシュ? 月面探査の新時代? 月の探査、これからさらに動きそうだね」


「人類が大昔から見上げてきた遥かな月」

(静かに語って行く)


「満ち欠けを繰り返しながらも、変わらずに空に昇り続ける月」


「月は、変化するものでもあり、変化しないものでもあり」


「月は憧れの象徴となることもあり、孤独の象徴となることもあり」


「美しい月の光に、人は自分の内面と向き合うこともあった」


「人に閃きを与えることもあり、芸術において様々な月が描かれた」


「人類は進歩して、月に手が届くようになった、探査できるようになった」


「でも、月にはまだ未知が多い、人々は今も想像を巡らせ続ける……」


「うふふ。君、こういうスケールの大きい話、好きでしょ?」

(声が元の調子に戻った)


「私、巣ごもりの間、よく一人で月を見ていたんだ」


「ねえ、二人でお月見しようよ。子供の頃、二人でお月様を眺めたことあったよね」


「今年のストロベリームーンやバックムーンは土日に重なるからさ、一緒にお月見しよう!」


「君のお部屋に行く? それとも私のお部屋に来る? どっちでお月見する?」


「私のお部屋に来てくれたら、宝物の絵本だってあるし、フルート聴かせてあげられるよ! 良かったら、私の書いたもの、読んでくれるかな……」


「うふふ。お月見の夜は晴れるといいね。いっぱいお喋りしよ!」


「さて、と。このお店でだいぶ話し込んじゃったけど、今日はこれからどうしようか?」


「今日からまた新しい思い出、作ろうよ」


「今までの思い出が癒しになったみたいに、新しい思い出も未来の癒しになるの」


「今までの私たち二人の思い出のページを混ぜるの。それでね、これからは一緒のページを描いていくの」


「私たちは一冊の絵本、一つの物語」


「そう。もう分けることができない一冊の絵本」






(風が強く吹き、木々が大きく鳴る)






「そろそろお店出ようか」

(二人とも支度を始める)


「さて、これからどこに行くかについてですが、私なりにいくつかプランを立てて来ました! 社会人は事前の準備が大切なのです! エッヘン!」

(得意気に胸を張る)


「コースも考えて来たし、今日は二人で街を探検しようよ。童心に返ってさ」


「街を歩けるなんて今のうちだよ。もう少し季節が進んだら、暑くてお外を歩けなくなっちゃう」


「だから、今のうちに探検しよう! 決まり!」

(元気に言う)


「あ、街の探検で思い出した」

(何かを思い出した顔になる)


「この街の外れにホテル、あるよね?」


「そうそう。あの西洋のお城みたいな形をしたホテル。林に囲まれたあのホテル。私たちが小学生の頃からあるあのホテル」


「二人であのホテルを眺めたよね。『うわーっ! すごーいっ! 絵本のお城みたい!』って」


「ホテルが泊るところだっていうのはあの頃の私たちも知ってたから、お父さん、お母さん、おじさん、おばさんに、あのお城みたいなホテルに泊りたいって頼んだんだよね」


「でも、お父さんもお母さんもおじさんもおばさんもすごく困った顔で、『あのホテルは子供が泊まるところじゃない』って」


「それを聴いて私たち、子供だったから、『あのホテルはオバケがいるんだ』、『子供はオバケにとじこめられちゃうんだ』って思い込んで怖がっていたんだよねー」


「うん。今はわかるんだ。もう子供じゃないから、よーくわかる。何で困った顔してたのか……」

(利口ぶった顔で頷きながら言う)


「あの頃の私たち、本当に子供だったから。ホテルの中で『お城のたんけんだーっ!』ってはしゃいで他のお客さんに迷惑をかけただろうし、周りの林に『森のぼうけんだーっ!』って飛び込んで怪我をしただろうし」


「親としてそういうことを心配したんだろうなって、大人になった今だからよーくわかる」


「でも、私たちはもう子供じゃない! そんな滅茶苦茶なことはしない! 今度二人であのお城みたいなホテルを探検してみよう!」

(輝くような笑顔になる)


「あれ? どうしたの? もじもじして……」

(不思議そうな顔になる)


「うふふふふふ。もしかして、オバケ、怖いんだー?」

(からかうような顔になる)


「大きくなっても中身は子供なんだなあ、君は。かわいいかわいい」


「オバケなんて出ないよ! おねえちゃんがついてるから怖くない! どうしても怖かったら明るい昼間に行けばいいんだし!」

(手を握ってくる)


「うふふ。社会人は事前の下調べが大切なのです! エッヘン! あのホテルのこと、調べておきました!」

(得意気に胸を張る)


「なんと、『御休憩』という昼間でも3時間利用できるプランがあるそうです! これならオバケも怖くない!」


「『御休憩』。きっとあの辺を歩いて疲れた人が休んで疲れを癒すためのプランだね。うーん、商売上手」 


「デートで歩き疲れたら寄ってみようよ。私たちもそこで疲れを癒そうよ」


「さてと、行こうか。ここの支払いはおねえちゃんに任せて! さあ、今日の楽しいデート、スタート! 新しい思い出作ろう!」






(完)

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いとこのおねえちゃんが久しぶりに訪ねて来ました 秋の隙間風 @akinosukimakaze

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