おねえちゃんとお出かけしました 5

(二人は喫茶店のテラス席のテーブルを挟んで向かい合っている)


「大学に入って、巣ごもり」

(ただ静かな声で語る)


「静かなお部屋の中で、カチ、カチ、カチ、カチ、時計の針が進んで、音を立てる」


「本を読む。本のページをペラリ、ペラリ、めくる」


「物を書く。白いノートにカリカリ、カリカリ、想いを書き連ねる」


「フルートを吹く。私の気持ちを音に乗せる」


「部屋の静かさが心の中の声を際立たせる」


『思ってた大学生活と違う……』

(記憶の中。心の中の声が響く)


「募る寂しさ、切なさ。瞼を閉じると君の顔が浮かんだ」


「君とのスマートフォンでのやりとりが私の癒し」


『元気にしてる? ごはんは食べてる?』

『睡眠はとれてるかな? ぐっすり眠れてる?』

『ちゃんと勉強してるかな?』

(記憶の中の声。スマートフォンで語りかける声が浮かぶ)


「とにかく君のことが心配で気になって、声をかける」


「巣ごもりの日々の中で、君の声が癒し」


「二人一緒に過ごすことができたらいいのになあ、そんなことを思う」


「心は思い出の中に帰る。思い出のページをめくる」


「小さい頃の記憶。私は思い出の中で小さな君と再会する」


「思い出の絵本、手を繋いだ温もり」


『つぎはこのえほんにする?』

『いっしょにおにわのおさんぽしよ!』

『またあそびにきてね。やくそくだよ。つぎはいつくる?』

(思い出の中の声。幼い頃の声が浮かぶ)


「そんなことを言ったのを思い出す」


「君との思い出が輝く。それが私の癒しになる」


「思い出のページが進む」


「小学生の頃。あの頃は本当によく笑い合った」


『おままごとしようか。わたしがママできみがパパ』

『公園であそぼ! ほら、ちゃんと手をつなぐの!』

『一緒に絵本作ろ! どんな絵本にしようか?』

(思い出の中の声。小学生の頃の声が浮かぶ)


「優しい風に吹かれながら、おままごとしたり、君の手を引いて公園に遊びに出かけたり、一緒に絵本を手作りしたり」


「君との思い出が私の心を照らして癒す」


「また思い出のページが進む」


「中学、高校時代。お家で君にフルートを聴いてもらったこと。定期演奏会に来てくれたこと。私の書いたものを読んでもらったこと。二人でお出かけしたこと」


『ねえ、私のフルート聴きに来てよ。少し吹けるようになったよ』

『今度の吹奏楽部の演奏会……。聴きに来てくれるかな?』

『もし良かったら……。私の書いたもの、読んでほしいな……』

『ねえ、タピオカって知ってる? 飲みに行こうよ』

『いつの間にか背が伸びたよねえー』

(思い出の中の声。中学生、高校生の頃の声が浮かぶ)


「あの日々が風となって吹き込む。私の癒しとなる」


「静かなお部屋。時計の針が進む」


「大学生活も後半になって、いろいろな制限が少しずつ緩和されて来た。でも、もう卒業論文と就職活動の時間」


「寂しくて、切ない」


「でも、私には君との思い出があった。君との思い出に癒された」


「そして、君とまた会うことを夢見た」


『おねえちゃんが来ましたよー!』

『お久しぶり! 元気にしてた?』

(イメージの中の声)


「君と顔を合わせて、笑ってそう言う日を夢見る。それが私の癒しだった」

(声が少しずつ明るくなっていく)


「私、気がついたの。私には君がいるって。ずっと前から君がいたんだって」


「巣ごもりは寂しかった。キャンパスライフを楽しめなかったのは寂しかった。でも、君との思い出に癒された。私は恵まれている」


「君がいたから癒しがあった。これから大変なことがあっても、君がいれば私は大丈夫」


「卒業して就職したら、大学生になった君に会いに行こう」


「二人でどんなお話しようかな? そう考えると私の心は弾む」


「大学生活は楽しめなかった。でも、君に会えば、失ったものを埋め合わせるどころか、もっと素敵なものが手に入る気がする。キラキラした時間がやってくる気がする」


「私、君のキャンパスライフを通して私の体験できなかったことの埋め合わせをしたいって言ったけど、実はそれだけじゃなくて、君を……」

(言葉が途切れる)


(風が強く吹き、木々が大きく鳴る)

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