おねえちゃんとお出かけしました 4
(そよそよと優しい風が吹き、木々が小さく鳴る)
(二人は喫茶店のテラス席のテーブルを挟んで向かい合っている)
「ねえ、昔みたいに私のお家にフルート聴きに来てよ。巣ごもりの時も吹いていたの。中学や高校の時を思い出して。それが私の癒しでもあって……」
「そう、思い出すなあ。中学に入って、新しい環境になって、友達できるかな、上手くやっていけるかなって、不安で」
(静かな声で懐かしそうに話す)
「中学生になったら文芸系の部活に入りたいなあ、あったらいいなあって思ってたけど、そんなのなかったの。困ったなあって思って……。自分で文芸部を作るなんてとてもとても」
「でも、入学して何とかできた新しいお友達がいて。その子に流されるように吹奏楽部に入ったんだけど、それが私にとっては当たり」
「入ってみたら楽しくて、新しい自分を見つけたって感じ。そこでお友達が少しずつできて、自分の居場所を見つけたって感じ」
「文芸系の部活が無かったのは残念だけど、これはこれでいいかなって」
「それで、私の楽器はフルート」
「吹奏楽部に入ってしばらくして『学校で友達と楽しく過ごせるなら』ってお父さんとお母さんが私にフルートを買ってくれて……、本当に嬉しかったなあ」
「うふふ。私がフルートを始めたばかりの頃、アンブシュア……、お家でフルートを吹く口の形を作る練習をしていたら小学生だった君が遊びに来てさ、私のこと見つめてね」
「吹奏楽部に入った話をしたら、君、『フルート聴かせて』って言って。その頃は始めたばかりだったから、『もう少し上手になったらね』って私が言ったらさ。君、目をキラキラさせて、『うん。楽しみに待ってる』って。それが私の元気になったの」
「部のお友達、お父さんやお母さんもだけど、君が私の元気に繋がった」
「そこそこ吹けるようになってきた頃、君が私のフルート聴いてくれたの、本当に楽しかったなあ」
「『また聴かせて』『次はいつ?』って、大喜びしてくれたっけ」
「あの時間は宝物。思い出の1ページ」
「で、高校時代」
「また環境が変わったし高校も文芸部はなかったけど、もう中学に入った時ほどの不安はないし寂しくもなくて」
「やっぱり吹奏楽部に入って、またフルート吹いて、また新しい友達ができて……。楽しかったなあ」
「小説やアニメの中の吹奏楽部と違って、中学の部も高校の部もエンジョイ勢で何かの賞を取るようなところじゃなかったけど、いろいろ楽しいことあったなあ。女の子しかいなかったけど私にとってはそれが良くて、和気藹々としていて」
「文芸の趣味や興味だってなくなったわけじゃなくて、この頃から読むだけじゃなくて自分でもいろいろ書くようになって、自分の想いを表現するようになって」
「そうだ。君の身長が私に追いついて、超えて行ったのもこの頃だったかな」
「私が高校生の頃も、家を遊びに行き来したよね」
「ちょっと恥ずかしかったけど、私が書いた物、読んでもらったり……」
「あ、流行ったタピオカ、一緒に飲みに行ったっけ」
(恥ずかしさを誤魔化すように話題を逸らす)
「うふふ。君、中学の時も高校の時も吹奏楽部の定期演奏会、聴きに来てくれたよね」
「まあ、私が呼んだんだけど、それでもいつも聴きに来てくれたの、すごく嬉しかったよ」
「観客席の君が目をキラキラさせて聴いている姿、拍手をしてくれる姿を想像して、いつも演奏に向かっていたんだから」
「それも思い出の1ページ」
「そして、私は大学に入った」
(声が沈む)
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