第9話 国津神・天津神について

 本作にはたくさんの神様が出てきます。

 ほとんどが登場人物紹介に書いてありますが、そこには書いていないお互いの関係性とか性格みたいなものを起源と合わせてお話してみようかなと思います。


 まず、国津神と天津神については前項でも説明した通り。

 高天原にいる、高天原から天降った神様が天津神、それ以外の葦原中津国にいる神様が国津神です。


 ですが、本作では「高天原」という言葉を現時点で使っていません。Ⅲで神在月の宴に直桜たちが向かう話がそろそろオープンになってますが、「神世」にしています。

「神世」「現世」「幽世」「黄泉(冥府)」が、本作における世界観です。

 今後、「高天原」を出すとしたら天照大神が住んでるところ、程度にしか使わないと思います。あんまり好きじゃないんですよね、この表現が。もっというと天照大神自体があんまり……。嫌いじゃないけどね。


 天照大神については、Web用じゃない小説で書いていて、自分の中で世界観が異なるので、仄暗にはあんまり絡ませたくないかな。今後のことはわからんので、出てくるかもしれないけど。今のところ出す予定はないです。


 本作に出てくる祓戸大神は天津神です。

 便宜上、本作では祓戸大神(直日神、枉津日神)祓戸四神(瀬織津姫神、速秋津姫神、気吹戸主神、速佐須良姫神)に分けていて、大神のほうが上位、四神は大神を守護するために武術に秀でるって設定にしています。

 実際、記紀や神社の祭神としては、そんな設定ありません。全部ひっくるめて祓戸大神で祓い禊ぎの神様です。ご注意ください。


 本作においての祓戸最高神は直日神です。枉津日神は同格の神様だけど、黄泉の穢れより生まれた「穢れた神力」を使う神様なので、イレギュラー扱いにしています。

 実際、祓戸大神に枉津日神は入っていません。入れるとするなら伊豆能売です。伊豆能売は、記紀に名前が出てくる割に、その存在自体が曖昧で巫女だったとか巫女が神格化した存在だとか後世の人々が思い悩んだ形跡しかないんですよね。


 記紀って神生みとかで沢山神様生まれるし、その中には名前しか出てこない神様も割といる。


 自分で創作してても、ありませんか? とりあえず名前出してみたけど、それだけになっちゃったキャラ。伊豆能売ってそういうキャラの一人なんじゃないかと思う。

 そんな風に思う神様が記紀には割と存在する。そこに意味を求めること自体が無意味な気がするけど、そういう物語の隙間を埋めようとアレコレ考えてしまうのが創作脳だと思うし、楽しいから良いのだと思う。二次創作に近い感覚でしょうか。

 今頃、古事記や日本書紀の編纂をした人が必死に考えている人たちを天から眺めて「隙間埋めるのに、ただ出しただけなんだよなぁ。そんな大層な役割とかないんだけど。やめて、恥ずかしい」とか思いながら手で顔を覆う姿とか想像すると微笑ましいです。


 必死に考えた後世の人たちの創作が実を結んで、それなりの神様になった例もあると思います。例えば鎌倉~室町辺りって物語の編集が盛んに行われていた時期ですよね。その辺の時代に、名前しか出てこなかった神様に意味が与えられたとして現代に至ったらもう千年~七百年近くは歴史ができるわけだから、立派に意味と役割を持った神様昇格です。二次創作が一時創作になっちゃった、みたいな感覚で面白いなと思います。


 かなり脱線しましたが、ウチの伊豆能売はそんなわけで人格を持たない魂のみの神様になりました。人の魂に寄生して人間を神様に類似の存在に昇格させ、祓戸大神を守る戦闘特化の巫女神様です。霧咲紗月が人類最強と謳われるのは伊豆能売の魂を移植された人間だからです。

 戦闘特化の巫女って設定はオリジナルですよ。そんな記述は記紀の何処にもありませんのでご注意ください。


 そんでまぁ、祓戸大神である直日神と枉津日神は、表裏の神って設定が気に入ったので、この二柱を大神にしました。

 直日神様には正統派の神様然とした性格でいてほしかったので、枉津日神はちょっとおちゃめな神様になってもらいました。

 特に枉津日神は、本作では「おうつひのかみ」と読ませていて、怒ると真名が出て「まがつひのかみ」になるって設定がⅠからあるので、普段は可愛く、怒ったら国ごと壊しそうなやべぇ神様みたいな性格になってます。実際は枉津日神まがつひのかみと読みます。惟神である清人が大好きな神様なので、清人に何かあったら日本が亡ぶ。清人には巧くやってもらいたいものです。

 直日神と枉津日神は仲良しで、よく二柱でお酒を飲み交わしたりしています。


 祓戸四神については、実は祓戸神の中で一番の年長が速秋津姫神なんですね。伊弉諾と伊弉冉の神生みで生まれた水戸神です。

 だから生まれとしては直日神や枉津日神より早い。けど本作では大神を守る四神です。何となくお姉さんなイメージで、一番慎重で思慮深い女神様になっています。神様の本質を考えると速開都姫神って漢字の方が実は好きなんですが、惟神の瑞悠に合わせるなら秋津の漢字の方がいいんだろうなと思ってそっちを採用しています。


 気吹戸主神は直日神と同一視する考え方があって、それが定説っぽくなっていたりもするんですが(出典が中途半端に古いんでね)、私はあまり好まない考え方なので、本作ではガン無視しました。だから性格も役割も全く違う神様に作ってあります。

 基本的に別々の神様を同一視するって思想そのものがあまり好きじゃないです。瀬織津姫神と禍津日神とか速佐須良姫神と須世理姫とかね。それはソレ、これはコレ! なんで一緒にしたがる? って思う。

 まぁその辺は神社とか中央とか創作とか学問とか、それぞれの大人の事情が垣間見えたりはするんですけどね。だから余計に嫌。


 四神もそれぞれに仲良しですが、大神とも仲良しながら敬ってくれる関係性です。速佐須良姫神だけが特殊な立ち位置で、それについてはおいおい本作の方で書いていきたいなと思います。


 そうそう、大神の二人は無性ですが、四神は性別があります。気吹戸主神だけは明記されていないので、他の三柱に併せて女神として奉る神社もありますが、基本は男性神とされている場合が多いです。

 他の三神は名前に姫って入ってるからね、わかり易いよね。


 神様の名前って分解すると何となくどんな神様かわかります。たとえは速開都姫神の場合、「速」は美しいなどの敬称、「姫」は女性(性別)、開都が名前(港を守る神様なので)、で神と。水戸(港)を守る美しい女神様って意味ですね。秋津は後世の当て字です。


 んで、他に天津神として本作に出てくるのは、武御雷神です。主人公・直桜に稲玉を分けてくれた強くて優しい兄ちゃんみたいな神様。

 武御雷神については神在月の宴で登場しますが、一緒に出てくる罔象より若々しい感じになってます。

 古来より存在する国津神にとって天津神なんて童みたいなもんだと思うから。

 武御雷神は今後も本作に登場する予定です。まだ出てきてないから、詳細が書けない。後で追記しようかな。


 本作に登場する国津神は、前項でも紹介した熊野そのものである神倉梛木、竜神・罔象。大国主命と少彦名命ですかね。

 竜神罔象みつはは水の女神様で、やはり有史より以前から存在した日本最古の国津神の一人です。主人公・直桜に水の加護を与えた女神様です。

 個人的に罔象という神様が大好きなので、絶対どこかに出そうと思っていました。奈良県に丹生上川神社というお社があるんですが、上社・中社・下社と三つに分かれていて、どこも壮大です。

 中社が神社の起源で、後世で上社と下社が増設されました。

 山の上にあるお社なんですが、山頂に大きな湖があります。緑青をした水面がとても美しくて、周囲を覆う木々が湖を守っているように見えます。上社から見られます。

 中社には、信仰の起源となった滝があり、周囲より温度が低くて水が冷たく、雰囲気が幻想的です。とても安心する場所でした。

 残念なことに下社には足を運べていないので、お参り出来たらまたどこかに書きたいなと思います。


 川上神社を詣でても、熊野を詣でても思いますが、おそらく人間が文字を得る前、縄文の頃から信仰の原型はあったのだろうなと想像させる世界観があります。

 水の信仰や磐座いわくら信仰は、だからこそ温かく恐ろしいのだと思います。

 同じ空気を大神おおみわ神社にも感じます。御山そのものが御神体で、神殿がない神社です。三輪山にはロマンが詰まっているので、語り出したらそれこそ本が一冊書けてしまうから語りませんが、そのうちに仄暗にも関係キャラを出したいなと思います。


 大国主命については、どうしても気の毒な神様って思いが強いですね。

 出雲については、人間臭い視点で語る場合と、あくまで神世として語る場合で、自分の中で分けた世界観を作っているんですが。

 神世として語るなら、梛木の熊野や罔象の丹生に近い感覚の場所として捉えているし、本作でも描いています。

 本作中で武御雷神と罔象が「この国には妖怪の侵入を許容する神域が多い」「神も妖怪も明確な区切りはない、大差ないさ」というやり取りをするシーンが出てきます。まさにこの考えが、天津神と国津神の考えや在り方の違いだと思っています。

 熊野や丹生、出雲は妖怪の侵入を許容する神域なわけです。勿論、本当に邪悪なモノやガチの穢れは弾きますが、それ以外の、例えば本作の化野護のような「墓守の鬼」に生まれて穢れと忌み嫌われてきたけど実は優しい鬼、みたいな存在は弾かない。むしろおいでませ的なね。

 天津神にはそれぞれに明確な役割や性格があって(記紀で生まれた神様だし物語的要素が強いキャラ的な存在だから仕方ないんですが)、国津神ほどほんわかしてない。ダメなものはダメ、全部斬ります、みたいなイメージがありますね。

 生まれた経緯と存在意義の違いなのだろうと思います。

 天津神も国津神も、どっちもそれぞれに良い部分があって好きですけどね。


 少彦名命は、小人のような体の神様、豊穣や薬の神って時点でマレビトだよね。そういう記述をしている本は幾つかありますね。 

 マレビトって疫病神とかではなくて、渡来系の神様の意味です。海の向こうから新しい知識や技術をもたらしてくれる神様です。悪いモノを持ち込む悪神も、もちろんいます。

 南か北に多い信仰ですが、海沿いには割といる神様です。

 稲穂にぶら下がれるくらい小さいとか、葉っぱに乗って飛べるくらい小さいとか、とにかく「小さい」を全面的に主張してくる記述が多い。可愛いしかないやん。

 まぁ、小さかったんでしょうね。ビックリするくらい小さかったんでしょう、きっと。

 少彦名命が来てくれて協力してくれたお陰で、大国主命が治める葦原中津国はとっても栄えた。そのせいで国譲りとかさせられる羽目になったけれどもね。だからこそ、天照大神に良い感情がない。それは別の話ですが。

 大国主命は本作では体がでっかい神様にしているので、少彦名命とはとても良いコンビだなって思ってます。でっかい大国主命はおおらかな性格の神様、少彦名命は勝気な少年風味。大型犬と小型犬のイメージで性格設定しました。

 本作では主に薬祖の神として活躍してくれていますが、医食同源じゃないけど、食は薬なり。食べることと健康は切っても切れないものなので、その辺は区別せずに描いています。

 大国主命と少彦名命は基本、神在月の出雲でしか出てこないけど、今後もどこかで出せたらいいなぁと思います。



 なんだか、今回は長くなってしまいましたね。

 3000字前後を目安にしていますが、5000字は超えないようにしたい。




 さて、次回は「頼光四天王」について。


 また長文の補足コメント書かれるのかしら(笑)。

 迷惑だし余計なお世話だなぁ。

 



 

本作はこちら↓

『仄暗い灯が迷子の二人を包むまで』

https://kakuyomu.jp/works/16818023212261037641


『仄暗い灯が迷子の二人を包むまで・Ⅱ』

https://kakuyomu.jp/works/16818093078564930840


『仄暗い灯が迷子の二人を包むまで・Ⅲ』

https://kakuyomu.jp/works/16818093081595698958


※現在Ⅳを執筆中(まだ非公開)。

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