第4話 幼馴染との同室生活は快適です2



「でもさあ、俺、実のところ一回聞いてみたかったんだけど」

「何がだ」


 それは、ある日の昼食の時のこと。

 俺にも一応、ルイ(ルネ)の他にも何人かは友達と呼べる様な存在はできていた。

 そのうちの一人が、今目の前で昼食を共にしている、ダグことダグラス・モルダーである。


「男だとわかってる俺でさえ、時々一緒にいてドキッとすることがあるのに。お前は四六時中ルイと一緒にいておかしな気持ちになることはないんか」

「――無いな」


 ダグのからみを、ほとんど間髪入れずに一刀両断する。


「即答ー」

「いや無いだろ。だって男だし」


 いや、本当は男じゃ無いけど。

 女だって知ってるけど。

 でも考えてみてほしい。

 今ここで、俺にそう答える以外にどんな答えがあっただろうか?


 しかも今ここには、俺の真横に


 ちなみに、話題の当人であるルイ(ルネ)の方はというと、「こいつら何言っとんじゃ」といった顔でもぐもぐと食事を咀嚼そしゃくしていた。


「……ま、そうだよね。ユーベルは僕の妹のことも知ってるし」

「え、なにお前。妹いんの」

「うん。妹って言っても双子だけどね」


 そしてそう言っているお前自身がその妹ご本人様ですけどね――、というツッコミは、心の中で思いながらも決して口に出しはしない。


「えー! なになに! 紹介してくれよ! お前の妹っつったら絶対に美人じゃんかよ!」

「え、ダグに?」

「決まってんだろーが! 他に誰がいんだよ!」


 ルイの妹、と聞いてにわかに身を乗り出し始めたダグに、ルネが虚をつかれたように困惑した様子を見せる。


「……どうなの?」

「なんで俺に聞くんだ」


 そうして、ダグに対する答えの代わりに、俺に意見を聞いてくるあたり一体どういうことなのか――。

 ルネいわく、「だって、ユーベルはダグもルネも両方知ってるし、中立的な立場として」ということらしいが。

 ……ダグからの「頼む!」という圧と、ルネからの答えを求める圧に挟まれて、なんとも非常に居心地が悪い。


「……まあ、本人がいいなら、いいんじゃないか」


 このあたりが、双方に対して及第点の解答だろうと思って口にすると、ぱああっ――、と表情を明るくさせたダグに反して、ルネは途端に機嫌を損ねたような仏頂面になる。


「ふぅん……。ユーベルは別にいいんだ……」

「ありがとう! ありがとうユーベル! やっぱり持つべきものは友達だよなあ……!」


 ぼそっとこぼしたルネの呟きは、感極まったダグには届かなかったらしい。


「ごちそうさま。次の授業の準備したいから先に行くね」

「えっ」


 そう言って、すんとした様子で立ち上がるルネだったが。

 いや、俺お前が食べ終わるの待ってて無駄な駄弁だべりを繰り広げていたんですけど?


「ちょっ、待てよルイ。俺も行くって」


 そう言いながら、ダグに対しては「悪り、先いくな」と謝りを入れつつ、慌ててルネを追いかける。


「……なんだよ。何怒ってるんだよ」

「別に怒ってなんかない」


 ――嘘つけ。明らかにさっきの会話の途中から機嫌損ねてるくせに。

 こういう時、不機嫌さを隠そうともしないのもルネのルネたるところだった。

 ルイだと、不機嫌になる話題に触れられた瞬間、瞬時に感情を殺して、その次には何事もなかったかの様な顔をする。


「おい、ルイ……」

「もういい。ほっといてよ。ユーベルのばか」


 俺が、先にずんずん進むルネを引き止めようと腕を掴むと、振り向いたルネがどこか傷ついた様な顔でそう言い捨てて、掴んだ俺の腕を振り解きまたスタスタと先に進んでいく。


「えぇ……」


 ほっとけと言われても……。

 同じクラスだから、向かう先も一緒なんですけど……。


 そう思いながら、はあ、と軽くため息をついて、ルネが視界から消えない位置を保ちながらゆっくりと後についていく。


 結局その日。

 周囲に対しては取り繕う術を思い出したルネは、しかし俺に対しては最後まで態度を直すことはなかった。


 ……まあ、明日になればさすがに機嫌も直るだろ。

 楽観的な俺は、そう思いながら、そのまま静観を続けることに決めたのだった。



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俺のことを好きな幼馴染が男装して寄宿学校に押しかけてくる。そしてルームメイトとして居座る。 遠都衣(とお とい) @v_6

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