第6話 靴磨き
「もう、いい! 私、先に行く!」
高良からひったくったローファーを履いた京子は、玄関の戸を引き開ける。大体、父も母も、高良を甘やかせるからこうなるのだ。
母はふとした拍子に高良の靴の汚れに気がつき、どうせ夫や娘の靴磨きのついでだからと、高良の靴まで磨いてやると言い出した。
さすがにそれは図々しいと、厚かましい高良でも感じたのだろう。
中田家の靴磨き用のブラシであったり、クリームなどを使わせてもらうに留まった。すると、高良は中田家の靴磨きを『仕事』として自分がやると、申し出た。
「おばさんに甘えてばっかりじゃ悪いから」
などと、愁傷なことを言い足した。
高良のあの天使のように清らかで透明感ある容貌ではにかまれたら、老若男女イチコロだ。
京子だけは自分の靴には指一本でも触れるなと、何度も何度も言い聞かせても、忘れた振りをされている。
「先に行くって、どうせ同じバスに乗るしかないじゃん」
京子が靴を履く間、そんな嘲笑が飛んで来た。
同じ高校に通う二人は、同じバス停から同時刻のバスに乗っている。他に通学方法がないからだ。
小馬鹿にされた京子は肩越しに睨みつけ、わざと乱暴に玄関ドアをバタンと閉めた。
家の離れで下宿をしている超絶美少年との同棲同然の生活は迷惑です! 手塚エマ @ravissante
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