第43話 登洞圭三 フズル砦の一夜
異世界に飛ばされて、いろいろあってオレはいま、ショボい砦の牢に入れられている。
つくづく
健人と話していたら、さっきまでうずくまっていた男が、
誰だコイツは?
「ねぇ。日本語で話していたよね? キミたちもアピュロン星人に、この世界へ送られた日本人なんだよねッ?」
「は? 誰、これ?」
「日本人だな。コイツも異世界に転送させられた被害者だろ?」
かなり若い。まだガキだ。
それと、かなりやつれている。オレらより先に牢に
こいつは……特に戦力になりそうに無いな。わざわざ関わるのもめんどうだ。放っておくか。
「実体化したら、いきなり現地人に襲われて捕まったんだよ。ボクをパトロアに引きわたせば、報奨金がもらえるとかでさ……もうこの世界、めちゃくちゃだよッ!」
話の内容が不明瞭だな。異世界人に捕らえられたときの混乱がまだ続いているのかもな。
とりあえず、コイツの話からオレらみたいに転送された者は、この地域の国に差し出すと金銭がもらえるってことはわかった。
あと知りたいのは、オレらが金になる理由だな。
「え? なんだって? オレらみたいに日本からきたヤツは、なんらかの犯罪者な扱いのか? たとえば不法入国とかの?」
「そんなのボクはわからないよ。捕まえたときにヤツらがそう言っていただけで────」
「そいつにかまうなタケ。黙って座ってろッ」
オレらを捕まえる理由は、わからないのかよ。
なかなかに、
なんで、転送してきたヤツは捕まえられるのか?
現地人は、どうやって別世界の人間を見つけているのか?
この2つは、この砦のヤツらを、痛めつけてでも必ず確認しないとな。
「キミたち、笑ってる? 牢屋に捕らえられているんだよ? 引き渡されたら処刑されるんだよッ! 笑ってる場合じゃないってッ!」
「処刑ね。そりゃ確かな話か?」
「看守が言ってたんだッ! 本当だろうよ!」
「なんの罪で死刑なんだよ。転送されたら死刑なのか? オレらはこの世界の敵なのかよ」
ここに来たばかりで、この世界に関わりもないのに、もう殺されそうになるなんてな。
考えても、さっぱり意味がわからない話だ。
この世界にとって、転送された人間には、まだオレの知らない秘密があるようだな。
「理由はわからねぇが、オレらは完全に何者かにタゲられてるみてぇだな。タケ、地球人はこの世界のヤツにカモられてるぜ」
なに爆笑してんだ、タケ。この話に笑いの要素なんかゼロだろ。
ああそうか。ナメられていると思うと笑うんだったな、コイツ。
「アンタたちは、ここに入れられたばかりだから、まだわかっていないのだろうけど。本当に危ないんだよ。危険すぎるんだ、この場所はッ! 逃げないとダメだ。同じ日本人なんだ、助け合おうって」
「同じ人種だと助けあわなきゃならないという意味がわからねえ。おまえは、なにができるんだ? オレらは、近いうちに
「得って……どうせ逃げるのなら、ボクもついでに出してくれたっていいだろ?」
健人は絡みあきたらしく、後はオレに任せるという目配せをしてミール・ユニットから水のボトルを出して飲んでいる。
なんでもオレに押しつけるなよな。まったく。
「ああ、いいぜ若者。ここから出してやるよ。ただし……」
手の平にアピュロン星人のナイフを出す。
「かわりに報酬としておまえのアメニティ・ボックスに入っている、このナイフをよこせ。アピュロン星人から貰ったヤツがあるだろ? それを渡すんなら、ここから出してやる」
「なんで、アメニティのナイフなんか欲しがるんだよ。自分の分があるだろう?」
「渡すのか、渡さないのかを、聞いているんだが?」
若者が固まっている。睨んだのがマズかったか。
いちいち、めんどくせえなッ。
コイツが恫喝に慣れてない普通のヤツだったのを忘れていた。
「わ、わかり、わかりましたよッ」
「オレは登洞圭三、こっちは登洞健人」
「ボクは花地本利文……です」
健人が花地本の肩を叩く。
「じゃ、カジポンだな」
花地本は、固まったままうなずいている。
アメニティから出したナイフをタケへ差し出す手が震えていた。
「お、お願いします」
「よし。これで契約成立だ」
「じゃあオレらは寝るから、また夜な」
健人は流れるように横になり、ノータイムで寝息が聞こえだした。
「え」
「少しでも眠っていたほうがいいぞ、花地本」
「いや、こんな状況でとても眠れないですよ。というか、この人ほんとうに寝たんですか……」
「寝たフリする意味がねえだろ」
健人の奇行に、ひいてやがるな。
この花地本っていう普通の若者は、こんな調子でこの先やるかやられるかの異世界で、生き残っていけるのかね。
まあ、オレの知ったことじゃないか。
────地球の時間で午前2時になったようだ。
視界の隅から明かりが広がる。アピュロン星人の目覚まし機能だ。
「もう時間かよ。まだ眠いなッ。でもあんがい汚ねぇ石の床の上でも眠れるもんだな」
「あ、起きる時間ですか……」
「花地本は、やはり眠れなかったのか。しかたねえか」
健人はまだ寝ている。こいつもアピュロン星人の目覚ましをかけていたよな。
かなり眩しかったはずなのに、コイツの神経はどうなっているんだ? 朝まで寝る気かよ。
「このバカヤロウが……」
健人が起きるまで待っている理由がないな。
アピュロン星人のナイフを2ミリの長さにセットして健人の尻を刺す。
「エヒャイ!」
飛び起きてジタバタする健人の口をおさえる。
寝起きまでうるさいヤツだ。
「あ、頭おかしいのかッ! なにしてくれてんだッアニキィ」
「騒ぐな静かにしろッ」
「騒ぐに決まってんだろ! ケツ刺されたんだぞ、おいカジポン見てくれ、尻に穴が増えてんだろ? おいカジポン!」
「嫌だよ見たくないよッ、止めてよ」
「静かにしろ。コロすぞッてめぇら、こっちは牢破りしてるんだぞ! バカヤロウがッ」
ダメだこりゃ。奇襲作戦は失敗だな。
こんだけ騒いだんだ、じきに誰かが来るだろう。
どうせカチコミなんだし、かまわねぇけどさ。めんどうだよなあ。
「いまから牢を出る。ただな、オレらが戻るまで花地本はここにいた方が安全だぞ」
「ここにいる? ボクも一緒に逃がしてくれる約束でしたよね? もうナイフは渡したでしょう!」
「落ち着けよカジポン。牢屋からは出すって言ってるだろ。
「牢屋からは、出す? あなたたちは、ここから出た後どうするんですか? まさか逃げないとか?」
そうだな。普通はそうだよな。報復なんて考えないか。
ナメられたら、やり返さなきゃいけないという発想しかない健人は、花地本に呆れているけどな。
「はぁ? 逃げるわけないだろ。ここまでナメられて、いいように扱われてよぉ。はい、さようならってのは、無いわ」
「じゃあ、どうするんですか、火でもつけますか?」
「もちろん全員を殺るんだよ。取りこぼすと向こうから殺しに来るからな」
「もちろんて────」
花地本が健人の言葉に息をのんで固まっている。まさか殺しをするとは思っていなかったのだろう。
「そうだアニキさ、この世界の事情を聴くんだろ? 1人くらいは残そうか」
「だな。あとオレら以外にも捕らわれている囚人がいただろ。あれにも聞こうぜ。その他のヤツらは皆殺しにしとけ」
「登洞さん、あなたたち本当にッここのヤツらを殺すつもりですか? 人を殺せるんですか……」
理解が追いついたのか、花地本が急に焦りだした。
「殺しに来たヤツは殺す。そういう世界なんだろ? ここは。それならオレらも、そのルールに従うだけだ」
「でもッ、どうやって? 砦のヤツら全員なんて、できっこないですよ、相手は武器もった無法者の集団で。大勢でボクらを殺しにくるんですよ?」
「こうやってだ」
オレが掌の四角い棒を振ると同時に、カチンッという硬い音をともなって錠が床に落ちた。
「き、切れた! このアメニティのナイフは、鉄も切れたのか……」
「説明書はちゃんと読んだ方が良かったな」
まじめに説教たれていると後ろで健人がオレを指さしている。
「この男は、そんなヤバい道具でオレの尻を刺したんだぜ? まじでイカれてるよな」
後ろの健人は無視して、ナイフの刃をしまうと花地本へ話を続ける。
「アピュロン星人にとっては果物ナイフもチェーンソーも一緒らしい。同じカテゴリーなので、こんな小さなナイフでも強力な切断性能がある」
金属の塊を見つめている。アメニティのなかのナイフを、取りだして見たこともなかったようだ。
「ちゃんと説明文を読めていたら、おまえ独りでもとっくに出られていたのに残念だっだな」
健人が、肩を叩くと気弱な笑顔の花地本は首を横にふる。
「できない、ですよ。このナイフで錠前や鉄格子は切れても、見張りをどうにもできませんから……やっぱり人を殺すのはボクにはできないですよ。抵抗されたら、ボクじゃかなわないでしょうし。アイツらに襲われたときに動けなくなりましたし」
「なんだおまえ、砦のヤツらにボコられたのか? 捕まる時に抵抗でもしたのか」
「いいえ。たぶん面白半分だったんでしょうね。アイツらボクの肩を刺して笑ってました。でもそのときのケガは1日で治ったんです。どうやら異世界ではキズの治りが早いみたいです」
なるほどな。回復の早さは、アピュロン星人から身体になにか仕こまれたという考えと、この異世界のなにかが地球人の身体に影響して治りが早くなったという可能性もあるのか。
ともあれ、この世界に送られた日本人は回復が早いというのは確定だ。
「大変だったな。でもま、こうして出られたからいいじゃんか。オレらの後ろからついてこいよ。カジポン」
健人が、笑いながら花地本の肩をバンバン叩く。
デリカシーとかないからなあ、コイツは。
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