第27話 末吉末吉 ラシナの歴史
ラシナのみんなが、かなりの食いつきで聞いてきたので、オレがこの世界に来たいきさつを、かいつまんで話した。
アピュロン星人と名乗る存在が不可思議な能力を使う際に、誤ってオレを含めた二十人くらいを、この世界まで飛ばした────というだけの、ざっくりした内容の話だ。
話し終わった後も、ウイシャはしきりにうなずいている。
「アピュロンとは世界の外なる者か。なるほど、さもあろう。われらラシナ氏族は世界の外からの来訪者により助けられたのか」
「ほんと悪いな。オレ本人は御使いでもないし。アピュロン星人についてほとんどなにも知らないんだ。近いうちに里右ってヤツと会うからそいつにも聞いておくよ」
みんな暖かい
ラシナ氏族は優しい人の集まりだな。
しかし、ウイシャの話を聞いて驚いたね。
ラシナはアピュロン星人に関わりのある者が、また再びこの地に来るのを待ち望んでいる民族なのか。
そんな宗教みたいな伝承が、この異世界にあったんだな。
過去にアピュロン星人のしでかしたことの結果なのだろうけどさ。
そう考えるとやったことの影響が深刻だぞ。あの宇宙人は、昔なにをやったんだろう?
ウイシャが言うには、150年前にラシナ氏族は住んでいた土地をパトロアに奪われ、追い出されたのだとか。
ラシナ氏族連合は、かつて自分たちが住んでいた土地をアピュロンの御使い様ってヤツと一緒に取りかえせる
だけど、アピュロン星人がオレたちを転送する前にした説明では、ラシナ氏族の話なんてなかった。
「つまり、気の毒だけど、今回転送された人間にラシナ氏族とともに戦う者はいないと思う。アピュロン星人の送った日本人に、ラシナを救う義務とか予定は無いんだ。少なくともオレは、ラシナの問題を解決する方法は知らない」
「いいのです。気を使わせてすみません」
ディゼットは笑って穏やかにうなずいた。
だが、となりのウイシャは、
「
「ラシナが先住民なんだよな?」
「ええ。標人はほんの600年前にここに来た新参者にすぎません」
あとから来たヤツに住処を奪われたというわけだと、ディゼットが答えてくれた。
「そうですね。ラシナは人の数が少なく兵士も少なかったものですから」
「ラシナ人は長命だが、いや、長く生きるからこそ、子どもが生まれにくい。人の数が増えないのだ」
ラシナの氏族共同体は、ラシナ人というひとつの民族だけで構成されている。
ラシナ人は、その長い生涯の前半の300年までに子どもを授かるが、その人数はせいぜい2人くらいだという。
同じ300年の間に他の人種は代を重ねて、子孫は100人以上にも増える。
こんな感じでラシナの共同体は人口が増えにくい。
他の国は増える。
ここで生じた圧倒的な人口の差は、そのまま国力の差となった。
そして今から300年ほど前、パトロアやシシートが他の国々へ戦争をしかけた。
ラシナも侵攻された。大人数で攻めてくる標人たちに
ラシナの住処を奪った標人たちはラシナ人を〝国も守れない無能者〟と呼んで、
こういうパターンは地球の歴史でも異なる民族どうしの戦争で何度も行われたことだ。教科書にも載っていたっけな。インカ帝国とスペインとかアメリカの入植者と、ネイティブアメリカンとかさ。
たいていの場合、争いに勝った方が負けた民族を追放するか同化する。
「勝った側が優れた民族、負けた側は劣った民族という考え方かぁ。つまらない話だ」
「しかし。この世界ではそう考える者が多い。だから争いごとは絶え間なく続くのです」
「戦争なんてもんは、人を殺した数が多い方が勝ちっていう、人殺し競争だもんな。止めてほしいよな」
ディゼットが息を飲み、まじまじとオレに目をむける。
「考えてもみなかったです。しかし、まったくそうですね。戦争は競争相手より酷くふるまえる人でなしな方が勝つ競い合いです。勝ったからってなにも偉くはないですね」
「しかし、戦いを避けることができないのも事実だ。森に隠れて暮らしていても、標人はラシナを狩ろうとやってくる。捕まれば、奴隷にされる。ラシナ氏族は〝かろうじて人の部類〟そう呼ばれて、獣のように扱われた。
ウイシャの語気が荒くなった。困ったな。民族の悲しい歴史とか苦手だ。どう反応していいか、わからないし。
詳しい説明は勘弁してほしい。
「だが耐えた。やがて侵略者らを追い出す時がくると知っていたから」
ラシナが抵抗を続けられたのは、アピュロンの御使い様の来訪を待ち望み、ともに聖地を取り戻すという信仰があったからだという。
「霧の魔女さまが予言されたのだ」
ウイシャとディゼットがオレを見ている。
なんと答えるか反応を
でも本当に知らないんだよ。
霧の魔女とかいう名前の知り合いはいないしさぁ。
本当に気の毒だとは思うけど。異世界の事情なんてわからないから。ごめんな。
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