第26話 末吉末吉 ラシナ氏族2


 襲ってきた騎士たちを撃退した。

 いまは、道の脇の木陰に座って里右と通信している。

 里右の話を聞くとアピュロン星人は、ずいぶん前からこの世界でいろいろやっていたみたいだ。

 疑いたくはないけど、怪しくなってきたな。あの星人の行動。


 オレも里右も異世界に転送されて、すぐに襲われたんだよなあ。

 これは偶然なのか? それとも、治安の悪い土地ってだけか? 

 過去にアピュロン星人のやらかした不始末ふしまつうらみを晴らされた、という想像もできるよな。


 アピュロン星人側の考えもわからない。

 転送した先が、この世界なのはなぜだろう? 

 自分たちが過去に起こした不始末を挽回ばんかいさせようと思って、オレたちを異世界へ飛ばしたのか。

 ラシナの人から訊いたアピュロン星人についての話を里右にいても、わからないと言う。


『情報が足りないよ。アピュロンの御使い様かあ。アイツらどうして、この世界に干渉したのかな? 私たちを巻きこんだのと同じような事故を前にも起こしていたとか? 末吉はどう思う?』

「オレから尋ねたんだろ。わからないよ。アピュロン星人がこの場にいないから、事情をくこともできないしさ」

『まぁシンプルに考えたら、ここが地球人を移送させられる唯一の場所なのかもね』


「そうかもなあ。そうだった。里右にはオレのいる位置が、どこかわかるか?」


 里右にした質問の答えが、すぐ近くから帰ってきた。


「ここはチキガムガン。標人が呪われた森と呼ぶ、カルプトクルキト大森林の南端だ」


 男がオレに近づいて頭を下げた。

 この集団、セタ・ラシナのリーダー。

 ウイシャだ。

 ラシナの感謝も頭をさげるのか。 日本と、似ているな。

 かしこまったウイシャを前にしてあわてて里右に通信の終了をつげて彼へ向き直る。


「スエヨシ。改めてパトロアの兵からわが同胞はらからを助けていただいたこと、感謝する」


 ウイシャはまた深々と頭を下げている。おもはゆいな。こういうの苦手だ。


「こちらこそ。溺れているところを、そちらの子どもたちに助けられたからさ、おあいこだ」

「そうか。お互いに、助け合えたのか。これも霧の魔女様のお導きだな」


 胸元で指をつまんで引く仕草をしている。

 なんかのおまじないかな。


 改めて見ると、この人って若いな。顔も整っている。異世界の人のというか、奇抜な服装の外国人という印象だ。


「すまない、もう一度確認させてほしい。末吉は〝アピュロンの御使みつかい様〟なのか?」

「え? いや違うけど。むしろ、アピュロンの御使い様って、なんなんだ?」

「アピュロンの魔術を使うものだ」


 いや、だからそのアピュロンの魔術っていうのが、なにかわからないんだけれど。

 名前から想像すると、たぶんツール・ユニットの機能のことを魔術と言っているんじゃないかな? 


 そうなると、困ったことになるんじゃないか。

 この世界の人が分類したら、このオレですらアピュロンの御使いってくくりになるかもしれないよな。

 そんなはずはないと、自分のことだからわかっているけど、違うって証拠は出せないもんな。


「アピュロンの御使い様というのは、どんなことをした人なんだ?」

「そうだな。例えば霧の魔女様ならば、ひとつの軍を行動不能にできるほどに強力な魔術でラシナの危機を何度も救ってくださった」


 過去に転送されたヤツのなかには、大した人物がいたんだな。信仰の対象になるなんて、よっぽどの出来事だぞ。


 ウイシャと話していると、木々の陰から人が出て来てオレの周りに集まる。

 子どもが数人、大人は60人ほどだ。

 服装は、誰も似たような格好だ。

 布を巻きつけて紐で止めている。見慣れないデザインだな。


 最後に出てきた男は、明らかに他のラシナの人とは違う。

 30代後半くらいの銀髪で長身。

 ただ者ではない雰囲気が漏れている。

 その人もオレに向かって深々とお辞儀している。

 止めて欲しい。またお礼からはじめるのか。


「さきほどはパトロアの軍勢からラシナの者を守っていただき、ありがとうございました。私が駆けつけるのが遅く、あなたがいなかったら多くのものが命を落としたと思われます。」

「ああ、どうも。とっさに身体が動いただけなので、はっきりと覚えてはいないけれど、ここのみんなが無事なら良かったよ」

「申し遅れました。私はディゼットといいます。このセタ・ラシナ氏族を守っている戦士の1人です」

「末吉末吉だ、よろしくたのむ」


 セタ・ラシナの居留地を護衛する、ディゼットは凄腕の戦士らしい。

 子どもたちが教えてくれた。


 そんなことよりも、やたらと驚かされた事実があって────

 ディゼットはオレより少し若いくらいの年齢の見た目なんだけど、実際には150年以上生きているんだそうだ。

 ラシナの寿命は、およそ600から800年ほどあるらしい。

 長生きのスケールが桁違けたちがいだな。日本だと幕末のころに生まれた感じになるのか。


「ラシナ族は、ずっとこの深い森にいたの?」

「私は、この森の生まれではないので、この地のラシナ氏族についてくわしくはありません。ラシナ氏族の記録では、先史文明のころからこの地に住んでいたようです」


 あのパトロアの騎士たちは他人のすみかを襲いに来たのか。そういうことならラシナを手助けして良かった。


「私はこの森の外で生まれたのですが、わが師匠がこの部族に縁があるのと、同胞の危機ということもありここを守る次第となったのです」

「ディゼットは大円座の魔術師にも負けない、とっても強い戦士なんだよ」


 コトワが腕を引いて教えてくれた。うん、見るからに強そうだよな。

 というかラシナの人たちはみんな強そうだ。


「あなたは、アピュロンの御使い様について、なにかしら知ってはいまいか?」

「すまないけどわからないな。オレはアピュロン星人の関係者じゃない」

「アピュロン、セイジン?」

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