第25話 谷葉和豊 魔術戦

 異世界に送られて魔術が使えるようになってすぐに、現地の魔術師にからまれた。

 治安が悪いぞ。ひどいな異世界。


 目の前の魔術師たちをどうするかと考えていると─────

 あーあ、ジーマってヒゲのヤツ、片手の杖を掲げて火球の魔術の呪文を唱えはじめたよ。終わったな、こいつ。

 恨むなよ。先に手をだしたおまえが悪いんだからな。


『おまえでは我の相手にはならない。ムダに死ぬぞ』

あなどるな! 無法者め」


 せっかく最後にボクが忠告してやったのに、外野の5人が怒りだした。

 親切心からの言葉なのに、わからないヤツらだな。


「キサマ、なぜ術を始動しないッ」

「礼儀知らずもはなはだしい!」

「キサマが抵抗せずとも、われらは攻撃するぞ」


 おまえたちの礼儀とか、知らないよ。

 忠告はしたからな。だから恨むなよ。 


 火球を巻いている最中のジーマって白いヒゲの魔術師の上へ重ねて火球を出してやった。


 片手を挙げた術師の上に火の球が落ちる。

 できかけの火球が潰れて火花が舞うと、瞬く間に白ヒゲの身体が燃えだした。


「なんだと! ああああ!」


 身体へ炎が絡み、火柱となった。

 白ヒゲの魔術師は立ったまま焼かれて炭になった後、倒れた。


 ……なんだよ、呆気あっけないな。

 死体が遠くにあるからかな。

 思ったよりも、人を殺した実感がない。


 こんなものなのかあ、想像していたよりも大したことないな。

 自分の精神状態について考えていると、残りの5人が騒いでいる。こいつら、まだいたのか。


「な、なぜ、ジーマが燃える? 敵の詠唱は、いつ行われた?」

「魔術の行使が阻まれた……ありえないぞ。魔力の流れもなかったのに」

「ピンズノテーテドートとは何者なのだ」

「詠唱中に別に魔術を重ねるなど、かつて聞いたこともない……」


 あるよ。

 第四階梯にあるんだよ。重唱じゅうしょうっていう魔術が。

 魔術戦の基本だろ。呪文を唱えているときが、もっとも無防備だからな。

 そんなことも知らないとは、ビックリだぞ。

 こいつらは、かなりレベルの低い魔術師らしい。


「油断するな。これは難敵だ! 四方から一気に仕留めるぞ」


 ボクの幻影を挟んで前後と左右に、老人達はゆっくり移動した。詠唱とかしているし。

 すごく遅いけど、待っていてやるよ。


「いまだッ放てぃ!」


 かけ声にあわせて無数の火球がボクの身体に迫る。

 といっても、もちろん立体像のピンズノテーテドートの方にだ。


 とうぜん、火球は、ピンズノテーテドートの身体を素通りした。

 髪もなびかない老魔術師の周囲では爆発やら突風やらで、土埃が湧きおこる。


 魔術というのはにぎやかだな。埃っぽいから近くに寄りたくはないけど。


「なぜだ、なぜだッ! 火球は当たっているはずだ!」

「なぜ、アイツは平然と立っているッ!」


 魔術といえども、映像は傷つけられないって。

 だいたい。いまここでなぜとか言っても意味がないよね。

 確かめたかったことは、わかった。

 ツール・ユニットでもオマケで使える魔術でも、こいつらはボクの敵じゃない。だからもう絡む価値はない。


「はー。面倒くさいな」


 老魔術師たちのいる辺りの地面を目測で割るかな。

 そう思ったとたんに、目に見えない巨人の手が叩いたかのように、地面が丸く陥没し────


「すでに魔術が、かけられていたのか!」

「そんなッ詠唱も聞こえなかったぞ! 魔術光も魔術音もだ」

「逃げ────」


 続けざまに地面が爆発した。

 第三階梯の平凡な爆破の魔術だ。


 そんな見え見えの芸のない魔術を、逃げ遅れてまともにうけた老人の1人は、放り投げられた人形みたいに宙を舞う。


「ええ? なんで防御しないんだ? あいつら爆破に耐えられるくらいに身体が頑丈なのか? それとも異世界人の身体はケタ外れに硬いのか……」


 軽く20メートルは飛んだ後で落ちて、潰れた。


「え? ふつーにやられるじゃんか。じゃあ防御しなよ」


 このぶんじゃ、恐らくは爆風を受けた時点で死んでいただろう。


「ぜんぜん耐えられないじゃん。なんだバカバカしい。あいつらがミスっただけか」


 はからずも魔術を魔術で防がずに受けた場合には人間なんてひとたまりもないってことがわかった。

 ボクは、ああならないように気をつけよう。


 ────あれ?

 足もとを金属の環で丸く囲われた?


「かけたぞ!」


 老魔術師たちが喜んでいる。


 なるほどこれが、狙いだったか。

 油断させた隙にピンズを捕らえる作戦か。

 コミュニケーション・ユニット、足元の環についての簡単なレポートをくれ。


「ジーマとクドタの仇討ちだッ」


 ふーん。魔力を乱して魔術を使えなくする手枷か。

 ここは、魔術の発達した世界らしいからな。とうぜんあるだろうな、そういうのも。

 でもムダじゃね?

 それ映像だし。


「検索で出てきた小雷球ってのが、使えそうだな」


 空中に小さく放電している球体を3つほどともして、大きな環っかを置いた魔術師へ、くっつける。


 ピンポン玉ほどの光の塊に触れた途端に、老魔術師はそり返って、崩れた。


「10アンペア、4000ボルト程度でも効くな」


 残り3人は逃げている。

 へー、年寄りなのにけっこう走れるんだ。


 まあいいや。あの爺さんたちは見逃してやろう。せいぜいボクのことを異世界のちまたに広めるといい。

 ピンズノテーテドートには敵わないから、争うな。

 そんな感じのやつ。世間に伝えるんだぞ。

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