第24話 谷葉和豊 ピンズノテーテドート

 東京から異世界の荒野に転送されたら、魔術が使えるようになった。


 魔術なんてものに興味はなかったけど、この世界で生き残る手段になると思ったから、使ってみることにする。

 しかし魔術なんて厨二ちゅうにっぽくて恥ずかしいよなあ。

 そんなことを悩んでいるボクに近づいてくる馬車らしきものがあった。


 拡大すると────

 東南東8キロの位置に、鳥。いやダチョウの大きいヤツが6頭。

 籠をひいて走っている。

 これは、馬車か? いずれにしても、この世界の馬車だろうな。


 驚いたのは、ダチョウの乗り手もカゴの中にいるヤツも、まるっきり地球人とおなじ姿形をしていることだ。


 なるほどこの世界には人型の知的生命体がいるわけだ。

 だったら、異世界の人型生物と交流もできそうじゃないか。


 めんどうだけど慎重に接触して友好的な関係を築かないとだな。

 こういう状況でこそ、コミュニケーション・ユニットの能力が発揮されるのだろうし。


 えーと。この場所に一番近い国は、シシートだな。

 では、馬車に乗っているのは、シシートの人間だと仮定する。

 シシートで話されている言語のうちで、もっとも話す人の多い言語を選択して、外見の偽装も、あわせて使う。

 そうだな。魔術が使えるんだから、やっぱり魔術師を使う方がいいよな。


 じゃあ、これかな?

〝魔術師_A014〟

 白ひげで彫りの深いいかつい顔立ちをしている。

 このキャラは、いかにも魔術師という外見だ。

 もっとも、日本人の思い描く西洋人の魔術師の姿、だけど。


 とりあえずこれで現地人に応対しよう。

 さてと。

 フードを被った等身大の幻影を目の前に出してみる。

 いいね。実物にしか見えない。

 後は、この地域で魔術師らしい名前の候補を、コミュユニットに提案させる。色々あるな。


 ────これで、いいか。

 名前は〝ピンズノテーテドート〟に決定だ。

 キャラクターはテンプレート外見のまま、初老の男性で大魔術師。


 この設定で会話を作成っと。会話は、コミュユニットに任せる設定で、喋らせてみよう。


『貴公ら、我に用があるのか?』


 うん。渋い声だ。アピュロン星人は、良い声優使っているな。

 いかにも魔術師な老人の姿と声と口調で、らしい感じする。


 コミュユニットからのレポートよると、シシートやその近隣の国では若年の魔術師は未熟な者として軽んじられる傾向にあり、魔術師は年齢が高い方が、うやまわれやすいらしい。


 だから、外見とかの年齢は高めに設定した。

 よし、準備オッケー。

 異世界の人類とのファーストコンタクトの開始だ。


 あ。ちょっと待て。ボク自身には危険が及ばないように、本人の姿が他人には認識できなくするユニットの機能を使うかな。

 これで────消えたハズだ。


 魔術師姿の巨大な幻影を上空に映して、馬車の人たちへ話しかける。


『我に用があるのか?』


 馬車から降りて来たのは、こっちもまあ高齢の爺さんたちが6人。

 やっぱり魔術師なのだろう。


 昭和の人が車のホコリをとる毛バタキみたいな服を揃って着ている。

 それが、この世界のカッコいい服装なのかな? 


 爺さんたちは誰もが足元がフラついている。

 荒れ地のデコボコ地面を馬車で走って、かなり揺れたのだろうな。


 レポートの記述だと、魔術師というのは動物の背には乗らない決まりがあるらしい。

 魔術師が移動するときに歩かない場合は、馬車一択みたいだ。


 ん? 沈黙が長い。

 さっきから爺さんたちからの返事がない。

 警戒しているのかな。もう1回、声をだしてやるか。


『だから、なんの用だと問うているのだが?』

「さきほど火球の魔術を使ったのは、おぬしか?」


 サレキ語と表示がでた。主にシシートで話されている言語だ。

 予想が当たったな。


 相手に合わせて、ボクの日本語も自動でサレキ語へ翻訳される。

 正確には、虚像の魔術師であるピンズノテーテドートのAIが、ボクの話の意図や表情を基本ラインとして、さらに魔術師ぽいキャラづけして話をするんだ。


 ボクが黙っている場合、AIは自動でピンズノテーテドートらしく話す。

 そんなしくみだ。


 魔術師姿の巨大な幻影を上空に現出させつつ、もう1体、同じ外見で等身大の立体映像を映して爺さんらのほうへ歩かせる。


 いいぞ。爺さんたちはボクじゃなくて、ピンズノテーテドートの等身大の立体像へ顔をむけている。


 コミュユニットの幻影は、本職の魔術師にもバレていない。さすがアピュロン星人の科学技術だ。

 あいつらには、ボクのいる本当の位置はつかめていない。というか、見えていないな。

 なのにこちらは、6人の表情までよく見える。

 圧倒的に優位な状況だ。


 爺さんたちは、みんな顔を強ばらせて立っている。

 さぞ得体のしれない怪人物なのだろうな。このピンズノテーテドートは。


『いかにも魔術を使用したが? それがなにかな』


 会話もコミュニケーション・ユニットに丸投げだ。

 アピュロン星人の機械に間違いはないだろう。


「マノノサの誓いを知らぬわけはないな? おぬしは、都市の2キロメートル以内で魔術を使ったのだぞ」


 〝マノノサの誓い〟だってさ。

 はは、笑える。バカバカしい。

 そんなの知っているわけないじゃんか。


 ボクは、いまさっき日本からここに飛ばされて来た人間だぞ。

 知るはずがないっての。

 だいたい未開人のルールになんて、ダルくてつき合っていられないよ。


 ボクからしたら、見知らぬ爺さんらが適当なクレームを言っているようにしか聞こえないし。


 マノノサの誓いねぇ。レポートにそんな情報あったか?

 ああ。よく見たらあったな。いまさらだよ。

 毎回、テキストの量が多すぎるのも問題だよなぁ。


『忘れておった。許されよ』


 それで、その誓いを破った場合にはどんな罰則ばっそくがあるんだよ。

 また話が止まったぞ。早く話してくれないかな。こっちは異世界の生活を始めたばかりで、忙しいんだよ。


「都市の長の許可もなく街の近くで魔術を使うことは、街への敵対行動であり、使用者はその行為の罪科ざいかを負う」


 へー。街のそばで魔術を使うと、罰せられるのか。


「我はジーマ。ジラブロ領の魔術師だ。汝ピンズノテーテドート殿よ、御覚悟めされよ」


 おいおい、お覚悟ってなんだよ。

 まさか罰って死刑なの? 

 半殺しとか? いやまてよ魔術なんて、当たれば即死だろ。殺されるのかね、ボクは。


「いざ尋常じんじょうに、立ち会おうぞ」


 翻訳された口調が時代がかっていて、武士っぽい。

 言い回しから判断すると、爺さんらは頭かたくて話が通じなさそうだ。


 しかし。この爺さんチームは、ボクと争うつもりなのか? マジで?

 いまさっきチートで魔術を極めたのだけど、相手にはそういう強者のオーラとか、わからないものなのかな。


 爺さんたちさ、本当によく考えてから行動しろよ。

 ボクと戦ったら、あんたたちマジで死ぬんだぞ。

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