第16話 里右里左 こっちもヤバそうなの来た
送られた異世界では、誰かと協力しようと思って同じ転移者の末吉末吉って人に話しかけてみた。
接しやすかったけど、その人は通信の途中で水に流されて、現地人に引き上げられて、直後に異世界の騎士に襲われたんだって。ウソみたいな状況ね。
普通はありえないシチュエーションが、いくつも重なっている。
運が悪い人なのだろうなあ。
末吉は、この異世界でやっていけるのかな?
『オレもそう思うよ。アピュロン星人はオレを平穏な場所へ転送させられなかったのだろうか?』
「単に末吉の運が無いだけじゃない?」
ぐぬぬと、
「あらら、こっちもマップに反応ありだ。それも集団が2つ?」
北北東1キロ先に明るいドットが5。これは大きな動物の群れかな。
それと、もうひとつの集団の反応は──6キロ東に密集した無数のドット。こっちは、現地人の集団だね。
無数にいるほうを拡大する。
えーと、馬に乗って革の鎧を着た人間が7人いて。その人たちは、後ろに1本の縄で繋いだ18人の徒歩の集団を引き連れている。
なんなんだろうな、これ。
事情はわからないけど。不穏な感じ。
囚人とか奴隷とか。嫌な感じですねぇ。
ともあれ移送方法がひどいね。この世界、人権とかなさそうねー。
さっそく末吉にも伝えよう。
「あ、こっちもヤバそうなの来た!」
『え? 騎士か? どんなヤツらだ?』
「こっちは騎士じゃないっぽい。着ているのは板金の鎧でもないし。こっちのメンバーが身につけているのは革と厚手の布と縄だね。どちらかといえば、山賊かも。馬に乗った山賊風の人たちが、縄で繋いだ人を18人引き連れているの」
『拘束した18人を引き連れている集団って。危険な人間たちじゃないのか? それは、逃げたほうがいいと思うぞ?』
あなたが言いますか、それ。
私は平和主義者だから、末吉みたいに戦わない。すぐ逃げるもんね。絶対に、避ける。
ともあれ、こっちの状況はおおよそ説明した。
末吉に話していると、自分の現状の危うさがヒシヒシと実感されるなあ。
はー。異世界は、どこも野蛮でまいっちゃうわ。
でもさ。これがこの場所のあたりまえなら、慣れなきゃだよね。
『マップにあるもう片方、1キロ先の動物の集団は、どうなっているんだ?』
「あ、うん。ちょっとまって」
北北東のドットを拡大してみたら、羊っぽい動物の集団だった。
荷物を背中にのせられて、ノロノロ進んでいる。
ん? あれ、動物にのっているのは荷物じゃないかも。上にのせられているのは、子ども?
ぐったりしている。気を失っているみたい。
どうしようかな。
現地の人たち、見た目が現生人類そのまんまだから、ケガや病気ならメディック・ユニットで、治してやれるかも……うーん。
決めた。羊っぽい動物に近づく。
「おいでー」
意外にも羊モドキは私に寄ってきた。
良いのか羊モドキ。私はかなり怪しくないか?
この警戒心のなさは、人に飼われているからかな。
いやマジで、かわいい。この動物。
羊の毛皮を着たカピバラみたい。
おとなしいので、撫でたりする。
お尻も丸くてモコモコだ。
目を細めてすり寄るし。あーもう、かわいいしかない。撫でてやろう。ぞんぶんにモフってやろうぞ。
あ。そうだ子どもの治療だった。
近場に休めそうな場所とか、あるかな?
周りの様子をマップで確認する。
ヤバそうな動物はいないね。
とりあえずは木陰で休ませるか。
羊モドキの背中で寝ている頭巾の子どもたちは3歳とか4歳くらいの幼児に見える。
グッタリしているけど、病気なのかな。
服装は全体に薄く着色した黄色とか茶色。
シンプルな厚手のワンピースの下に細身のパンツに布の帯。頭にはスカーフみたいな布を巻いている。
初めて接するこの世界の住人だけど、見た目は完全に地球人と変わらないのよね。
呼吸といっしょに吸いこませたナノマシンから情報が送られてきた。
メディックで身体の走査と遺伝子解析してみると───ビックリしたッ!
ほとんど私たち地球人と、身体のつくりが同じだ。
「どういうこと? こんな偶然ってあるのかな。まー、ふつうはないよね。こうなると。アピュロン星人は、やっぱり怪しい。なにか隠しているんじゃない?」
地球人と移転先の原住人類との関係性は後で考えるとして。
現地人の体調維持に地球人用のメディック・ユニットが使えるなら、都合がいい。検査を続けよう。
「ふーん。この子たちは、ただの栄養不足なのね。ひとまず安心」
マップで見つけた手近な草地へ、転送者に配給されているアメニティの毛布を出して子どもたちを寝かせる。
「後は、元気にするだけね」
鼻から蒸気にのせたナノマシンをいれて、身体機能を補助しつつ、ミール・ユニットをメディック・ユニットに直結して必要な栄養素を体内に転送。
メディック・ユニットが、それぞれの子どもの頭上にARみたいに〝四時間以内に全快〟という文字を浮かべている。
「ひとまずは、安心かな」
アメニティ・ボックスから別の毛布を取り出して、子どもたちにかける。
「さてと、この子たちは安静にさせつつ、バイオモニターを表示するとして……」
残る問題は、7人の武装集団だ。
子どもを載せた羊モドキがやって来た方向の、えーといまは3キロほど北東か。
あの子どもは、集団から逃げたか追放されたか、逃がされたか。
どれも不穏なムードが漂うなぁ。
武装した集団は、まだ私には気がついてないっぽい。
接触するか、無視するか。うーむ。
「この世界で孤立して生きられるのか、怪しいからね」
しょうがない、接触するか。嫌だけど。
早歩きで近づく。
移動手段が徒歩だけっていうのが、ダルいよ。
アピュロン車とか乗り物を標準装備にして欲しい。
でも、ちょうど集団が森の縁に沿って大きく
問題はどんな感じで山賊みたいな男たちに接触するか、だよね。
友好的にいこう。
あ。こっちを見た。しかたないなぁ、即興でコミュニケーションだ。
「すみませーん、お忙しいなか失礼しまーす」
え、意外。そして、うかつ。
私の言葉、相手にぜんっぜん通じてないじゃん!
「うあー、ミスった。ここにきて言葉がわからないっていうね……」
確認してなかった私も悪いけどさー。
おいアピュロン、おいおいアピュロン星人様よ。瞬時に翻訳してよ。異星の超科学でしょう?
「あっ私、外国からきました。どうぞよろしくー」
あー。相手ほら、沈黙してるし、こっち見てるし。
気まずいなぁ。どうする?
え、毛皮きた人が、なんか叫びだした!
これは……私を捕まえようとしているのよね!
コイツら、か弱い乙女に槍をむけているし。見た目のまんまの、野蛮人か。
「なんですか? 私たち、友だちになれると思うんですけど?」
即行で友だちとは、ほど遠い反応が返る。怒声と矢だ。
私に矢を射った! こいつらッ。
「あああ! たしかにやるしかない状況、あるわぁ!」
末吉に続いてこっちも危機的事態だった。
この異世界は、転移者に身の危険がありすぎる。むしろ転移者を狙い討ちしている、まである。
あー、まいった。
私、突発的なアクシデントへの対応は弱いのにッ。
もうすでに変な汗でているしッ。
「さよならッ!」
急いで道の脇の溝へ入る。
馬の大きな身体では、私の肩幅くらいの溝には入れないから、時間は稼げる。
それはそうだけれど、逃げているだけじゃ、いずれ捕まえられるか殺されるだろう。
「もう、やるしかないッ」
そっちがそういう気なら。オッケー。
友好的なんて、やめ!
ヘイヘイ、ボーイズ、ザッケンナよ。
切り替えていくから!
やってやるッ。足腰たたなくしてやるわ!
ちょっとイカつい外見しているからってなあ、地球人のど根性とアピュロン星人の超科学をナメんなッ!
そんな感じにテンション高めで息まいていたら、のんきな声が届く。
『里右、ムリはせずにヤバそうなら逃げろよ』
は? 末吉にだけは、言われたくないし。
「危なくなんてない。状況的にメディック・ユニットが使えるから、たぶん平気」
メディック・ユニットであらかじめ準備していたカーソルで鎧のヤツらをぐるりと囲む。
ヤッバい。私を探している。すぐに見つかる。
「ええーと。界域指定で──この範囲内を霧で満たしてっと───ミストスタートッ!」
メディックの加湿機能の霧で周りを塞ぐ。
溝だから濃く霧が立ちこめて、加湿っていうか、濃霧?
視界が白で埋まるくらい強力なミストが溜まった。
こんなに必要かって噴出量だけど、こんな場合には助かる。
山賊(仮定)がとつぜん湧いた濃霧を見て騒ぎだしているけどね、いまさら遅いから。
「私を襲った報いを受けさせてやるから! いまからあんたたちは、なすすべなく地面に崩れ落ちるんだからね!」
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