第12話 里右里左 ミール・ユニット
アピュロン星人の事故の巻きぞえになって、異世界に飛ばされた。
その後、現地で末吉って人と交信できたと思ったら、とつぜん通話が途切れた。
異世界は、通信状態が悪いんだ。
まぁいつかまた、繋がるでしょう。
そうそう、この空き時間にアピュロン星人のミール・ユニットの確認をしなくちゃだ。
アピュロン星人が用意した食料ってどんなのかな。
宇宙超文明だもんね。食べたらバカになるくらい美味しいのだろうね。
ミールとかいてある文字を囲む四角のなかの〝イグジット〟って小さめの四角を押すと───なにもない空中からポンと音が鳴る。
「へぇ、食べ物には、超科学感がないのね」
掌の上に筒が現れた。
清涼飲料水の350ミリリットル缶くらいの大きさで、重さもそれくらい。
銀紙に包まれた円筒の周りに8本の白線があるだけの素っ気ない筒だ。
筒の端を触ると、自動で包装がめくれる。
中は、鈍いピンク色のゼリー。
無臭ね。握ってカジると、食感は意外に硬いかな。
味は……ん? ん?
「ん。う? ううう! んー! おご、うべぇ、なんだあこれッ。おうえッこれ不味いッ。うぷマッズ! ぺッぺッ!」
ビックリしたぁ!
はー、
アピュロンのゼリーは劇的に
口に入れる度にえずくし、なんだったらマジで吐く。
……いやいや。どういうことよ?
こんなのマイナスカロリーだからッ!
ユニットぜんぶが、同じ味でしかもゲロ不味いヤツだ。
他の人たちは、こんな不味い棒を30年分も抱えこんだの?
ウソでしょ。
てかアピュロン星人さんさぁ。栄養があれば良いってもんじゃないからね。
生臭いなにかを生クリームにまぜて、カビとガソリン風味をつけ足したようなゼリー・バーなんてさあ。こんなのとても食べられないよ。なに渡してくれてんのよ、本当にッ!
アピュロン星人って、味覚のない種族?
もしくは、壊れ味覚の産物を地球人に押しつける趣味とかあるの?
なんなんですか、警察呼びますよ。呼べないけど。
「でも、私の場合はメディック・ユニットの機能に食べ物の味の調整があったから助かったけども」
これは、最高に幸運だった。
他の転移者の大半は、こんな激マズ食料を30年分も抱えて途方にくれているよ。きっと。
食べ残しをストアに収納してメディックに走査させる。
分析しても、これは毒ではないとの表示が出る。
栄養としてみたら、これはむしろ完全食だったの。
そうよね。アピュロン星人が保護するといった人間に、わざわざ毒を食べさせるとも思えないし。
とりあえず、ゲロ不味のミール・バーの味を変えてチョコレート風味にして試す。ポチっとな。
外見は変化がないけども?
「あ。うん。これならイケる。おいしいかも」
アピュロン星人の本来の意図は、メディック・ユニットで転送された人の集団の味覚や嗜好に合うようにミール・ユニットや、現地の食べ物の味を調整する予定だったのかもね。
つまり、アピュロン星人は転送した日本人がそれぞれの持っているユニットの能力で協力しあって異世界で生きていくことを想定していたらしい。
アピュロン星人ってさ。人間の協調性をかなり多めに見つもっているみたいね。
説明文に〝協力して行う〟とか書いているの、よく見たし。
人間同士なんて、たいていは仲が悪いのに。
かなりヒドい苦境でも、他人どうしは仲良くしないから。
極限状況での他人との関わり方とかさ、つきつめたら利益になるか害になるかだし。
片方には損害で、もう片方にだけ利益がある。そういう関係もわりとあるし。
そうなると、最悪は強要や支配で繋げられた関係ができるわけで。
極限状況には、人どうしの仲が悪くなる要素しかないんだよ。
協利共栄、共栄共存、そういうことは、現実にはほとんどないからね。
だからスローガンにもなるわけだし。
追いつめられたらさ、人が人への害になる場合が多い印象さえあるもの。
人生は過酷で孤独なのよね。
あ。文字が震えている。通信可能の合図だ。
末吉へ、ポチッとアジャスト。
なんか背景音に、スゴく大きな雨音が聞こえる。
末吉に、彼の現在いる場所の状況を尋ねてみた。
『────こっちは雨、大雨だ。雷も鳴っているし風も強い。気温は、低い。かなり寒い。目の前の大きな河が、増水している。いまにも洪水が起こるかもしれない。これから近くの高台へ行こうと思う』
「変ね。こっちは晴れていて、暖かいのに。天気が違うの? 異世界は気候が特殊なのかも。もしくは気候が違うくらい離れた地域に実体化したとか。えーと、末吉の位置は大体わかるかも。5分くらい待っていて」
末吉の現在地を拾うために拡大した地域マップを見ているうちに、また通信が途絶えた。
「またかぁ、通信が安定しないな、地面が揺れている……地震?」
末吉の実体化した地点もこの近くのはずだから、いま起きている地震が通信障害の原因ってこと?
待って、逆かも。
もしかすると、私たちの転送が地震の原因だってパターンまであるかも。
世界間の転送の影響で、こんな地震とかの
私たちが別の世界から転送されてきたってことは、現地の人に出会っても秘密にしておいたほうがいいかも。
こんなときは、周囲に目をむけよう。状況確認だ。
視界のマップの上で光るドットが動いている。
待って。これは。そうよね。
6キロ先に動いている動物だ。異世界動物へのファーストコンタクトだ。
デフォルトの動物の表示条件が体重5キロ以上なので、これは要注意だわ。
これが転送直後の死亡の原因かもしれないし。
詳細を表示して、拡大と────
てか、あれは────普通に人間じゃん。
形としては、ヒト科の人類じゃん。
でもあれがきっと、この世界というか、地元の人なんだよね。
これは、現地人と仲良くすべき状況ってことかも。
協力関係を築ければ、生存の確率を上げられるし。
後は、他の転移者がこの世界の人達に対してどうふるまうのかも注意しないとね。私まで巻きぞえになるかもしれないからさ。
いきなり現地人と戦うヤツとかいて、移送された人間ぜんぶがこの世界の敵になったりしたら最悪だし。
私自身も、慎重にふるまわないとだな。
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