第11話 里右里左 異世界に到着
アピュロン星人の事故の巻きぞえになって異世界に飛ばされたんだけどね。
異世界へ転送されるって、ライド系のアトラクションなみに体感が揺さぶられるのね。
こういうの苦手だ。
あー。かなりツラい。
景色が、砕けて砂絵みたいになって崩れていたし、もうぜんぶが斜線みたいになっている。
「うぷ。見ていると酔うわ」
転送で気分はそうとう悪いけど、視界のマップもがんばって見ておかなくちゃだ。
近くにいる人間は、向こうでも近くで実体化するから、仲良くしないとだし。できれば協力して暮らしていきたいものだよね。
異世界で日本人の女が独りで生き抜く。そんな状況は、ハード過ぎるよ。
まわりの空間に景色が組まれて、無彩色からだんだん色味がついていく。
景色が濃くなった。実体化したのかな? これ?
あの薄暗がり空間にいったときと、同じ音が鳴った。
それと、鼻の奥がツンとする。
落ちたのか昇ったのか、ぜんぜんわからない。
きっと見当識が混乱してるんだ。
しゃがんで、じっくり身体を曲げ伸ばしする。
呼吸が落ち着いたのは、視界の表示で5分が経ったころだ。
もう動けるけど、手とか冷たいし、ちょっとだけ痺れているかな?
目の前は……草原だよねぇ。爽やかな風が頬にあたる。
太陽は……見えない。雲に隠れているのかな? ハッキリとしないなあ。
気温は摂氏20度と視界の隅に出ていた。
これが〝行動サポート機能〟ってこと。
なかなか良いね。
時計機能と温度と湿度がデフォルトか。これは地球人に理解しやすいレイアウトだ。
ええと。マップを見ると、他の人たちは────
あれれ、ちょっと待って。
いま全画面表示で世界を見たら、視界の隅にあるマップの上にドットが8個しかない!
最初は、明るいドットが私を入れて23個あったのに、移転したら15個も減っている……
これって、実体化してすぐに転送された人が死んだってこと?
て、ことだよね。
わ。マジか。あー。そうかぁ。
異世界への転送には危険な要素が多そうねぇ。
というか、死にまくりじゃんか!
よくある異世界転移な物語らしいイージーモードじゃないの。
着いてすぐ死ぬとか、過酷すぎるッ。猛獣とか自然災害? 原住民の攻撃?
記憶だと、異世界に転送された人は私を入れて23人。
「
そのうちツール・ユニットを取ったのは……12人。
メディック・ユニットが私を入れて4人
メンテナンス・ユニットが3人。
後はコミュニケーション・ユニットが5人。
……たしか、ツール・ユニットを取った人にマーカーをつけたよね。
記録に残る初期画面のマップにはあったもん。
でもあれ? いまの画面のマップにはマーカーがない。
というか、地域マップにあるドットはひとつだけだ。これって私の位置を表示しているんだよね。
近隣に転送された人いないの? 50キロ四方には、だれもいないよね。
ウソ。私、異世界にひとりぼっちじゃん。だいじょうぶかなあ。
いつのまにか、表示されていたマップも中央区の街並みから白紙に変わっていたわ。
あー。これは、リセットかな。
てことは、つまりこの世界では、他の日本人をマップの上でずっと追跡は、できないみたい。
感知できる範囲の内に入れば地域マップに表示はされるけど、特定の人を追い続ける機能はないのね。
全世界マップは表示が
送られた先ではアピュロン星人のコントロールから外れるから、そうなるわけか。
アピュロン星人は宇宙超文明人(想像)なのだから、ずっとフォローして欲しいよー。サービス悪いなぁ。
「しかたない。いまやれることを処理していくかあ」
まずは状況の確認だね。
うーん。まわりの景色はキレイだけど。うーん、特に異世界という感じはしないかな。
遠くの森からは鳥っぽい鳴き声が聞こえる。
すぐそばにある崖の表面は、
「でもね。キレイな自然だからって油断できないよね」
よく観察したら、地面のところどころには金属の道路標識とか案内板とかが半分埋まっていて、空からの光を照り返している。
「標識も私と一緒に、この世界に来たんだ。空間転送をミスったら〝石のなかにいる〟とか、そういうことになった可能性もあったわけだよね……怖ぁ」
そしてやっぱり。
転送されても視界のインターフェイスは、そのままよね。
これはやっぱ、勝手に身体を改造されているのだろう。
アピュロン星人、恐ろしいことするなぁ。
「地球人の人権とかデリカシーとか、宇宙人には関係ないわけだ。ちくしょうめ」
知らないうちに改造人間にされたのはムカつくけどさー。気持ちを切り替えてサバイバルだ。
改めて目の前の視界を眺めても、転送された人らしきドットはやっぱりない。キビしいなぁ。
あと、最初にいた空間に浮いていた取説とかの文字は無くなっている。
予想はしていたけどさッ。保存の指示をしないと消えちゃう感じかな?
私は読んだ文章はだいたい覚えたけど、普通は忘れるよね。
アピュロン星人は忘れない性質の生き物なのかも。
次は所持品の確認かな。
でもその前に────
「チュートリアル!」
「ステータス!」
「ステータスオープン?」
ハイ、なにも出ません。ええ、やりますよ。二回目だってやりますよ?
現地にいったらステータス生えているかもしれないわけだし。
「……ないって知っていましたけどね」
でも諦めきれないから。確認したいものなのよ。
あー、やっぱりそうかぁ、ステータスとかチュートリアルはないのかぁ。
じゃあレベルとかも、ない世界なのね。きっとスキルもないわけだ。喜びがないッ。
非常に残念ながらゲーム感覚じゃないのね、この異世界転移はッ。
サービス精神ってものがないのよねぇ、アピュロン星人には。
「ふうぅ、先が思いやられるよ」
気を取りなおして、持ち物の確認でもしようかな。
スマホとサイフ、リップとコームとハンカチ、サニタリー類一式、イヤホン、鍵、手帳とペン。他には、ガム、ペットボトルのお水、痛み止めと目薬ね。
ポケットに入れていたか、握っていたカバンに入っていた品物は異世界に持ってこられたみたい。
転送されるときに傍に置いていたスーツケースはダメだった。つまり着替えは全滅かぁ。辛いッ。
でも、衣類とか生活に必要な日用品はアピュロン星人が転送者全員に配ったアメニティ・ボックスに入っているし、心配はないハズだ。
さて、現状確認は終わり。
次は他の転送された人へ連絡だ。
たしかマップの計測アイコンの下に通信があったはず───あった。
実体化した地点が近い人となら音声通信はできそう。
全世界マップは、かなりわかり難いけど、近いのは……ふたりかな。
「もしもしッ! あーもしもしッ!」
異世界で返信してきたのは、末吉って人だけ。
末吉のいる位置に合わせて、通信を調整しつつ、話す。
会話の中で彼の人柄に探りをいれる────
結果、警戒は必要ないみたい。
この人、良い人のモデルケースみたいな人だわ。
というか……かなり間が抜けている。
食料を、ぜんぶ赤の他人へ盗られても気にしてないみたいだから、善人というか……バカなんじゃないの?
こんな調子で過酷な異世界を生きぬいていけるのかしら。
あ。もしかしてだけど、隙の多い人を装っている演技という可能性もあるか。
なんにせよ、あたりまえの人間ではない感じ。
いいや。とりあえず、仲良くしよう。
この末吉って人、メンナンス・ユニットを持っていたからね。
生存のためには、末吉のユニットってかなり有用だ。
なにより、お弁当とチョコレートを持っているって話だし。
あれ? 末吉との通信の途中で、接続が切れた。
電波障害かな。
はぁ、やっぱりこの土地の環境は色々と厳しそうね。
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