第5話 登洞圭三 ヘビ犬退治
異世界に飛ばされた後、さっそく命の危機だ。
見知らぬケモノがオレらを狙っていやがる。
「おい、タケ。野犬みたいなのが、こっち見てんぞ、すぐにも襲って来そうだぜ」
「おう、いいね。ぶっ殺してやるぜ」
健人は石を拾い、オレは足元に転がる折れた標識を拾って、握る。
地図を実景に重ねて待ち構えていると、そいつは連なる岩の切れ目からオレら目がけて勢いよく飛び出した。
宙に浮く獣へ向かって、健人が握っていた石を投げつける。
狙いを外さず長い首元に当たった瞬間に、その動物は飛び退いた。
しかし鳴き声もあげず、着地した後、オレらへ
健人のバカ力で投げた石が当たったのに、
こりゃ、確実にオレらを殺しに来てるな。
「胴の長ぇ犬みたいなのが這い出てきたぜ。はは、見たこともねえ動物だ。ヤべぇな」
「胴体が長い黒い毛が生えた動物で、犬に似ている。なんだこりゃあ?」
「物知り博士のアニキも知らねえのなら、新種か? このヘビ犬」
「新種っていうか、たぶん地球上にはいないヤツじゃねぇか」
健人が言うところのヘビ犬は、大口あけてシャーシャーと
「コイツッ逃げやしねえな、オレらを狩る気だぜ。笑わせるな」
「ああ、やるしかねえな、こりゃ」
オレらが話していると、ヘビ犬がなにかを吹きかけた。
とっさに避けると、元いた場所の地面が弾ける。
「お? コイツ、飛び道具まで持ってるのかよ。あれ? アニキ」
口を開くのが見えたとたん、オレは反射的に手に持っていた駐禁の標識で、ヘビ犬をタコ殴りにしていた。
何度か殴り頭を潰したら、そいつは動かなくなった。
「この世界の動物も、やっぱ頭に中枢があるみたいだな」
「あいかわらず、アニキは攻めんのが速ぇな。しかしよお、石吐く犬とか初めて見たぜ」
「だろうな。あの攻撃をまともに食らったら、無事にはすまなかったろうぜ」
あー。なんか臭うな。嗅いだことのない変な生臭さだ。
ああ、そっか。殺った犬の身体から漂っているのか。生き物を殴り殺したんだ、そうなるよな。
しかし足元から違和感のある血と獣の臭いが、ガンガン昇ってきて吐きそうだ。ヤべえ。
「なー。アニキ。コイツ、食えるかな?」
「は? おまえ、なに言ってんだ?」
頭おかしいのか?
この動物、鼻曲がるくらい臭いだろうよ。
食うってなんだよ。バカ言うなよッ。
「……止めとけ。アピュロン星人の食料を山ほど取ったろ。異世界きて、寄生虫や食中毒で死にたかねーよ」
笑っていやがる。
さては、またなにも考えてねえな。
アピュロン星人よ。まずは健人の頭の具合をマシに改造しておいてくれ。
健人には、ここが人を襲う猛獣がいる場所だって危機感が、まるでない。まぁ危機感なんて、コイツにはいつもないけどな。
「とにかくだ。こんな荒野にいてもしかたない。まずはこの世界の人間に接触だ。ここに人間がいれば、だがな」
アピュロン星人、頼むぜ。
ここは知性のある友好的な生き物がいる場所だよな?
できれば原生動物が人の形をしていると楽なんだけどな。期待はできねぇかもな。
最悪、他の日本人でも、見つけられたらいいか。
「とりあえず川沿いにいくぞ。現地の人間を見つける」
目の前には、ゴウゴウと音を立てている川だ。
「風が寒いな、足元に気をつけろよ。滑るぞ」
「は。こんな寒い日に水になんか、ぜったい落ちたかねえわ、死ぬわ」
降ったり止んだりを繰り返す雨で、川がとんでもなく増水している。
「てあれ………なんだあれ? 恐竜みたいのが流れてるぞ。ハハ、面白ッ」
「マジかよ……」
恐竜? どうだろうな。どちらかというと、あれは馬ほどデカいトカゲだろう。
全体的にトカゲかどうかも怪しいけどな。首に毛が生えているし。
おいおい、まさかあれなのか? あれが、ここの原住民か?
もしもデカいトカゲが、この惑星で最高の知性をもつ種族だとしたら、オレは仲良くなれそうにねえな。外見で判断して悪いがな。
しかし奇妙な生き物が色々いるよな。さすが異世界だぜ。
ん? 待てよ。トカゲの顔についている、あれは?
「
よし。トカゲ人間が原住民の線はないな。
トカゲの近くには荷馬車の箱っぽいのが流されている。
デカいトカゲの
「本当に、現実ばなれしてやがるな」
非常識な要素なんて、1個でいいだろ。
宇宙人と大トカゲの家畜と異世界人かよ。盛り過ぎだ。
でもこれは良い手がかりだな。
荷トカゲ車を持つ現地人がいるとわかったからな。
よーし、現地人の集落、探すか。
「行くぞ。まずは人里を見つけるぞ」
「ああ、わかった。もう手持ちのタバコねえし。あと酒のみてぇ。手に入れてぇな」
「酒とタバコか。まんまそのものは期待するな。植物の植生から違うからな、
「なんかワケわかんねーけど、とにかくいい感じのヤツ探してくれ、頼むわ」
オレらの現状が
どうして、荒野スタートなんだよ。都市の近くに降ろせよな。
アピュロン星人め、やってくれるぜ。まったくよ。
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