第14話 最大の望みはもう叶ってる

例えばだけど、子供のころから人付き合いが上手くなくて、さらに、誰かと比べて劣等感にいつも苦しんでいたとする。


自分の願いは作家になること。小説を書いて、売れて、お金持ちになって、注目されること。尊敬されて、誰か有名人と対談したり、インタビューを受けたりして。そんな夢を叶えたいと。

パッとしない自分の人生の一発逆転を狙っていて、それが作家になることだと思っていたとする。


なぜなら作文は上手いほうだったし、本をたくさん読んでいたし、好きだったし、作家への憧れもあったし、これくらいのモノなら自分だって書けるんじゃないかって思ったし。何より、差別されたり疎外されたりしてきた自分にとって、小説はこころを癒すものだったから。

自分も誰かに寄り添う物語を書きたい。誰かのために。


このあたりは本音だし、表向き、人も自分も騙せる。


けれど、根底にあるものはなんだろうか、と考えてみると作家になりたい人は、何か別のモノを抱えている。

別の願望を抱えていると思う。


自分がそうだから。


他人(ひと)とは違うんだ、ということを言いたくてたまらなくて、相当差別を受けたり、疎外されてきたくせに、だからこそ、その他大勢と自分は違うんだと言いたくて、この夢を追っているんじゃないだろうか。


嫌われていたり、孤独だったり、愛されている実感がないままに生きてきていたりすると、本当の自分の願いから目を背けて、体のいい、カッコいい夢にしがみ付いてしまう。


願いが叶えば、すべて、今までのことも、必要なことだったと自分を納得させられる。あんなことも、こんなことも、すべて、チャラになる。

周りを見返して、自分を大事にしてくれなかったことに対して、復讐ができる。少なくとも作家として成功した自分にはいらない奴らだと言えるから。


芸の肥やし的に過去を眺められる。


その時の自分は、単純に友人が欲しかったり

先輩にかわいがられたかったり

後輩から慕われたかったり

褒められたかったり

自由にしたかったり

注目を浴びたかったり

恋人が欲しかったり

モテたかったりした

だけなのに。全部その叶わないつらさには向き合わず、


どうせ自分は作家になるからいいんだ。

作家で成功して、褒められて、モテて、注目されるんだから、って、随分いろんな願望を作家になる夢の中に混ぜこんでしまったということはないか。


実際、子供のころの痛みが薄れ、様々なことが流れるように上手くいき、楽しい毎日とやりがいのある日常があって、


それでも作家になりたいと思えるのだろうか。


根底にある願いは何だろう。

賞賛、注目、有名、お金、見栄、プライド、愛


自分を特別な存在なのだと思いたい?


何がそんなに満たされたいのだろうか。

作家で食べていきたいという人は、書く以外の仕事のほうに魅力を感じてはいないだろうか。

ただ、ひたすら書くという孤独な職業について、何が欲しいのか考えてみるといいと思う。

読者だろうか。

書くのが喜びであって、結果的に作家になった、というのが一番理想的だと思う。


何か別のモノが欲しくて、それが一度に手に入るだろうという、一発逆転の宝くじみたいな発想で、作家という夢にしがみ付いているだけなんじゃないか、と考えるのもいいと思う。


作家になりたい人間はたくさんいる。書き続けられる人間は少ない、という。

書くことでしか充足を味わえない人間は、職業にしてもしなくてもどっちでもいいと思う。


いつまでも最大の願いを作家になることだなんて言わないで、と自分に言ってしまう。

何か欠けている月を見るような、満たされなさを抱えて生きないで、と思う。


これほどのしあわせがあって、満たされている環境があって、笑っていきているくせに、

いつまでも、作家になりたい、とかそんなつまらないことにこだわらないで、と言いたい。

所詮、一つの職業じゃないか。

単に小説じゃないか。

評価されるもされないも、売れるも売れないも

そんな、たかが、小説のことじゃないか。


作家の夢をバカにされたくない自分があえて言う。


もう、本当に欲しかった願いは、全て叶えてきているよ。

そして、これからの拡大していく願いも作家にならなくても叶っていくよ。


なりたいのはプロの作家じゃなくて、自分を満たす小説の書き手、これなんじゃないかな。

売れる、売れないとかに頭を悩ませたくなくて、

書きたいと思わない展開や胸苦しさを覚えるストーリーに対しては距離をおくくせに。誰の言う事も聞きたくないくせに。

この世界だからこそ、可能なかぎり自由になってこころのままに書きたい。窮屈な制約や書くことさえキライになりそうな、誰かにおもねることなんてしたくないのだ。


小説を書き始めて、今までの自分が自分にかけ続けていた洗脳を解く。

夢をあきらめたのではなくて、

その夢をもった理由は、

満たされない自分を埋めてくれるものが

作家になれば叶うはずだ、という誤まった思い込みだったのだから。



もう、最大の願いは叶っています。


職業を変えたくて、転職しよう、くらいのノリで十分だった。

大げさだった。

子供のころには、自分には絶対ムリだと思うようなめちゃくちゃ温かい世界で生きていながら、

まだ叶っていないという認識は捨てよう。


書くの好きだから、書こう。

読んで貰えると嬉しいから、出そう、アップしよう。

これが仕事になってもいいかな。

転職しようか。

名誉だとか知名度だとかお金だとか、そんなの作家になんなくても手に入る。むしろ漫画家のほうが上なんじゃ。

そして、作家になったからこそ、しあわせから遠のく場合もある。


小説は読まれなくなっているのに、書く人はたくさんいる。

楽しく書き続けたらいい。

いろいろ学びもあるだろうし、書きながら現実を好転させていくタイプもいるだろうしさ。


何が言いたかったというと、

作家になるために、こうしろ、こう書け、ノウハウ、これもあれも、を読んでると根本のところで違うんだけどな~と思うのだ。


何がしたくて書いているのか?

何が欲しくてかいているのか?


書くことの自由と喜びを失っても構わない、作家になれればいい。売れればいい、なんて人いるんだろうか。

出版社儲けさせたいボランティア精神ですか?


読者のため?

小説なんて読まなくったって生きていける。

漫画とYouTubeで学べるし情緒も育つ。いい日本語の文章を味わってもらうため?書いて人間がそもそもそんなに博学じゃないのに?


最後は自分。

自分と書くことの切っても切れない関係のなかで、どういう風に形作っていくか。


転職、なら雑多な書くこと以外の仕事も入ってくる。

単純に喜びのために書くのなら、精神は自由でいられる。


自分の最大の望みはもう叶っている。

今のこの全てが望んだ結果だ。意図してきたものの集大成だ。

いろんな奇跡も起きている。


その中でたまたま叶ってないことに対して、重きを置き過ぎている。

たかが、一職種だ。

たかが小説だ。


埋没してしまった本当の願いを掘り起こしてみて、それでも、やっぱり物語を書きたいのであれば、

振ったサイコロの目が全部凶と出ても、楽しんで、喜んで、笑って、真剣に作家になる道を模索して、

ひたすら書いて、味わえばいい。


この喜びに勝る喜びがないという可哀そうな自分であれば、遠からず、もっと時間とエネルギーが注げるように神のご加護だってあるやもしれぬ。

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