脳裏の花火

@Ycircle_2025

第1話

貴方の顔はどんな顔だったろうか。

貴方と見た花火はどう爆ぜたのだろうか。

とても朧げで、やるせない。

ただとても綺麗だったことは覚えている。

あぁどんな対価を差し出せば、

このモノクロームの古写真に色を付けてくれるのだろうか。

・・・・・

・・・

とある片田舎、どこにでもある街の中。

神社の境内で地域の中学生達の鳴らす風情あるお囃子が存在を主張する。

今日は夏祭りであることは疑いようもなく、浮かれた若者やカップル、そして家族連れ境内を闊歩している。どこに目を向けても幸せそうで、まさに夏祭りのあるべき姿だった。

そんな中一人境内を練り歩く学生がいた。

「………ふふはっ、風情だなぁ」

そう嘆息する中学三年生にして指先や服の至る所が絵の具で汚れている彼男川健斗(おがわ けんと)は身だしなみを気にしないことを全面に押し出しており、とても夏休みとは縁遠い存在のようである。

「お囃子終わるまで待たないとな」

そんな自分のお家至上主義の彼が祭りに足を運んだのは、 

祭りでお囃子を奏でる高校一年生になる姉を自分達の家に送るためである。

それまで孤独と絵画を愛する彼は一人で祭りを漫遊することを決めた。

「(祭りくじって当たった試しがないよなぁ)」

なけなしのお小遣いの戦利品である10枚のハズレクジをマジマジと睨みつけている。睨むべきは鏡だろうて

「(提灯の光って幻想的だよなぁ)」

感受性にしては人一倍あるが小学生のような感想だ

「(ポイ、すぐ破れる)」

金魚掬いでポイを振り回したらそうなるのも道理だろう

「(祭りの焼きそば美味しいなぁ)」

パックに入った焼きそばを頬に入れながら歩く

「(的の重さインチキかよ)」

ゲームハードが重くないはずがない

「(花火楽しみだな)」

祭りの締め、大トリの花火を想像する

「(絵の題材にしようかな)」

花火を絵の題材とすることに決めた


出店を周り、少し先の未来に思いを馳せる。

提灯の光や人だかり、ドンドンピーヒャラとなるお囃子が非日常を演出している。

綺麗なドンドンピーヒャラの中に姉がいるとなると嬉しいがこそばゆい。

綺麗な時間は矢のように流れ、お囃子は止む頃になる

「ふふ楽しかったね」

「そうだねー、来年もまたやろっかな」

そうざっざと砂利を踏み分ける足音が耳に入る

「そうしよそうしよ」

「来年も一緒にやろうね」

「ねー」

「あっ健斗」

そう自分の名前が呼ばれた。

「翠姉、お疲れ様」

「ん、健斗来てたんだ」

振り返るとそこに姉、男川(おがわ)翠(すい)が立っていた。汚れのない浴衣を着こなしているところを見ると健斗とは違い祭りに縁近い人物のようだ。

「何々?弟くん?」

「そ」

「姉がお世話になってます、男川健斗です」

「千川夏美(ちがわ なつみ)です。

ふふっ翠に全然似てないね。礼儀正しいもん」

「どういう意味よ⁉︎」

「そういうところ」

「ふふはっ」

「健斗!後で覚えてなさいよっ!」

そう、自己紹介をしつつ3人でじゃれ合いをしていると彼の姉の友達が話を変える

「そうだ健斗君、私と翠は一緒にお泊まり会するから

送る役は大丈夫だよ」

「そうなの?翠姉」

「言ってなかった?健斗」

「言ってないよ翠姉」

「翠、そういうのちゃんと言わないと」

そう言う割にお泊まり会の予定を伝えたのは翠の人物像を良くしっているが故に

「ん」

「翠の友達の人!もっと「夏美で良いよ」」

「…夏美さん!もっと言ってやってください」

「健斗!あんたは黙って帰りなさい!」

「翠?」

「ん…わかった、静かに帰路につきなさい!」

「そういうことじゃないんだけどなー」

「わかったけどさぁ、終わりの花火くらい一緒に見ようよ」

「ん…そんくらいなら良いわよ。夏美も良い?」

「いーよー」

そう話に花を咲かせるとパァンという破裂音がした

「げっもう始まったじゃない」

「綺麗…」

「うん…」

「良い雰囲気なってんじゃないわよ!あんたら初対面でしょうが!」

「翠姉うるさい」

「翠、うるさい」

「覚えてなさいよ!健斗!」

「なんで僕だけ⁉︎」

そんな賑やかな中に見た、夜に咲く花火はどんな花よりもどうしようもなく綺麗で、どうしようもなく儚かった。あと少し、もうちょっとだけ見たいな、そう思ったところで花火は終わる。有終の美の体現したものと言っても過言ではないだろう。打ち上がり爆ぜ散るこんな単純なサイクルが人を魅了するのだ。

「(今僕幸せだな)」

「終わっちゃったね健斗君、翠」

「ね」

「終わっちゃいましたね…」

「気をつけて帰るのよ、健斗」

「じゃ夜道に気をつけてね、私達別の方向だから」

「はーい」

そう二人と別れ帰路に着く、この神社は山の中にあり家は麓にある。

つまりクソほど遠い、更に孤独と暗闇プレゼント、祭りの空気をバフとして付いていてもうんざりしてしまうのは当たり前だろう。

かくいう健斗も多少ヤケになりながら山道を降る。

「(もう…なんだよ!翠姉のアマァ、無駄足を踏ませやがって……獣怖いなぁ)」

思い出しただけでも絵画を描く作業を中止せざるを得なかったことを思い出して頭に血が昇るが地元民とはいえ危険な夜の山であることを思い出し冷静になる。

街灯がほとんどないため懐中電灯で照らして山道を降る。

「ん?」

そんななか草むらから光る双眸を見出した

「やばっぁ」

そうは思った時にはもう遅く猪に跳ね飛ばされてしまい彼は身体と共に意識が飛んだのだ

・・・・・・

・・・・

・・

健斗が次に気が付いた場所は瞼を開けた感覚はあるが何も見えない暗峠だった

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