向上

チビ王子は困惑していた。魔力が体に流れ込んでくる感覚は理解している。体が他の魔力を拒否しているのがありありと分かるそれは弟が強がれるものではない。


「本当に痛くないの…?痺れたりとか…」


「すごくつめたい」


「いやまあそうなんだろうけど…」


チビ王子は目の前で起きたことを冷静に判断し、魔力による攻撃から通常魔法による行動制限に戦術を切り替える。


「ふんっ!」


「ここだ。氷地アイスバーン


「うわぁっ!」


踏み込みの着地点を凍結させる。足を滑らせるプチ王子。


盾氷シルデイス


チビ王子はすっぽ抜けた剣を受け流し、体勢を崩したプチ王子の背後に回る。


「つかまえた」


「離して!はなして!」


「そこまで!」


合図をしたのは、様子を見にきたペン大王だった。


「勝者、チビ!実に素晴らしい試合だったぞ」


「まってよ、まだ決着はついてない!」


「プチはまだ柔術を習ってないだろう。抜け出し方を知らないとどうにもならないぞ」


「むー、じゃあ今から習ってくる!そしてもう一回お兄ちゃんと戦う!」


「無茶な鍛錬は体を壊すぞ。まずは体を拭きなさい」


「はーい…」


とぼとぼと去っていく背中を見ながら、負けず嫌いな所は幼い頃の自分にそっくりだと思う大王。そこにチビ王子が話しかける。


「あいつは、強くなるよ」


「ああ、そうだな。間違いない。ところでチビ、お前は攻撃魔法をほとんど使わなかったじゃないか」


「攻撃魔法が効かないんだよ。多分体質が関係してる。魔力が体内に流れ込まず、拒絶反応が出ないんだろうね」


「ほう…?だが、いくら組織が魔力を通さなくても、強い魔力なら細胞の隙間に流れるはずだろう」


「あのパワーを見るに、常鳥離れした筋肉密度が隙間を無くしているのかな。なんて、普通に考えたらありえないけど」


ありえない。しかし実際効いていない。事実だと認めざるを得ない。


「生まれついての戦闘の才能…。まあ、これからどうするかはプチ次第だな」


  ◇


その日の夕食は特別豪華だった。プチ王子は大好物の鯛グラタンパイに目を輝かせる。


「いただきまーす!」


口一杯に頬張り、幸せそうなプチ王子。


「もっと落ち着いて食べろよ。喉に詰まらせるぞ」


窘めるチビ王子。その様子を見て微笑む父と母。ペン大王が言う。


「質のいい食事はよい身体、よい魔力を作る。どんどん食べて大きくなるんだぞ」


「じゃあお兄ちゃんのも食べちゃおー」


「おいこら!返せ!」


こうして楽しい夕食の時間は過ぎていく。


  ◇


流れ出すことなく体内に溜まり続ける魔力。


『お、動けるな』

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ペンギン王子の冒険譚 千騎・紅蓮竜 @senkigurenryu

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