屋上にいた華

@LucaAconia

第1話 屋上にいる華

晴天で日が照り、ジリジリとした暑さが世界に降り注いでいる今日。


いつもの日課で屋上へ向い、扉を開けると、普段いない先客がいた。


そしてその先客は、フェンス越しに立っていた。


「…止めに来たの?」


同じクラスの''華''が、顔を少しこちらに向けながら話す。

その''華''は微笑んでいた。


僕は''華''の質問に答える。


「いや、日課でいつも通り屋上に来ただけ…えっと、止めた方がいい?」


また完全に背を向けて''華''は、


「止めなくていいよ。むしろ止めないで…このまま美しく散らせて。」


と、透き通るような声で言った。

まるでこのまま消えてしまいそうな声だった。


思わず僕は''華''に問う。


「美しく散るって、どういうこと?老いて死ぬのが怖いから、美しい今の時に死ぬ…ってこと?」


''華''はふふっと笑った後、クルッと180°回転してから答えてくれた。


「そう!ほぼ正解!みんながクラスの''華''である私を、美しい美しいって言ってる時に、私が美しく散ったらどう思うかなって!」


あははっと無邪気に笑う''華''を見て、少しゾッとしてしまった。


これから飛び降りて、自殺しようとしているというのに、こんなにも無邪気に笑う人はいるだろうか。


…いや、きっとこの''華''だけだろう。



そんな''華''を見て、僕はポツリと、


「もったいないな…」


と口にしてしまった。

その言葉が''華''に届いたのか、


「もったいない、かぁ…」


と、僕が口にしてしまった言葉を復唱して、考えるような素振りを見せた後、


「どうしてそう思ったの?」


そう無邪気に聞いてきた。

その問いに僕は、


「君は生きているからこそ、美しくて、綺麗なのに…輝いているのに…死んでしまったら、その輝きがなくなると思うと、もったいないなーって…」


と、言っててだんだん恥ずかしくなって、声が小さくなっていったが、正直に答えた。


そんな僕の様子を見て、''華''は吹き出して、そして声に出して笑った。


「あっははは!なんかキザっぽーい!あははっ!」


「笑わないでくれよ!そ、それだけもったいないって思ったんだ!生きている君は綺麗なんだよ!!」


キザっぽいと言われ、恥ずかしくなって声を荒げる。

…もっと恥ずかしいことを言った気がした。


''華''はまだクスクスと笑っている。

僕もなんだかおかしくなって、一緒に笑った。


一頻ひとしきり笑った後、''華''は、フェンスを登って安全な場所に降り立った。


そんな''華''の様子を見て僕は


「自殺、やめてくれるの?」


と、''華''に問うと''華''は


「今日はやめる!」


と言った。

そして、パタパタと屋上の扉の方へ走り、


「またね!」


と言いながら''華''は去っていった。



''華''が去ってから、一気に静かな屋上へ変わった。


屋上からは、部活動中の生徒が小さく見えるグラウンド、遠くに見える住宅街…


そして、フェンス越しから頑張って下を見ると、園芸同好会が育てている色とりどりの花が咲いていた。


今日はその花を日課として、写真に収めた。

花は綺麗だった。

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