第3話 バドミントン

「私、やってみたい事があるの」

「なんだぁ」

 昼ご飯を食べ終わったころに、如月さんが突然に声を発する。如月さんの声に応えるように、彼女の方に向く。すると、彼女は、決死の表情をしていた。何か大事なことを言うのだろうか。

「私、バドミントンがしてみたい」

「ん? なんだ。そんなことか」

「なんだじゃないよ。私にとっては大事なことなんだよ」

 如月さんは頬をむっくりとさせ、俺の胸をポコポコと叩く。

「悪かったて」

「じゃあ、借りにしといてあげる」

いたずらっ子のような笑みをしながら、足早に体育館の方へと向かっていった。

 体育館に来たが、部活に入っていないので、バドミントンの道具がどこにあるのかわからない。

「……」

「どうしたの?」

 背後から、如月さんの声が聞こえてくる。

「いや、バドミントンの道具ってどこにあるのかわからないなと」

「そんなこと。そこだよ」

そういいながら、体育館のステージの下を指さす。

「分かった」

 如月さんの言う通りの場所に行き、道具を探す。すると、如月さんが体育館のステージ下にある引き出しの取っ手を掴む。

「あ、そこか」

 真面目に体育の授業に出ていればよかったななんて思いながら、如月さんの手伝いをする。キィキィとなる収納台車を引っ張りながら、中を見るとそこにはバドミントンのポールが入っていた。

「床の奴外すから、持ってきて」

「う、うん」

そういいながら、如月さんは床の金具を外す。……妙に手馴れているな。もしかして、バドミントン部か? だったらいいな。あまりにもできない自分が恥ずかしくなってくるのだから。如月さんの言う通りにポールを運び、外した金具の中へ入れる。

「あとは、ネットとラケットだな」

「うん! 確か、左奥の倉庫だった気がする」

 走って倉庫に向かう如月さんを後ろから、トコトコと付いていく。

「あったか?」

「んー、ラケットはあったけど、ネットが見つかんない!」

「こういうのって棚にあるだろ。あっ」

「え?」

 棚に向かおうとしたところで床にあった謎のひもに引っかかり転んでしまう。

「いてて」

「もう、しっかりして」

 少し前かがみになった如月さんが、手を差し伸べてくれる。

「ありがとう」

 手を取り、起き上がると引っかかったひもを見ると、バドミントンのネットだ。

「あったよ」

「どこ?」

「俺が引っかかったひもだ」

「ナイス。怪我の功名ってやつだね」

「まぁ、そうだな」

 何とか見つけたバドミントンのネットを先ほどのポールの場所へ持っていき、バドミントンのコートを完成させる。

「よしできたな。試合でもするか」

「……バドミントンってどうやるの?」

「え?」

バドミントンのコートを作るのは、あんなに頼もしかったのになぜ、ルールがわからないんだ。如月さんの謎の発言に俺の自然に出た言葉は、体育館の外へ静かに消えていった。

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鮮やか空の下で淡い君を見た 海亀君 @umigamekun

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