25。キツネの独白〜手玉、お手玉〜下
「私が―――メルティちゃんの
――ピコン♪
――【経験値を獲得しました】
――【『武器変更機能』が『
ぴこんぽこん、というなんとも間の抜けた音。それと同時に青いプレートが、現れました。私の「
暗い空間の中で、綺麗に光っています。
燐火が舞い上がるとともに、光で出来たグローブが現れました。
「ガントレット……ですか?」
これ、知っています。
「すりぃでぃ投影」というものですよね。
前、先生に教わった覚えがあります。
魔法がない世界なのに光を操る技術があるなんて、と驚いた気がします。
その青い光に触れると、空中に文字がふと浮かび上がりました。
――【武器変更 しますか? はい・いいえ】
よくわからないですが、疑問は後回しです。
「……はい!変更します!」
長剣もいいですが、この狭い空間ではまともに動けません。
どうしてこのような魔法が発動したのかはよくわかりませんが、せっかく新しい武器が手に入ったのですから、使ってみます。
――【武器変更 loading……】
――【武器変更 完了】
その瞬間、私の両手は白のガントレットに包まれました。
青緑色の宝石が手の甲に
それになんだか、力が湧いてきます。
「すぅ……はぁ……」
深呼吸。
私は助走をつけて跳び上がりました。
「メルティちゃんを……返してください!!」
緑色の巣に、私の拳が激突します。
ぐらんと蔦が揺らぎました。
さすがに無視できなくなったのか、口のモンスターが何匹も飛びかかってきました。
なんとか一つ目をかわし、二つ目の裏にまわって歯に向かってパンチを繰り出します。
まだ怯んでくれません。
「まだまだです!」
左。右。パンチ。
しばらくすると、幾つかの歯にヒビが入りました。
「そこです!」
ヒビに向かって、殴りつけます。
自分がやられたら絶対に痛いです。
が。
「痛いのは私も、です!はやくメルティちゃんを返してください!」
そう思えば思うほど、力が沸いてきました。
――ばりっ。
ぐっと拳に体重をかけると、ようやく一枚の歯が粉砕しました。
よし。
キツネ、その調子ですよ。
昂ぶる気持ちを抑え、私は拳を構えました。
まだまだ、相手がいっぱいいます。
気は抜けません。
前から二体。横から一体。
決めました。
「まずはあなたです!」
運がいいことに、口たちは大きいので、ターゲットを定めやすいのです。
歯の隙間をすり抜けて、これを足場に一回転。
――見えました。
先程もそうですが、この歯たちは裏側がかなり削れていて、脆いです。
何の恨みもありませんが、弱みを使わせていただきます。
そこをめがけて、パンチをねじ込みました。
一。二。三連撃。
ばりん。
放射線状のヒビ。
衝撃を与えると、粉々に砕け散りました。
どれほど時間が経ったかもわかりません。
ただ、ただ、躱して。
隙を狙って。
砕いて。
――疲弊が、隠せなくなって来ました。
それなのに、相手はちっとも減りません。
焦燥感。
もどかしさ。
じわじわと体力が消耗していく感覚。
腕が、自分のものではなくなる感覚――。
――ピコン♪
「な、なんですか」
またあの、気が抜けるような音。
もしかしたら、大事な情報かもしれません。
私は歯の裂け目に隠れました。
必殺、灯台下暗しです。
さて、見てみましょうか。
私は自分の「
どれどれ……。
――【取り扱い説明書が 一件 届いています】
――【開封 しますか? はい・いいえ】
はい、に決まっています。
【『翠ノ祝福』――白のガントレット。魔力を込めてパンチをすることで、相手に『お名前シール』を貼ることができる】
【『お名前シール』――貼ったものを自分のものとして登録できる】
私は自分の手に嵌められたガントレットを凝視したまま、固まってしまいました。
な、なんですかこの後出し情報。
「はっ……!そっか、わかりました。思い出しました!」
ふと、記憶が脳裏に過ぎりました。
――あのお世話になった先生との、思い出の会話を。
――『キッちゃん、そろそろお寝んねの時間だよ。さすがに一緒に寝るのはボクが怒られちゃうから一人でね』
えぇーっ、やぁなの!
――『ん、困ったなぁ。……あ、そうだ。一つ大事なお話をしよう。キッちゃんに教えた魔法についてだよ』
きりゃきりゃ!
――『うん?あ、まあ、あの青い人格(アカウント)印は確かにキラキラだねー。で、これはとても大事で、秘密のお話なんだ。聞いてくれるかな?』
え、なになにー、しりたいー。
――『じゃあ伝えたらおねんねだよ』
はぁい。
――『……あのきらきらのマークは、いろんな時に使えるんだ。例えば、お名前シールって知ってる?』
うん!しってりゅ! じゅぶんのものに、はる、しーりゅれしょ?しぇんしぇが、まぁえ、おちえてくりぇた。
―――『そーそー。実は、あのマークはお名前シールと同じようなものなんだ』
しょなの? あたちのもの?
―――『そ。あるいは、友達とも言うよ。例えば、キッちゃんはお手玉遊びがしたいとする。……お手玉遊びといえば?
はい!あたちしってりゅ! あんたがったどっこしゃ、っておてだまぽんぽんして、ぽんってして、わってなるの!
―――『ん、正解。で、キッちゃんが今お手玉で遊びたいけど、お友達がいないとする。キッちゃんならどうする?』
んーー、はい! じゃあ、あたち、おともらちよぶ!
―――『お、いいね』
あたちわかった! あおい、きりゃきりゃをぽんってつけりゅと、おともらちになって、おてだまであそべりゅの!』
―――『お、そういうことそういうこと。さすがキッちゃんだねー。クールだよー』
じゃあ、じゃあ、はい!おとーしゃんおかーしゃん、しぇんしぇ、じぇんいんにぽんってしたら、ずっとあしょべりゅ?
―――『え?まぁ……うん。遊びというかー……』
じゃあ、はい! てぃらにょしゃーりゅす? しゃんとか、しょうとくたいちしゃんとか、びぃきゅう?えいが?のしゃめしゃんとか、ぜんいんぽんぽんぽーんってしたら、いっちょにおてだま!
―――『ち、チョイスが中々だねー。う、うん、いいと思うよー。……あー、聖徳太子はさすがにきついかなぁ』
しょなの?
『……ま、いつか将来、相手にぽんってきらきらマークを付けられるようになったら、一緒に"オ遊ビ"ができるから。覚えておくといいよ』
懐かしい、記憶です。
それから一時期、自分のものには全部「お名前シール」を貼った覚えがあります。
「ようやくわかりましたよ、先生……。はぁ……まったく、三歳児に言う情報じゃないでしょう、あれ」
私は、新たに使えるようになった魔法を、確認しました。
ざらっと、一覧。
ですが、私はもう、使う魔法を決めてあるのです。
――あの日。
先生とお別れする日。
一緒に遊んだ、かけがえない思い出を。
息を整えて、私はもう一度表舞台へと出ました。
一斉に、歯たちがこっちを向きます。
今度は青い炎も纏っています。
あちこちに燃え移っていて、触れたらタダではすみません。
私は歯の噛みつきを躱しつつ、軽いジャブを入れます。
パンチ。
パンチ。
パンチ。
しばらくするとあたり一面が、青いプレートだらけになりました。
――さあ。
メルティちゃんを返してもらうまで、私の「オ遊ビ」に付き合ってもらいましょうか。
――パンッ!
合掌。
では、いきます。
「――【逆サオ手玉】――」
メルティ✕ギルティ〜その少女はやがて暗夜をも統べる〜 びば! @bibabikkuri
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