第4話 こっくりさんと学食③

「驚くのも無理なかろう。絶世の美女を目の当たりにしてはな……」

 普通なら彼女のやれやれといった仕草に、イラつくのだが、僕にそこまで余裕のない。

 何故急に顔を出したのか、そこが不思議で仕方がない。

「なんで面を取ったの?」

「ん?旨いご飯を食べたからかの?ようやく出来上がったわ」

 何故ご飯が関係しているのか、出来上がりとは、全く意味不明だ。


「すまないけど、もう少し分かりやすく説明してもらえるかな?」


「え~~これで伝わらぬのかぁ?」

 人を馬鹿にするような顔で、はぁ、と溜息を零した。


「先ほどまでは力が無くての?ご飯を食べた、だから元気いっぱい、力が漲る、本来の姿に戻れる、幼稚なお頭でも、これならご理解頂けたかの?」

「なるほど、よく分かりました。丁寧なご説明ありがとうございます」

 僕はなるべく深くお辞儀をして、我慢できない表情を隠した。


「で、聞きたい事はそれだけか?」

 そんな訳があるか。まだまだ山ほどある。

「まず君は……名前を教えてくれるかな?」

「ない」

「え?名前がない?」

「ない、というより忘れてしもうた」

「じゃあなんて呼べば?面女?炒飯女?」

「吹き飛ばすぞ、小僧」

 お気に召さない様子だ。だが名前がない。

 普通は不便に感じるだろうが、まぁ今は気にしなくてもいいか。

「まぁ名前は思い出し――」

「お主らに呼ばれたからのぉ~。ん~~こっくりさん、こっくり、まぁコクリでいいか」


 なんて安易な名前だろうか。こっくりさんだからコクリ――

「ちょっと待って。こっくりさん?君が?」

「なんじゃ気付いておらんかったのか?」


 いや、幽霊や妖怪だとは思っていたけど、こっくりさん本人とは思いもしなかった。

「じゃあこっくりさんて名前があるじゃないか」

「それは名前ではないし、可愛くなかろう?」

 幽霊?でも可愛いとかの気にするのか。

「頭がパンクしそうだ……何から聞けばいいのか……」

「要が一番気になる事でええじゃろ」

 一番、気になる事。

 僕らに憑りついて何がしたいんだ?

 ご飯を食べたら消えてくれないのか?

 なんで和奏に化けてたのか?


「和奏は今、どこにいるんだ?」

 僕が一番気になる事はコレしかない。

「だから目の前におると言うてるじゃろ」

「だから僕の目の前には君し――コクリしか居ないじゃないか」

 どう見ても僕の前には1人の女性しか見えない。

 僕がおかしいのか、コクリがおかしいのか、どう考えたってコクリがおかしい。


「まったく、仕方がないのぉ。次も上手いご飯を期待しておるぞ?要……」


 コクリはそう言って狐の面をゆっくりと顔に近づけていく。

 この時、僕は初めて気付いた。

 コクリの瞳は濃くて紅くて、吸い込まれてしまいそうになるほど美しかった。

 徐々に面が顔を覆って行くと、ポンッと不思議な効果音と共に煙が上がった。

 まるでアニメや漫画で狐や狸が変化する時に起きる現象。


 あっという間にその煙は霧散して、僕の目の前には女の子がキョトンとして座っていた。

 コクリとは違う。黒い髪は肩よりも長く、健康的な小麦色の肌。猫目というより狸顔。口元には米粒に、油でコーティングされた唇、はそのままなのか。


「あれ?要?あれ?ここ、学校?私、学校来てたっけ?」

 これは何も覚えてないのか。なんてややこしい事をしてくれたんだアイツは。

 説明しようにも、僕にも分からない事だらけなのに。


「和奏、寝ぼけてるんじゃないか?ご飯も美味しそうに食べてたじゃないか」

 今は説明する時ではない。時間もないし、ただパニックになるだけだ。

 信じてもらえるのかすら分からない。


「え、っと。そうだっけ?あは、は……確かに口の中ちょっと炒飯の味がする!た、食べた!思い出した!久しぶりの学食ではしゃぎ過ぎたのかなぁ!?あははー!」


 すまない和奏。僕は全部分かってる。だからそんな無理しないでくれ、悲しくなってくるじゃないか。



 そうして僕達は午後の授業を受ける為に教室へ戻って行く。

 和奏は終始腑に落ちない様子なのはしょうがない。



 僕もなにがなんだか……

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こっくりさんはいつも腹ペコ おころん @okoron0909

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