第七首:「第54回私の短歌で物語を綴って下さい」参加作


 平成30(2018)年1月1日-1

お題249『元旦だからハッピーニューパニック』

「元旦」-1:あれ?

     

     いつまでも

       部屋が真っ暗

          おかしいぞ


     雨戸開けても

          暗かった



 2018年一月一日、新たな年を迎えたこの日、朝を迎え辺りが明るくなる筈の時間をとっくに過ぎた時刻になっても、空は依然として暗いまま、一向に夜の明ける気配すら見せない様子に、世界中がパニックを起こしていた。


「皆さん、落ち着いて行動してください。現在全力で原因を究明中です。決して……(スゥー)パニック、になど、ならず、に、ウァァァァァァーッ! おち、っちちゅいて、アィィィィィィーッ!」


「駄目だこりゃ。」

  惰性で点けっぱなしにしていたテレビを消し、もう何個目になるか分からない蜜柑に手を伸ばすと、適当に剥き剥きしながら(こういう時性格が出る)、向いの几帳面に綺麗に剝かれたミカンの皮にチラと目を走らせつつ、不貞腐れた顔で蜜柑を頬張る相手に声を掛けるのだった。


「だからぁ、もういい加減元に戻ったらどうですか? ホラ、皆困ってるじゃないですか。」


 その言葉に、フンッと鼻を鳴らすと、向いの相手はジットリと此方に目を向けながら、拗ねている事が丸分かりのゴニョゴニョ声で、


「嫌じゃ、帰りとうない。」

 と返して来た。それが合図になったかの様に、それまでだんまりを決め込んでいた反動か、不満の言葉が、それはもう立て板に水の如くに溢れ出す。


「可笑しいじゃろ? 元旦じゃぞ? 何で休んだらいかんのじゃ? 一日くらい夜のままでも死にゃあせん。それをなんじゃ、世界の終わりでも来たみたいにギャアギャアと騒ぎ立ておって。根性が足りん、根性が。大体、常々思っておったのじゃ、感謝の心が足りん。あの七福神だってあんな煌びやかな宝船に乗って畏れ敬われているというに、なんじゃ、妾にはなんも労いの言葉も無し。居て当たり前の様に雑に扱いおって、全く以て気に入らん! なあ、おんしもそう思うじゃろぅ?」


「それなんですがね、」自分はスマホを片手にそれまで見ていた某掲示板のあるスレを開くと、相手に差し出して見せた。

「どうやら、それ所じゃないみたいですよ。」

 そこには、


【悲報】宝船所じゃない件、文字通り日の目を見れなくてワロタ【もういい加減機嫌直して下さい】

 

 と云う字がデカデカと綴られていた。それに付けられたレスも混乱に満ちて、いや、そうでもないか。


37:新年の名無しさん

 お前らよくこんな状況でレスなんかできるな。この世の終わりが来ても平常運転かよ。


46:新年の名無しさん

 お前それめっちゃブーメラン刺さってるやん。


53:新年の名無しさん

 逆に考えるんだ。この世の終わりが来たからこそ、後悔の無い様に全力で掲示板にしがみ付くんだと。


59:新年の名無しさん

 草


63:新年の名無しさん

 骨の髄までネットに毒されてて草


68:名無しの神様

 オーケー、落ち着けお前ら。今全力で原因を説得中だから暫く待て。今日中には何とかするから。でなきゃ俺たちの年に一番の晴れ舞台がオシャカだ。


71:新年の名無しさん

 何の話か分からないけど、全力で自分都合でワロタ。



「だからって、皆で集まる事ないじゃないですか。ただでさえこの部屋狭いのに。代表の誰かで良かったんですよ。七人は流石に詰め込み過ぎですって。」


「仕方なかろう、事が事じゃし。」

「然り然り。」

「人間は器量が狭くていかんわ。」

「そうじゃそうじゃ、炬燵に入らずにこうして座ってるだけでも有り難いと思え。」


 ……騒がしい。と云うか帰って欲しい。一月一日、元旦は何もせずボケっと日がな一日呆けて過ごす、これが醍醐味だと云うのに、無意味に集まって騒ぎ立てるだけなのはテレビの中だけで十分だ。


「まあ、色々とご不満がある事は分かりましたし、積もる話もあるでしょうが、ここは一旦お帰り頂いて、後日腰を据えてこの件について改めて話し合うという方向で……。」

「おんし、妾に炬燵を捨てろと云うのか!? 炬燵も無しにこの寒空の下に放り出すと云うのか!? 人の心は無いのか!?」


 ……、いや、どちらかと云うと貴方、温める側ですよね?


「決めた、もう妾はこの炬燵から出んぞ。決定。こんな冷たい世間の風に当てられて、すっかりやる気が失せたわ。」


 すると部屋の隅で正座していた七人の内の一人が、半ば諦めた様に、


「あー、もうそれで良いですから、兎に角帰りましょ、ね? その炬燵持って帰って良いですから。」


 良くない、それ家の炬燵。


「うー、まあ、そう言う事なら……。」


 納得しないで、それ家の炬燵……。


 茫然と見守る中、不意に肩を叩かれ振り返る、其処にはやたらと福福しい御仁が満面の笑みで、


「諦めい、こういう言葉もある、”来ぬのなら、春まで待とう、掘り炬燵”。」

「喧しいわ!!」


 それから? そりゃ大騒ぎでしたよ。至る所で”空飛ぶ炬燵”の話題で持ちきりだったし、


「アイエエ!? コタツ、ナンデ!? ジャパニーズ・コタツ、ナンデ!?」


 あ、向こうの言葉でも炬燵はコタツなんだ、なんて至極どうでも良い感想は兎も角、世界中に炬燵の存在を知らしめた出来事として、記憶されたことも、まあどうでも良い。

 急遽召集された国会で、この一連の騒動の責任を問われた首相がマジ切れして、国会全体が大乱闘ス〇ッシュブラザーズと化したのも、割とどうでも良い。普段温厚で以て知られる首相が難癖付けた野党議員を無表情でボコボコにしていたのは、ちょびっと印象的だったけど。


「おー、最近の議会は言葉でなく拳で語るのか。実に斬新じゃのう。」

「何でまだ居るんです? 帰ったんじゃなかったんですか?」

「何でそんな酷い事を言うんじゃ? 空にはYo-Tubeもニヤスカ動画も無いんじゃぞ? 退屈で妾を殺す気か?」


 ……知らんがな。ネットに毒され過ぎ。


「妾の勤めは昼の間だけ。夜はフリーじゃからのう。何処で何をしようが妾の勝手じゃろうが。」


 あの……、時差は……?


「それよりも、蜜柑じゃ蜜柑。炬燵と言えば蜜柑、蜜柑と言えば炬燵。この世の理じゃろうが。」


 言って、机をバンバンと叩く。


「行儀悪いですよ。それに食べ過ぎると手が黄色くなるじゃないですか。」

「問題ない。妾は元より黄色いからな。知っておろう?」


 そう言って、ニカッとお日様の様な……、いや、お日様その物の笑顔を向けるのだった。

 その笑顔に何も言えなくなってしまう自分の性格が恨めしい。


 こうして新年の一日は、まったりと更けていく……。



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茜射し 色づく街に 淡く降る 雪のはだれに アゲハ舞い飛ぶ 色街アゲハ @iromatiageha

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