イジメという言葉を否定する
千夜すう
日常の綻び
蝉の鳴き声が煩く教室に届いていた。
蒸し暑い季節で制服のシャツが汗で濡れて張り付いて着心地が悪かった。
スカートの下に履いてるスパッツは下着が見え防止に履いている。
だが、この季節熱く蒸れて脱ぎ捨てたい衝動に駆られてしまう。
この蒸し暑さから脱却したい。
学生はこの地獄の季節を少しでも楽しくあるように青春のスパイスで乗り切ろうとしていると思う。
「おはよう」
教室に入って直ぐ、聞こえる程度の挨拶をした。
近くに居たものがなんとなくで挨拶を返してくれる。
「あっ来た来た!あ~ちゃん大変だよ!!!!!」
私が教室に入ったと気づき、おいでおいでと左手を素早く上下にさせて呼ばれた。
「ちょっと騒ぎ過ぎよ。あ~ちゃん困っちゃうじゃん」
「ごめん」
分かりやすく落ち込む友人とはしゃぎ過ぎたのを冷静に注意する様は飼い主に見える。
そんな二人を見て相変わらずの姿にクスッとした。
2人と違い、もう一人の友人はどこか浮かない顔をしていて、なんだろうと思いながら、自分の席に寄らずに真っすぐ三人が待つところに向かった。
「朝からどうしたの?」
「実は妹が風邪引いたみたで...ごめん今日のお泊り会は中止になった」
「あ~なるほどね~妹ちゃんにお大事にね」
「ありがとう。本当にごめん」
「全然気にしないで」
私含め四人は小学生からの幼馴染で凄く仲が良かった。
高校一年になって奇跡的に同じクラスになり受験お疲れ様会諸々含めて友人の家に集まってお泊り会しようとなった。
友人達は部活で私はバイトを始めて忙しくしていて四人でやっとすり合わせた結果がこの通りである。
友人の妹が風邪になっても仕方ない。
私の妹からは夏なのに風邪が流行っていると聞いてて、明日は我が身と思いながら予防対策をしっかりしていた。
そして、友人の妹と私の妹は同じ学校の同学年である。
その後、先生が教室に入ってくるまで空いてる日を共有していた。
女子高校生にとって楽しいイベントが無くなったとしても授業は通常通り行われた。
「今日、お泊り会なくなったから自主練行ってくる!!」
そう宣言して元気よく教室から出て行った。
「慌ただしいわね」
「まぁ元気だよね」
「私は妹が心配だから帰るわ」
お大事にと言って見送る
「あ~ちゃんどうする?」
予定が無くなってどうするか聞かれた。
いつも時間が空くと高校の最寄り駅前のチェーンカフェに寄ってお喋りをするのが定番だった。
「ごめん。ちょっと金欠で」
「そっか了解」
バイトを頑張ってるからそこまで金欠ではなかったけどお気に入りの個人経営のカフェに行きたくて断った。
家の最寄り駅は同じだからそこまではお喋りしながら一緒に帰った。
話題はお泊り会残念だったのと学校の事が中心だった。
家の最寄りに着くと家の歩行が真逆で出口が違う為に別れて歩く。
慣れたように自分の家の方に向かい通り越す。
家の先徒歩10分にある小学高学年の時からお気に入りの個人経営のカフェに向かった。
住宅街に囲まれたヨーロッパの様な外観が異様に溶け込む建物が見える。
近くに寄るとドアに張り紙が張られていた。
「臨時休業のお知らせ」
張り紙には10日間と書かれていた。
「今日からだったの忘れていたわ」
ここのマスターは旅行が好きでその度に臨時休業するのだ。
最近、バイトがあったりと来れてなくて忘れていたのだ。
確か、今回はイギリスに行くと言っていたような...。
久しぶりに行けると楽しみにしていただけにがっくりとしてしまった。
ただただ、暑い外を歩いただけである。
仕方なくやる気を失った気力のなさで家まで来た道を戻った。
外側から見た自宅はカーテンが閉まっていて電気がついてる様子が無かった。
中学生の妹が家に居れば自室のカーテンが開いていた。
家に誰もいないと思ってスクールバックからキーケースを取り出し鍵を開ける。
「ただいま」
誰も居ないと分かってても挨拶してしまう習慣。
家に入ると帰ってないはずの妹の靴が目に入った。
少しの違和感を感じながら二階の自室に向かった。
「疲れた」
汗で張り付くシャツを脱ぎ捨てて楽な部屋義に着替える。
そして、ふと妹の部屋に明かりが付いていないかもしれないと思った。
カーテンが開いていない事も気になってしまった。
自室を出て隣の妹の部屋の前に立つ。
キッチリと閉められたドアの下に目を向けた。
光が漏れ出てないことから室内は電気が入ってないと示していた。
寝ているかもしれない。
慣れない中学生活してるせいかリビングのソファで眠る事があった。
今日は部屋で寝ているんだと思って下に降りようとして階段を途中まで降りたときに思い出した。
どこか体調が悪そうで早めに部屋に戻っていた。
友達の妹の事もあるし風邪引いてるかもしれないと様子をみることにした。
カフェの件といい、今日は引き返すことが多い日だなと思った。
トントン。
控えめに二回ノックした。
「ただいま。入っていい?」
何の反応が無かった。
いつもなら中から大きな声で了承してくれるのに...。
寝ているのかもしれないとそっとドアを開けた。
「皐月...大丈夫...?」
暗い部屋に閉じられたカーテンの隙間から少し光が出ていた。
妹専用の勉強机とセットの椅子に妹は座っていた。
両手は力なくダラーンとさせていた。
私から見える妹の横顔は「無」であった。
異様な光景に変に見入った後にゾゾゾッと背筋が凍るような不快感を感じた。
固まった体を無理やり動かす感じで縺れそうな足に構わずに妹に駆け寄って抱きしめた。
捕まえて置かないと消えてしまいそうで怖かった。
「さつき...さつき...さつき...」
そう呼びかけても妹からは何も反応を示さなかった。
妹が消えないようにと必死に妹の体を強く抱きしめ何度も何度も声をかける。
「お...ねぇ...ちゃん?」
「さ...さつきぃぃぃぃぃぃ」
可愛い妹が声を出して私を認識した事が分かって涙が溢れた。
「おねちゃんどうしたの?」
「どうしたって私のセリフじゃあ」
「えぇーなんにもないんだけどなー」
あんな姿の妹を見たことが無く逆に私を心配して見てる妹の様子に先ほどまでの妹が幻に思えた。
あれはなんだったんだろうか...。
おかしいと私の勘が全力で言ってる。
「どこか体調悪い?」
「いや、全然!お姉ちゃんの方こそどっか悪い?なんか変だし...」
変なのはあなただと出かかった言葉を抑える。
体調じゃなければ...精神?
「じゃあ、嫌な事あった?」
「なんにもないよ」
嘘だ。
不自然のない表情と声だったけど私の勘が告げている。
「お姉ちゃんに話せない事?」
「本当になんもないって」
どうすれば教えてもらえるか考えていた。
このまま問い詰めればいいのか。
そんな事してしまえば妹は心を閉ざして私に話さなくなる。
「そんなことよりお泊り会はやっぱり中止になった?」
「うん。中止になったよ。一応、ラインしたけど」
「ごめん。全然ライン見てなかったはつきちゃんが風邪で休んでたから中止になったと思ったよ。お泊りセット片づけちゃった」
「残念だよね」
妹もなんか言おうとしたと同時に来客を知らせるベルが鳴った。
「はーい」
妹は軽快に来客にも届くように大きな声を出して下へと急いで降りた。
二階の妹の自室から大きな声を出しても玄関に届くのだろうかと一瞬思考が邪魔された。
このご時世、インターホンで来客が誰かを確認する前に家に居ると分かるように返事するのは如何なものだろうかと別の意味で妹が心配であった。
私も誰が来たのか気になって妹の自室から出た。
妹のあの様子だと教えてもらえないと悟った。
冷静に考えれば年頃だし色々と悩むだろう...。
変だとは思うけども本人が何も言わなければ私には何も出来ない。
暫くは注意深く様子を見ようと思った。
私に話してくれるように今まで以上に妹とコミュニケーションを取ろうと心に決めた。
後にこの判断を後悔した。
イジメという言葉を否定する 千夜すう @chiyasu_
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