青春とよばないでほしい

釣ール

大恋愛なんかじゃない

 いてえ。




 どれだけ規制きせいが厳しなっても必ずまもれない誰かによってその余波よはを他の誰かはくらう。

 それでも今回は俺のせいだった。




 理由は彼女を守るために。

 声をかけられたから手を出されないようににらんだら相手の方から暴力ぼうりょくをふるってきた。





 てめえら満たされている連中に何がわかるんだ。

 満たされてるくせに人の恋愛邪魔じゃまするのかよ。





 彼女の名前は襟芭ふらうす

 苗字みょうじは珍しい名前だから個人情報保護のために言わないでおく。





 どうやって彼女の襟芭ふらうす付き合ったかは忘れた。





 理由がほぼからかいだったのは覚えている。

 今どきそんな喧嘩けんかっぱやい男なんていないとか意味のわからないもの。





 高校三年生で進路を決めなきゃ行けなくて、大学か就職しゅうしょくか悩んで襟芭ふらうすと遊んでいる。





 大学は金がかかるしどっちにしろ就職するなら選択肢とはありだと思っても進路指導しんろしどうではいつも




頼元よりもと。 お前の成績じゃ大学は無理だ。 それでも高校卒業はできる。 お前が好きで暴力をふるってるわけじゃないのは分かっているからこのまま大人しくしてくれ 』





 何が『分かっている』だ。

 それでも高校卒業はどうしても達成したい。





 学校はちがうけど襟芭ふらうすは大学を目指していてもう合格もしたらしい。






 2024年まだ暑すぎる秋を彼氏である俺と好きなだけ過ごしたいとこんな時代でベタなことを言われるとさすがにれる。





「なんで俺を好きなんだよ。 インターネットみてみろよ。 イケメンでハイスペックなやつなんてごまんといるだろ? 人付き合いの悪い男子高校生なんて付き合ったってつまらな・・・」






 襟芭ふらうすは謎が多い。

 その時に交わした口づけはもう素直な気持ちでしかなかった。






 誰にも理解されず、喧嘩けんかを売られやすいだけで成績を大学に行けるよう維持いじするのもむずかしいと誰からも否定ひていされた俺がどういう理屈りくつで好きになってくれたのか分からない彼女と何度か夜を楽しんだ。






 おかげで大学か就職か迷うばかりだ。

 彼氏として将来有望しょうらいゆうぼうな女子高生にヒモなんて付き合い方は絶対したくなかった。






 それからずっとバイト代は襟芭ふらうすとの遊びに使い、勉強を教えてもらっていた。





 担任たんにんは俺の学力を馬鹿にしているが本当は金がないのにある程度の学力があることを気に食わないらしいとわざわざ俺に言わなくていいのに仲良くないやつらに伝言でんごんされた。





 結局味方なんていない。

 彼女以外は。





 別にフェミだのなんだのそんなくだらない理由ではなく一人の男として彼女を守るためにいつも一緒にいる時は周りを警戒けいかいしている。





 そこで危ない相手に目をつけられてなぐられて彼女と歩いている。





「悪いな。 弱い男で」





 襟芭ふらうすは俺の肩をささえ手当までしてくれた。





「いつの時代のフィクションみた? 強い弱いなんて関係ない。 頼元よりもとといると退屈たいくつしないから」





 そうか。

 なら守る。

 誰かを楽しませられるなんてプロのクリエイターでも難しいらしいからな。






 俺の恋愛と決意は高校卒業のモチベーションへとなぐられた箇所かしょから伝わる痛みがうながしてくれた。







* * *






 登陽鮎のぼるゆうば・高校三年生男子。

 進路はもう決まっているけど彼が気を許す誰か以外に話すことはない。






 童顔どうがん以外は完璧とよく馬鹿にされてきたのでどうか多様性たようせいがいい意味で童顔どうがんを認めてくれると余計な費用ややりたくないおしゃれをしなくてすむので都合の良いことを考える。






 少しひとりになりたくて街を歩いていると同い年くらいのカップルが誰かにさらわれかけていたので陽鮎ゆうばは助けにいこうとそおっとついていった。





 そこでは同じく童顔で目つきのするどい男子高校生が決して暴力をふるわずヤカラから彼女を守っていた。





 自分から喧嘩を売ったわけではなくてまきこまれか。




「火事だ!」





 見つからないように人混みにまぎれてそうさけぶと辺りがいっせいにこちらをむき、ヤカラは男子高校生の腹をなぐって気絶きぜつさせて逃げていった。





 安全を確認したあと男子高校生の手当てをしようとする彼女らしき女子高生に陽鮎ゆうばは「大丈夫か!」と声をかけた。






 人のことは言えないが同じ中性的でこんな童顔どうがんなのに身体はきたえられている。

 それでも暴力は使わずひたすら彼女らしき女子高生からヤカラを守っているなんて。





 陽鮎ゆうばはよく『家庭が良い意味で普通じゃない』と言われる。






 ただ聞いているこちらとしてはほめことばではなかった。





 明らかに普通じゃない光景を目の当たりにすると人は客観的になれるのかもしれない。





 陽鮎ゆうばもできる限りの手当を彼女らしき女子高生と行った。





 なんだかこの男子高校生がほおっておけない。

 変な意味ではもちろんなくて同じ高校だったら仲良くしていたかもしれない相手に思えたからだ。





「もうすぐ頼元よりもとが起きる。 私のかれ・・・そこの男子高校生が」





 陽鮎ゆうばは彼から少しはなれてみた。

 彼女らしき女子高生の話し方から気をつけた方が良さそうだったから。






「くっ。 俺が気絶きぜつさせられるなんて。 襟芭ふらうすは大丈夫か!ってお前は誰だ」





 男子高校生・頼元よりもとはさっきのヤカラと間違えているのか陽鮎ゆうばに突っかかってきた。





「お、俺はさっきの連中とはなんでもない! ただ君たちを助けようとしただけだ」






 頼元よりもと状況じょうきょう状況じょうきょうだったので陽鮎ゆうばの胸ぐらをつかんだ。






「ま、待ってくれ。 話をしよう。 いや、こう言った方がいいかな。 君の彼女か分からないけどその子とは君を手当てしただけだ」







 頼元よりもとと言うらしい男子高校生はそう言うとすぐつきはなし、「明るい顔が」と悪態あくたいをついて彼女らしき、いや確実に彼女の女子高生へ歩いていった。






「貴重な同性だし手当てや他の対応は彼がやってくれた。 言うべきことがあるんじゃない?」






 彼女はそうぞうよりしっかりいるらしくて頼元をたしなめる。






 そして頼元はこぶしをつきだして感謝というよりも警告けいこくをしてきた。






「さっきはありがとう。 必要以上に襟芭ふらうすへ近づくな」






 ふう。

 そこまでの仲だったとは。

 同じ高校じゃなくてよかった。

 ちょっと残念だが曲がりなりにも愛は本物だった。






 二人は肩をかかえあってその場を去ろうとすると襟芭ふらうすさんが振り返って陽鮎ゆうばの方へ何かをさけんだ。






「青春って呼ばないで」






 なんなんだこの展開てんかいは。

 俺が悪いのか?と陽鮎ゆうばは自分にう。






 それでも手助けはできた。

 なんかなあ。






 陽鮎ゆうばは理解が追いつかず納得なっとくも出来ないままそのまま帰ることにした。







 それからしばらく経ち、陽鮎ゆうばは|高校最後の思い出として低予算ていよさんで楽しめる噴水ふんすい広場を歩いていた。







 するとこの前あった頼元よりもと襟芭ふらうすがやってきたのでさけようとすると彼が話しかけてくる。







「前は悪かった」






 頭が冷えたのか。

 こちらもあの時のことを冷静にふりかえれば誤解ごかいあたえかねなかったのは承知しょうちだったので別にいいよとまた逃げようとした。







「俺たちを見捨てなかったのあんただけだ。 ここで会うとは思わなくていつお礼を言おうか悩んでた。 だからまたどこかで」







 二人は仲睦なかむつまじく歩いていった。






 人の心は分からない経験を陽鮎ゆうばここでしたのであった。






 いつも唐突とうとつ理不尽りふじん







「またどこかで」






 そういってすぐ会うのかも。

 えんって分からないから。

















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青春とよばないでほしい 釣ール @pixixy1O

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