第7話(終)


 帰り道、ボクはマイクの隣を、マイクみたいにしっかりした足取りで歩いた。

 歩きながらマイクは、チモキさんへの不満ごとをグチグチと口にした。でも、不満ごとを吐きだしているくせに、目は笑ってた。

 マイクとチモキさんは、そういう仲なんだ。言いたいことを言い合えて、ちょっとした不満ごとなんて受け入れられちゃうくらいの仲。

 ボクとマイクも、全く一緒っていうわけではないけれど、似たような仲だと、ボクは思う。

 そしてボクは、ケイともそういう、ちょっとしたことなんて許せちゃうような仲になりたいなって、思う。


 今日も、ケイはどこかツンツンしてる。

 ボクは大きく深呼吸をしてから、ケイのもとへと歩いていった。

「げ、元気?」

「あ、あぁ」

「あ、あのさ。ケイ、何かあった?」

「は?」

「いや、そのぅ。なんか、何かあった顔に見えたから。気になって」

「う、うーん」

 ケイは、すごく困った顔をした。モジモジしながら、時々チラチラとボクを見る。

「放課後、ミヤナさんの家に来いよ」

 確かに聞こえた。でも、ケイの言葉とは思えないくらい、小さな声だった。

「え?」

「いいから、来い!」

 放課後、ボクは言われたとおりに、ミヤナさんの家へ行った。

 ミヤナさんの家は、まるで全く別の家を置き換えたみたいに、姿を変えていた。きらびやかな装飾が施されていて、おとぎ話の世界から飛び出してきたみたいに見えた。

 コンコンコン、と扉をノックしてみたけれど、応答はない。

 ボクは空気を肺いっぱいに吸い込んで、「こーんにーちはー!」と叫んだ。

 ギィと扉が開く、すると、

 パン、パン、パーン!

 クラッカーの音が鳴り響いた。

「ハッピーバースデー!」

 サプライズだ!

 地域のみんながニッコリ笑顔で、ボクにサプライズをしてくれたんだ!

 みんなのことをよく見てみると、ひとりだけ照れ臭そうに頭を掻いている人を見つけた。

 みんなはその人の背中を、ドン、ドンとボクの前まで押した。その人は、何やら大きな袋を持っている。

「これ、やる。何が欲しいか訊けばよかったんだけど、そんなのつまらないし。でも、どれだけ考えても、いいものが思い浮かばなくて」

「ありがとう、ケイ。ねぇ、開けていい?」

「おう」

 みんなに見守られながら、ボクは袋を開けた。

 中に入っていたのは、ボクにはよく分からないゲームだった。

「ごめん。俺が欲しいやつ、買ったんだ」

「そっか。……じゃあ、これからもケイと遊べるってことだね! ありがとう。すごく嬉しい!」

「……え?」

 ケイの顔が驚きで染まる。

 長い付き合いだけど、こんな顔、見たことない!

『ケイが固まってる!』

『ケイが泣きそう?』

『ケイがこんな顔するの、はじめて見た!』

 たくさんの笑顔が、ケイを囲む。

「ごめん。サプライズを仕掛ける側なのに」

「謝ることないよ」

「だけど……」

「ボクは、うれしい! ケイと一緒にビックリできて、サイコーな気分だよ!」

 パチパチと拍手が響く。

 その中心で、ボクらは笑う。

「ごめん。サプライズのこと、バレたくなかったんだ。それで、絶対良くないってわかってたけど、避けちゃった。そうしたら、トッドが離れていっちゃって、もう、どうしたら良いのかわからなくなっちゃって……」

 ボクにだけ聞こえる、小さな声。

「そういうことだったんだ。教えてくれてありがとう。またこうして話せて、ボクはとっても嬉しいよ! ボクは今日の思い出も、プレゼントも。ずーっと大事にするからね」


 それからケイは、ボクの大親友になった。

 内緒のことがある時は、内緒のことがあるってことだけ言う。

 そうして今は、ただ幸せなサプライズを繰り返してる。



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ボクとトイとケイ 湖ノ上茶屋(コノウエサヤ) @konoue_saya

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