禍ツを持って残酷を穿つ

ショコチャ

第1話:狂光催眠、目覚めの檻『死闘螺旋』

 人は皆、心に禍獣マガツのケモノを飼っている。産まれたときから皆、命を共にし、それでいて人々は互いに相手のそれを見ることはない。禍獣マガツのケモノは自分にのみ着いて回り、彼ら彼女らの黄路よみちを教えぬために――死を氾濫はんらんさせぬように、終日しゅうかの幾重を減ずる役目を担っている。


 「そっちに降ってくるよ!さぁ急いで!」

 相棒の建御タケミが攻撃を知らせる。

 ドチャッドチャッと人の弾幕が降り注ぎ、それらを間一髪で躱していく。相手はクウカフ・ライカ、人を弾にしてロケット弾よろしく激しい攻撃でこちらを殺しにかかって来ていた。


「オラオラーッ避けてばかりじゃいつまでも終わらないぜーッ」

 少女の目には黒い光が輝き、暗闇の手をかざして人の弾を撃ち込み続ける。1つ、2つと投げ込まれる重くやわらかな爆弾を紙一重で躱し続けるが、こちらの出せる攻撃手段は未だ無かった。

「何か反撃の手段を探さないと、いつまでも勝てない……建御タケミの力……それを知らないとこのままじゃいずれあの弾に潰されて終わりだ」

「ボクは君の力ではあるけど、君自身がそれを自覚しないと、ボクは力を思い出すこともできないんだ……今ボクにできるのは、危機を知らせてあげることだけ……ごめんね」

「謝らなくていい、わかっていることだよ、最初からね」

 建御タケミはシュウの禍獣マガツのケモノで、八十禍津日神ヤソマガツヒノカミの力、建御タケミを司っているという。だがシュウには建御タケミというものの能力はまだわからない。建御タケミ自身もその力を思い出せないようだった。


 カラミティエフェクト――災禍さいかの恵み。人々は産まれてきた瞬間より強い衝動が与えられる。その1つが『祝福』というサブリミナル効果。祝福はいわばこの世界に生を得た理由であり目的。


 皆は生まれ出でて必ず空を見ることになる。何故なら人は人として産まれ落ちるからだ。

 この世界には未成熟が存在しない。

 正確に言葉を尽くし説明すると、ここに産まれる生命はみなのだ。

 光の果実が空より落とされ、それが地面を穿うがつと生物がその跡に取り残される。そうして目を開けると空にある巨大なメッセージが目に入るのだ。


 そこにあるのは赤い亀裂。その向こうより一瞬のうちにメッセージが飛び込んできて、直後に攻撃を避けたのだ。

 それが今の戦いの始まり、シュウとライカの戦いの出会いというわけだ。


 赤い亀裂より受けたメッセージはこうだ。


 ①君たちは死ぬために産まれる。

 ②自死はこの世へ即座に戻されてしまうため無意味である。

 ③殺害されても②と同様にこの世へ即座に戻される。

 ④死による解放は10人の命を奪うことによってのみ達成される。

 ⑤君たちは戦うことによってのみ渇きを癒すことを認められている。


 そして間一髪で助言をぶつけたのが、もう1つの災禍さいかの恵み、八十禍津日神ヤソマガツヒノカミの力を持つ禍獣マガツのケモノだ。

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