第2話
声と共に部屋がフッと薄暗くなる…。
席に着いていた議員たちは、部屋の照明の故障かと見上げるも煌々と付いている。違う。光が弱まったのではない。闇のほうが強まったのだ。
だがそれを普通の人間が理解できるはずもなく、困惑の表情で辺りを見回す。
それにさっきの声。明星かと思ったがこれも違う。とすると、誰が発したものなのか?同年代の若い声質ではあるが、一発でそれは男性だと判る。
そう言えば明星に向かっていた若手議員はどうしたのだろうか?やけに静かだ。他の議員たちは、周囲を見回していた視線を若手議員に向ける。
乱闘になってもおかしくない勢いだった若手議員は、あと数歩進めば明星の胸ぐらに手がか届くというところで、足を止めていた。
それどころか、あんなに怒りに赤く染めていた顔は蒼白に変わり、片足が半歩後ずさるのを見た。
若手議員と明星の間に……『何か』がいる。
その場にいる明星以外の人間たちが『認識できた』とたん、浮き出るように『何か』の輪郭が立つ。
それは、黒いスーツの人物だった。
スーツの下は白のワイシャツ。その他、細みのネクタイも革靴も全部黒。その人物は片腕を若手議員に伸ばし、言葉通りこれ以上明星に近づくことを拒んでいる。
若手議員は若い頃から柔道をしているので、50代でもガッチリした体型。かたや、静止させている人物は細身で、体格差で強引に退かすこともできるように思える。だが動けない。言葉も発せられない。
理由は、黒いスーツの上に乗っている頭部が………到底人間と呼べるモノでは無かったからだ。
それは雪のように白く大きな獣耳があり、右目はグリーンゴールドの瞳。左目は、半開きのまま白く濁って固まっている。少し開いた口から見えるのは、ヌルリと光る鋭い牙。艶やかな白い体毛は、風になびいているかのように頭部全体を覆い、一部が左目を隠すように顔面にも伸びている。
そして尾てい骨辺りからは長くフワフワとした尾っぽが二本、それ自体に意志があるようにユラユラと揺れていた。
あまりにも異形な人の体をした猫。それも和猫というよりは、長毛の洋猫のように見える。
「止めなよ、白檀(びゃくだん)。まるで弱い者イジメしているようじゃないか」
「ッ!」
白檀と呼ばれた人外の後ろで、明星がクスと笑う。
その言葉に、また若手議員の怒りが混み上がるも、やはり明星に食って掛かることはできない。なぜなら、静止させている手の先。鋭い爪が男性の喉笛に向けて伸びているからだ。まるで日本刀の切っ先のように。
「チッ!」と舌打ちをすると、白檀の鋭い視線が若手議員の視線を手放し、突きだした手を降ろした。
「ッ…」
すると体の強張りは解け、若手議員の足がガクと崩れる。も、膝をつく一歩手前で持ちこたえた。
(……書類上では知っていたが、本当に存在するとは…。コレが陰陽師・道川 明星が使役する、式神・妖怪「猫又」…か)
冷や汗でジットリ濡れる手で首をさすりながら、明星と白檀を交互に見る。
陰陽師と妖怪。映画や小説漫画などでよく題材に使われるほど有名ではあるが、その存在や能力を本気で信じているものは少ないだろう。それが現代となればなおさらだ。
が、両方とも実在する。
現に今、白檀を目の当たりにしてしまえば、若手議員もその他の者たちも信じざるを得ない。そしてそれを使役する陰陽師・明星の存在も。
ただまあこの御時世、陰陽師なんて者は絶滅危惧種であって、陰陽師と名乗っている者・それに類似する霊媒師・徐霊師・祈祷師に『本物』は極わずかだ。
『本物』であってもその力は微々たるモノで、明星と比べると大人と子供…いや、鯨とミジンコほどの差がある。
それでも、今まではよかった。
陰陽師という能力を活かす場など無いほど時代は平和で、ほとんどの人々は魑魅魍魎と関わること無く一生を終える。この島国が、八百万の神がいるというほど信仰心が強かったのも昔。今や人気が無くなった神社仏閣から廃業し減少する一方。人々は、目に視えぬモノへの恐れが薄くなり、信仰が弱体化し、霊的神事にも重要性に重きをおかなくなった。となると、神事に関係する霊的能力者が一気に衰退していくのも道理。
だが、近年になって何故か、国内で人に害をなす怪奇現象が災害規模で続発するようになった。
最初こそはありえないと信じていなかった政府も、人死にまで出たことで怪奇現象を調査し、それが魑魅魍魎のモノによる仕業と結論づけるしかなかった。
そして早急に対策するべく、秘密裏に動き出したのだが………衰退した霊的能力者たちに、それらに対応できるほどのレベルの者はほどんどいなかった。
やっとの思いで見つけた人材、それが道川 明星だ。
それも長い歴史上でも五本の指に入るほどの能力の持ち主で、自他共に認める最強の称号の陰陽師だという。
明星が政府直属の宮使い陰陽師になって数ヶ月。解決した怪奇現象による事件は数知れない。確かに、最強の冠に似合うだけの実績は上げている。が、解決に行き着くまでの経緯にかなり難があった。
明星が現場に行くと、必ずと言っていいほど何かしらの問題を起こす。先ほどの態度からも分かるように、現場の人間たちとの協調性は皆無。政府直属という権威を笠に、無茶ブリを連発。
例で上げると、「土地が悪い」ととある県の市庁舎を急遽移転させたり、「使っている漢字が影響している」と言っては、某地域の名称を変えさせたり…。そんなこんなで明星に関わった者は、事件解決まで頭を抱えるような日々を過ごすという。
ある関係者など「アイツのほうが、よっぽど厄災だ!」と、涙ながらに語ったという。
(確かに稀少な人材だ。だがッ、あまりにも横暴が過ぎるッ!)
ギリッと奥歯を噛み締める若手議員・吉田 譲治(よしだ じょうじ)。
「お互い、そこまでにしましょう」
妖刀★無双夜行 ~現代にて最強最悪の陰陽師がVRゲームを創っちゃいました!~ 神嘗 歪 @so6001so
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