慈悲の弾丸

天狗乃介

第1話 教弾

 狭いビルの一室。男と少女が二人。周りには男たちの死体とその血痕がある。

「さぁ、祈りは終わりましたか?」

 死にかけている男に問う。

「へ、祈ったら助かるのかよ!」

「ええ、助かりますよ」

 ハンドガンの引き金を引き男の命を終わらせる。

「魂だけはですけど・・・・・・」

 周囲を見渡し、誰もいない事を確認してから煙草を取り出す。

「すぅー・・・・・・はぁ・・・・・・」

 一服し、興奮を抑えインカムで連絡をとる。

「こちらエイリス、目標を殲滅しました  これより帰還します」

 自己紹介がまだでしたね。私の名はエイリス。教会でシスターをしています。シスターは世に忍ぶ仮の姿、教弾と呼ばれる武装集団の一員です。得意な銃はハンドガン。近距離戦では負ける気がしません。と簡単な自己紹介はこのぐらいにしときますか。

「オーケーエイリス、周囲の安全を確保した お疲れ。気を付けて戻ってくれ」

「シスターブロッサム 。いい夜を」シスターブロッサムとの通信を終える。

「明日は何事もなければいいですね 。おお、神よ哀れな仔羊に平穏をお恵み下さい」

 とシスターのような口上を上げるが内心は現実主義だ。

 誰かに生かされているから今がある。神などいない・・・・・・聖職者にあるまじき思想だ。

「本家の分野はあまりわからないので真似事をしているだけなんですけどね」

 町に帰ることにした。

「あ、エイリス。こんな時間までお勤めかい?」

 町に帰ってきたらのんきな男が挨拶をした

「ええ、ソーヤこそ仕事ですか?」

 話しかけてきた男はソーヤ。彼を一言でいうなら呑気な青年。血と硝煙の臭いがするシスターに対しても恐怖も嫌悪の感情を感じない。といってもこの町の住人はシスターを普通に扱ってくれる。

「うん。ちょっと在庫の整理をしていたらこんな時間になっちゃってて・・・・・・あ、そうだエイリスこれを」

 ソーヤから籠を渡される。中にはハムとパンが入っていた。

「お腹すいてるでしょ?籠は明日取りに行くから!」

 じゃ、とソーヤは言い残して離れた。

「勝手な人ですね」

 私も教会へ帰ろう。

 教会に帰って来たら服を着替え、返り血を浴びた修道服を脱ぎラフな格好に着替える。

 ソーヤからもらったパンとハムを食べながら、資料に目を通す。

「明日も任務ですか。教会を開けるのは午前中だけにしときますか」

 午後からはブリーフィングとか補充やらで忙しそうだ。明日のスケジュールを決めお風呂に入り、寝ることにした。


 朝に日差しで目が覚める。午前中は教会を開ける為に身支度をする。パンを焼き、熱い紅茶を入れ教会の仕事を確認する。その様子は行儀がいいとは言えない。教会のシスターが行儀が悪い事を知ると町の人は驚くでしょうね。

「懺悔室の利用は・・・・・・ないですね。掃除と礼拝で終わりにしましょう」

出来るだけ朝に体力を使いたくない。シスターは本業ではありませんしね。朝食を終えてから教会の掃除をすることにした。

 掃除を終え教会を開ける。礼拝客がちらほらと入ってくる。

「おはよう、シスターエイリス」町のおじさんから声を掛けられる。

「おはようございます。今日もお元気でなによりです」挨拶を返す。この人達は裏で私が何をしているかをはっきりと知らないが察してはくれている。教弾という組織がいかに大きいかを感じる。

 ある程度人が入ったら礼拝を始める事にした。聖母像に祈りを捧げ、聖書を読む。

讃美歌を歌いもう一度祈る。

「どうか、皆様が無事で過ごせますように」シスターエイリスとして話す。

 礼拝が終わるとソーヤがこっちに来た。

「お疲れさまエイリス、カゴを取りに来たよ」

「こんにちはソーヤ、昨日は助かりました」

パンとハムが入っていたカゴをソーヤに渡した。

「このぐらいならいつでも用意するさ!ところでエイリス今日荷物が来るんだって?よかったら手伝おうか?男手あった方がいいと思うんだ」

ソーヤに補充の事を知られている。この町の住人は教弾が何をやっているかを察している。別に夜中に血まみれのシスターが帰ってくる事ぐらいは大した事ではない。

「そうですね、では手伝ってくれますか?」

ソーヤの提案を受けることにした。

 教会を閉めた後、しばらくするとトラックがきた。トラックから荷物を受け取る。

 トラックの運転手も教弾関係者だ。

「いやー、エイリスの荷物は重いねぇ、いつものところに置いていけばいいかな?」

「ええ、お願いします」

 ソーヤが荷下ろししている間、荷物のリストを確認をする。

 サブマシンガン、ハンドガン二丁、弾薬、コンバットナイフ二本、閃光弾、防弾仕様のシスター服・・・・・・など。

「シスターエイリス、これが今回の任務です」

トラックの運転手から封筒を渡される。

荷物の引き受けが終わったら、ソーヤにお礼を言った後封筒の中身を確認した。

 “今回の任務 とあるマフィアグループの殲滅“

『実務……シスターエイリス 支援……シスターブロッサム

全員に慈悲を。任務が終わったら浄化部隊に連絡を』と書かれていた。

「全員に慈悲をと言われても・・・・・・」

 内心をこぼしてしまった。詳細が欲しい。そう思っているとトラックの運転手が口を開いた。

「任務の詳細は現地でシスターブロッサムから聞いてください」

「いかないとわからないってことですね・・・・・・わかりました」

 教弾のネットワークでもある程度は絞られるが、直前で協力関係があるマフィアが増えたりもするからターゲットが複数人だとどうしようもない。

「では私はこれで、救えぬ者に慈悲を与えたまえ」

 そう言って運転手はこの場を去った。

「ええ、慈悲を与えます」私も言葉にする。

 “慈悲”教弾が使う死を意味する言葉だ。これ以上の苦しみを与えない事と、肉体からの魂の解放の意味も込められている。

「さて、任務まで時間がありますし準備しますか」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

慈悲の弾丸 天狗乃介 @ohriku

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ