第2話 始まり

「ほらほら餌だぞ〜。さっきは上げられなくてごめんな〜。」

さっきの池に戻って、鯉たちに餌をやる。餌は、さっき舞希が買ってくれたお徳用食パンだ。

鯉たちに餌をやりながら舞希が言う。

「まさか再会するとはね〜。驚きだよ。俺が中1に上がる段階だったから3年間?ぶりだよね〜。」

パンをちぎって私が返事をする。

「そっか。もうそんなに経つんだ。でもその割にはのんびりした口調やね。奇跡がおきて、感動の再会してるんだから私としてはもう少し驚いて欲しいかな。」

私がいうと舞希は、

「あははっ。無理無理。俺がそんなオーバーな性格じゃないこと知ってるでしょうが。」

と、ヘラヘラと笑った。

「ま、それもそっか。」

私も納得して、ちぎったパンを鯉にやった。

「………こっちでの生活はどうなん?楽しい?」

私が聞くと、

「……まぁ、ストレス3割幸せ6割、希望が1割ってとこやね〜。」

「フフッ…どういうことなん。」

私は一瞬舞希の手が止まったのを見逃さなかった。口では平気そうにしているが、多分今も辛いのだろう。

「……ギター。上手くなっとったね。」

「………うん。やっとFもできるようになったんよね。」

「やっぱり教えてよかったわ。ギター。ま、歌は正直まだまだやけどね。」

「そやね〜。っていうかいつこっちに来てたん?」

パンが無くなってしまった。

「まじで最近よ?2日前くらいかな?うちは段ボール屋敷だよ。」

「アッハハ。そっか。湊は?元気してる?」

湊というのは私の弟だ。

「元気元気。あの元気を分けてほしいくらいだわ。」

「そっかそっかー。湊は通常営業かー。」

そう呟く舞希の横顔を眺める。きれいに整った鼻。長いまつ毛。優しそうな目。前見た時より垢抜けてる印象がある。

(舞希なりに努力したんだろうな…。)

そう思うと私は胸が痛んだ。謝ろうかと思ったけれどそれはきっと違うはずだ。なによりそれで楽になることは許されない。

「そ、そういえば舞希は高校どこ?!舞希は頭いいからなぁ。きっと私じゃ届かないとこでしょ?」

あちゃー。明るくしようとしたのが裏目に出た。私はいつもこうだ。

「プッ…ハハハハハハハハ。」

「ちょっと、そんなに笑うこと??」

「いやごめん。ほんとに変わってないなと思ってさ。」

「いやいや。ガンガン変わってるじゃありませんか。この身長とこのバスト!何カップだと思う?」

「やめなさいよ、女の子がはしたない。」

叱られちゃった。ま、なにはともあれいっか。

「僕の高校はねぇーМ高校やね〜。」

「え!私と一緒じゃんっ!!嬉しいけどどうしたん?成績落ちた?」

「いやぁそれがさぁ。スマホゲットしてついつい触ってさー。」

「わかる!ってか舞希スマホゲットしたん?!ライン交換しよー。」

「うん。いいよ。」

ラインを交換したら、チャイムがなった。

(…5時半を告げるチャイムかな?)

あたりを見渡すともう夕焼け色に染まっていた。 

「もうこんな時間なんだ。そろそろ帰ろうかな。一華送ろうか?」

「いや、いいよ流石に。ありがとね。それじゃ私こっちだから。」

「うん。じゃ、またねー。春休み中はギターをここで時々弾いてるから観に来たかったらきな。また一華の歌も聴きたいし。」

「うん。ありがとう。それじゃあまたね。」

「それじゃ。」


まさかこんなところで幼馴染に会うとは思わなかったな。

(……奇跡も捨てたもんじゃないな。)

空にはきれいな夕焼け色に染まっていた。

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音奏で咲き誇れ クズグッズ @shoutaaaaaa

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