第10話 新しい日々を先輩と後輩で

「私……私! 私、先輩の彼女になりたいです!! ど、どうか末永いお付き合いをっ………うぅ」



 本当に本当に恥ずかしくて恥ずかしくて……うぅ。こういうときどう返すべきだったんでしょうか。初めてだったので、どう答えるべきなのかわかりません。しっかりと予習しておくべきだったっす。

 緊張して、ちゃんと言えてたか不安になってきました。言えてたっすよね?



「……よろしく」


「は、はい」


「「……」」



 こういうときどうすればいいんすか!!

 ものすごーおおおおくっ気まずいです!!



「「えっと」」


「三守いいぞ」


「いや、先輩が……」



 すぅぅぅぅぅぅう…………。

 気まずいぃぃぃぃ!!


 すると、扉の方からノックする音がしました。静かな部屋にはノックの音がよく響きます。

 正直、助かりました。さてさて、誰なのでしょうか。先輩が扉を開きます。



「いいぞ」


「お二人さん、おめでとさーん!! イェーイイェーイ」


「……はぁ」



 部屋の中に入ってきたのはアフロにサングラスをしたパリピでした。もとい、幻夜先輩です。手にはクラッカーを持っていて『パーンパパーン』と軽快な音が響いています。

 ちょっと、うるさいですよ。……何回鳴らすんすか!!

 そして、そんなやかまし……ごほん。幻夜先輩を汚物を見るかのように見ているのが先輩の妹さんの由衣ちゃんです。呆れて声も出ないのか、今にもアメリカーンな人らしく『やれやれ』とでもしそうっすね。といいますか、今までとキャラ違いません?



「幻夜、うるせえ」


「いいじゃねえか! めでたい事は、盛大に祝わなくちゃな!」


「気持ちだけで充分だ」


「幻夜先輩ありがとうございます」


「三守ちゃんもおめでとさん」



 幻夜先輩は、こういう事には律儀ですよね。


 さて………。由衣ちゃんはどうでしょうか。先程からほとんど喋っていませんが……。かなりブラコンなようですし、大丈夫でしょうか。



「はぁぁぁぁ」


「由衣ちゃんも祝うぜ!」


「暑苦しいわよ」


「つれないなぁ」


「私としては、このメス猫の事はまだ認めてないから」


「ふむふむ。要するに、おめでとうだって」


「ちょっと!! 幻夜何言ってるの!!」


「あははははははは」


「『あははは』じゃないんだけど!!」



 私と先輩は唖然とするしかありませんでした。どゆこと?

 『幻夜』? 呼び捨てですって……? 一体どういう関係なんすか?



「あー、えーっと、とりあえず由衣も祝いに来たって事でいいのか? というか、キャラ変した?」


「違うわよ」


「あってるぞ」


「だーかーら!!」


「お2人は仲良いっすね」


「いいぞ」「良くない!」



 見ててちょっと面白いですね。私は、今までずっーーーーーっと由衣ちゃんに振り回されてきました。そんな彼女を振り回しす人がいるとは……。幻夜先輩恐るべし。私もこの機会に幻夜先輩の援軍でもしましょうか……。



「あぁ、もういいわよ。おめおめ。これでいいのね。はい。幻夜もういいでしょ」


「じょうできじょうでき」


「あー、なんだ。お前らがどういう関係とかは聞いていいのか?」


「ちょっ、先輩。さすがに……」


「いや、でも三守。お前も気になるだろ」


「そりゃあそうっすけど」


「ん? 別に、恋人だぞ」


「「は?」」


「ん?」


「「はぁぁぁぁぁぁあ??」」



 なんか釈然としないといいますか。納得いかないっす! 私が、私がこの鈍ちんを堕とすのにどれだけどれだーけ! 苦労したと思っているんすか!! この鈍ちんをですよ!! と、とりあえず先輩に抗議のジト目を送っておきました。

 やっとの思いで、恋人になれたのにこの2人はそれを軽く越えてきたのがひじょーに悔しいです! 納得がいかない!

 たぶんですけど、先輩も似たような感じの事を思っているのかもしれません。相変わらず、表情筋は死んでますが、何というか雰囲気が『理不尽を前にして打ちひしがれてる人』みたいなのが漏れている気がします。

 あとは、『昨日まで、お父さん大好きと言っていた娘が彼氏と思われる男と手を繋いで仲睦まじそうにしているのを見てしまい戦慄しているお父さん』のような雰囲気もするかもしれません。

 しかし、由衣ちゃんはブラコンではないんでしょうか? 彼氏はお兄ちゃん的なやつではなかったという事なんすかね?



「あー、幻夜、いつからお前ら付き合い始めたんだ?」


「昨日だな」


「「は?」」


「1ヶ月前くらいに話す機会があって、そこからちょくちょく会うようになってさ、いろいろあったのと、利害が一致して付き合い始めた感じかな」


「「??」」



 ちょっと何言っているかわからないんですが?

 日本語で話してくれませんか?



「「ちょっと何言ってるかわからない」」


「ま、今は俺らの事なんていいだろ。それよりも2人の方だろ!」


「「よくないが?」」



 幻夜先輩、信じてたのに!! 信じてたのに!!

 あなたまで、私達を裏切るんすね!! もう、信じられないです!!



「恋人の形なんていろいろあるだろ。今は晴海と三守ちゃんの方が大事だ。せっかく実ったんだろ。大切にしとけよ」


「「ぐっ」」



 そんな事言われたら何も言い返せないじゃないですか!! わかりましたー!! 降参降参ですよ。

 それにそうですよね。時間なんて関係ない。恋は質ですよ! 私と先輩の関係は誰にも負けません!

 だがしかし、何故でしょうこの敗北感。



「三守、今回は俺らの負けだ」


「ええ、今回は負けてしまいましたが、次こそは」


「わかってるじゃねえか。さすが、俺の彼女だな」


「ええ、先輩もですよ。さすが私の彼氏なだけはあります」


「「ふ、あはははははは」」


「お、おーい、大丈夫か、お前ら?」


「幻夜、もうほっときなさい」


「それもそうか」


「あ、これどうする?」


「今は渡せる状況じゃないでしょ。見てみなさい」


「あー。だな」


「まったく、はぁ……」


「俺は、2人がいつも通りで嬉しいがな」


「幻夜も一応、そっち側のテンション多いから気をつけてよね。結構迷惑」


「側からみたらこんななのか。オッケー。気をつける」


「そこ失礼だぞ」「失礼っすよ!」



 全く……。た、確かにちょっと気分がハイにはなってはいましたが、仕方ないじゃないですか。今日は本当にいろいろ……いろいろありましたから。気を抜くと、顔がだらしなくなってしまいそうっすよ。えへへへ……っ! 危なかったです。

 そうか。私が先輩の彼女……彼女ですか。彼女。ふふ。えへへへ。そうですか、彼女ですか。ふーん。彼女っすか……。



「これ、おめでとうのやつ」


「○ッキー? 何故?」


「いや、恋人と言えばこのお菓子かなぁって。これでも考え抜いたやつだからな」


「そうか、ありがとう」


「ありがとうございます」


「幻夜、行くわよ」


「じゃあ、俺らはここらで」


「あ、ちょっと待て、由衣、キャラ変したこと聞きたいんだが」


「私気になります!」


「……はぁ。元から私はこうよ。ああしてたのは都合が良かったからね」


「都合?」


「こっちの話。もういい?」



 そう言って、幻夜先輩と由衣ちゃんは先輩の部屋から出ていってしまいました。私達の間には先程までの気まずい空気はなく、いつも通りの私達になっていました。

 ふと、先輩はこちらを振り返って



「じゃあ、三守。これからよろしくな」


「はい。先輩。こちらこそよろしくお願いしますっす」



 私達はきっと恋人になってもいつも通り仲良くやっていくでしょう。そんな日々が今はただただ待ち遠しくて仕方ありません。

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『先輩先輩』と呼んでくる後輩がただただかわいい たいおあげ @tai3939

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