第9話 2人だけの先輩と後輩

 教室に入ろうかと思っていると、教室の入り口には幻夜が立っており、まるで待ってっいたと言わんばかりに引っ張られて先程通った道を逆に進んでいた。幻夜の顔はどこか深刻そうだ。



「おい、幻夜。どこ連れてくんだよ」


「晴海、俺に隠し事はしてないよな?」


「は?」


「してないよな?」


「あ、あぁ。どうした幻夜?」



 俺が幻夜に隠していると疑われるような事があっただろうか。というか、雰囲気からして話かけづらい。



「晴海、お前、付き合ってるだろ」


「ん? ん??? ごめん。脈絡なさすぎて何のことだか」


「ふざけんな!! 親友の俺に嘘つくとはいい度胸だ」


「だから、待て。落ち着け」



◇◇◇



「あーなんだ。話をまとめると俺と三守が付き合ってるのに、幻夜に付き合ってないと嘘の情報を流したと?」


「あぁ……」


「あー了解。とりあえず、付き合ってはない」


「じゃあなんだ、『あーん』だの『間接キス』だのは付き合ってなくても普通にやると? あぁん?」


「待て待て、キモい。とりあえず落ち着け。あー、なんだ……あぁ……えっとだな。うん。仕方ないだろ、俺らは何か自然と気にしなくなったというかさ。引っ込みがつかなくなったというかさ」


「んな、言い訳通じるか! 俺だって、元カノと付き合い始めてから1ヶ月もかかったからな!」


「意外だな。幻夜なら、その日のうちに手出しそうなのに」


「んな。偏見だ偏見。こう見えて、清いお付き合いをだな……って誤魔化されんからな!」



 このまま話にのってくれたらこちらとしても助かったのだが、生憎現実とはそううまくいかないらしい。幻夜なら誤魔化せるかと思ったが、幻夜を舐めすぎていたようだ。認識を改めないといけないなと現実逃避的に思ってしまう。

 だが、仕方ないと思う。三守とは何故か自然としてしまうというか、抵抗感がないというか。そして、別に恥ずかしかったり、今更意識したりはないと思う。いや、好きなわけだし意識はしているのか?

 それをどう幻夜に伝わるように落とし込むのか今の俺には想像がつかない。


 そりゃあ、三守と付き合えればいいとは思うけどさ……。



「じゃあ逆に聞くが、どうやったら付き合えると思うんだ?」


「そう来たか。うーん。難しいな……いや待て。お前、昨日、三守ちゃんに告白まがいな事されたんだよな! なら、何故オーケーしなかった!?」


「……」


「何故目を逸らす」


「いやー……えっとな。男のプライドというか……俺から告白したかったというかな……」



 何でこんな事言わすんだよ!!

 わかってるよ、俺が大馬鹿者だってくらいさぁ。



「晴海、変なところでヘタレだよな」


「うるっせえ」


「晴海、女を手玉に取ってそうなのに、実は純情ボーイだとかさ……」


「……」



 まじやめろ。わかってるよ、恋愛経験がない事くらいさ! というか見た目関係ないよな! いいじゃんか、一途で重くたって! ダメなのか!?



「まぁ、俺もそこまで恋愛経験あるわけじゃないからな、この話は無しだ。で、どう告るかだ?」


「あぁ」


「んなもん、早よ告れ」


「それが出来たら苦労してねえよ!」


「いいからしてこい。つうか、待ってると思うぞ。……いや、それはないか……後輩ちゃんもお前相手だと案外鈍いし」


「……」


「手遅れ……はないか。でもいつまでもその関係に甘んじるのもどうかと思うぞ。当たって砕けろ。背中くらいは押してやるよ」


「ありがとな」


「購買のお手製メロンパンでいいぜ」


「はいよ」



 『全く、こいつは』と、いろんな感情がごちゃ混ぜになって何とも言えなくなっていた。


 正直、告白する気はあったが、その後一歩が進めなかった。その後一歩を結局、幻夜に頼り切ってしまっている事に、自分に対して不甲斐なさを感じるとともに、幻夜には感謝している。本当にいい友達を持った。



◇◇◇



「三守」


「珍しいっすね。先輩が先に待ってるなんて」


「そういう時もあるだろ」


「そうっすね。ささ、いきましょう」


「だな。なんか、寄りたいところあるか?」


「んー? 今は口があんこを求めてますねー。というわけでお焼き堂に!」


「あー、たい焼きか。うっし。行くか」


「先輩、奢ってー」


「は? んなもん、自分で払え」


「えー、ケチ」


「俺も今月ピンチなんだよ」


「奇遇っすねー。私もー」



 そんな他愛もないをしながら帰り道を過ごしていた。先程、話題に出た『お焼き堂』はここらへんの学生がよく利用している軽くたい焼きやら、大判焼きやら、たこ焼きなどをつまめる場所だ。俺たちもよく行っている。

 何と言っても、低価格で学生のお財布にも優しいのが特徴だろう。



◇◇◇


 あれからいろいろあって、今、家にいる。珍しく、妹はおらず、要は今、家に俺と三守2人だけというわけだ……。そう、わかっている。わかってる。

 俺の部屋で2人で勉強中。目の前には、三守がいる。正直緊張しすぎてて、勉強に手がつかない。しかし、本当に条件が揃いすぎている。



「三守、おりいって話がある」


「んー? どうしたんすか? 私達の中じゃないですかー。ささ、どんとこいっす!」



 そう言われたので、まずは三守の横へ移り、面と向かった。俺は覚悟を決めた。



「三守、好きだ。俺の彼女になってほしい」


「?? ……? ? ふぇ? はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


「聞こえなかったか?」


「ちょ、ちょ!! ちょっと待ってください!!」



 正直、今、三守の顔を見れない。恥ずかしいとか、やっと言えた達成感とか、どんな返事が返ってくるのかという不安だとかで。本当にいろいろ。

 そもそも、告白なんて初めてでどうすればいいのかわからなくて、咄嗟に出たのがこれだった。緊張していて、正直うまく言えたか不安である。

 この時ばかりは、本当にこの固い表情筋に感謝したい。



「………せ、先輩。わ、私!……

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