第8話 謎のドリンクに先輩と後輩

「幻夜、一緒に食うか?」


「お前は馬鹿か」


「いきなり、罵倒とはどういう了見だ?」


「新井先輩、もっと言ってやってください!」


「ほら、後輩ちゃんもこう言ってるぞ」


「解せん」



 新井先輩は優しいっすね。実は言うと、新井先輩も先輩の次くらいには人気あるんすよ。目元はキリッと、野暮になりすぎないくらいにセットされた髪。そして、みせる気だるいような雰囲気。いわゆる、ワイルド系? ちょっと違うっすかね。ま、とにかく人気はあるっすよ。

 サングラスだけでもつければ完全にカタギ側の人間じゃない容貌になると思うんで、いつか見てみたいっすね。

 しかし、見た目が整った2人が話してるだけで絵になりますね。必然的に、周りの目を集めてますし。

 あ! 早くしないとお昼終わっちゃいます! 早くしないと。今日はアレも飲まなくてはなりませんし。いったいどんな味なんでしょう。原材料とかも、楽しみにしたいんでまだみてませんよ!



「先輩、行くっすよ」


「いつものところか?」


「そうですね」


「空いてると思うか?」


「空いてますよ」



 何といいますかね。あの私たちがお昼に使っている場所は人が周りに寄りついたり、他の人に取られたりとかもあんま無いんすよね。みんな空気読みすぎっすよ。まぁ、こちらとしてはありがたいんすけどね。

 そんなわけで、学校中に知れ渡ってるのはさすがの私でも気付きます。だって、学校見たら、たまにこちらをガン見してる人がチラホラと……。

 あー! ダメダメ。考えちゃダメっす。


 そんな考えを巡らしながら廊下、外を歩いていつもの場所へと着いた。案の定というか、人は周りにおらず席も空いていた。



「おー。空いてるな」


「ですねー」


「さ、早く食べちゃいましょ」


「そうするか」



 先輩はどうやらパン3つにペットボトルですね。相変わらず、栄養を考えてないといいますか、お腹満たす事しか考えてない感じ高校生って感じっすねー。



「まーた。そんなパンばかり食べて!」


「いいじゃん。うまいし」


「確かに美味しいですけども! しっかり野菜とお肉食べましょ!」


「そうか? 焼きそばの中にキャベツと肉あるだろ」


「微々たるもんじゃないっすか!」


「そうか?」


「そうです。明日は私が持ってきますね」


「あー。なんだ。毎回ありがとな」


「いえ。倒れられても後味悪いんで仕方なくっすよ」



 全く、この先輩は……。もう少し自分の身体を気遣えないもんなんすかね。今の時期に栄養しっかり取っておかないと。まぁ、高身長なんで育ち切ったとかほざいてましたし、さほど要らないのかもしれないんすけども、やっぱり食べないと。

 しかし、この先輩ちゃっかり私のお弁当によくありついてますよね。狙ってやってるんすか?

 私としては、先輩に餌付けできてますし、なんだかんだで悪くは無いと思っていたり、いなかったり。



◇◇◇


「さて、ついに飲む時が来たっすね!」


「やめようぜ。な? 授業中腹壊すとかあったらどうすんだよ」


「そこで、日和っていたら先輩の名が泣きますよ!」


「どうして三守はやる気満々なんだよ……」


「先輩こそなんでそんなにやる気無いんすか!」


「噂では散々な言われようだからな」



 そう。このドリンク(?)は何を隠そう、我が校名物というか、禁忌というかそんな感じの物です。飲んだら2度とリピートしないだとか、幻の味だとか、終わってるだとか、まぁいろいろっすね。

 そんな噂を真に受けた生徒たちはこぞって手に入れようとしますが、この商品はなかなか購買に出されません。1ヶ月によくて、1本あるかないかですかね。そりゃあ、みんな飲んでみたくなるとは思うっすよ。

 今日は早めに購買行ったら偶然見つけたので、私も好奇心には勝てませんでした。さすがに、私1人で飲むのは怖いので、先輩も道連れにと。



「やめようぜ。まじでさ」


「じゃあ、私が先に飲みますね」


「うわ……やめろ。まじで。逃げ道がなくなる」


「いきますよ!」


「おい待て、早まるな!」



 先輩の静止も聞かず、私は、ストローを紙パックにさし、怖かったので、少しだけ口に含んでみる事にしました。私は出来る子っす。いざ! ……………っ!?!?



「おいおいおい」


「……」


「飲めってか?」



 コクリと私は頷く。



「無理無理無理」



 断固拒否との意思を示されましたが、私は、口元に無理矢理放り込みました。ストローを口に無理矢理入れて、紙パックを押して無理矢理、中の液体を口にいれる感じですね。



「……っ!?」


「やっと飲みましたね!」


「いや……は? 何これ? 不味くは無いんだが? は?」


「そうっすよね。意味わかんないっすよね」


「ああ……」



 先輩は、宇宙猫のようなどこか納得出来ていないような、いろいろな感情をひっくるめたような顔をしていました。まぁ、私も飲んだ瞬間そうだったんすけどね。



「何味なんすかね」


「全くわからん」


「毒入ってねえよな?」



 と言われたので、原材料を見てみましたがそれらしい物は全くなく。むしろ、『こんなの入ってた?』ってものばかりでした。



「牛乳? サンマ? は?」


「全く、牛乳もサンマもなかったっすよね」


「あ、あぁ。なんだこれ」


「むしろ、なんで甘味料もフルーツも砂糖も入ってないのにあんなに甘かったんすか?」


「わかるか!」



 結局、謎が深まるばかりっすね。なので、残ったのは、先輩と私で仲良く半分こする事にしました。原材料見た後飲み直しても、全く何かわかりませんでした。こういうのが、世の中知らなくていい事とか言うやつなんでしょうか?

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