第2話:プレセラ王女と側仕えのミリア

プレセラの視点:



「んんっ~んっ......もう少し..」


「駄目です、お姫様!これ以上遅くなられると遅刻してしまわれますから」


「い~や。ま、まだ.....」


身体を揺すられながらも、何とか意地でも長くこのベッドで寝ていようと抵抗してみたけれど、


「我がまま言わないで下さい、お姫様!初日で学院に行くのに遅れてたら後は陛下に何とおしゃられますか、もうお分かりいただけますよねー?」


「うぅぅ......ミリアもお父様も意地悪~~!」


仕方ないと思いながら、髪の毛が乱れてる金髪ロングの私は怠くストレッチをすると、大好きなこの黄金色のふかふかのベッドから起き上がった私。


「ふ~わぁー」


まぶたを重たく感じながらも、欠伸をすることで眠気を鎮めました。カーテンの隙間から柔らかな朝日が差し込み、豪華なこの私の部屋を淡い金色が染めている。


天井には美しい絵画が描かれ、天使たちが舞い踊っている様子が見えた。四柱式ベッドの周りには薄いレースのカーテンが優雅に揺れている。私はベッドから身を起こし、少しぼんやりとした状態で周囲を見回した。


「おはようございます、お姫様。」


私の耳に届いたのは、改まった姿勢になって、いつも通りのミリアからの真面目で冷静な声だった。赤髪をきっちりと後ろで結び、きちんとしたメイド服を身にまとったミリアが、起き上がって部屋の大きな鏡台まで歩いてきた私の側まできて、着替えを手伝おうとするようだ。いつもの日課だね。


「ミリア、おはようございます… まだちょっと眠いわ。」


眠気が完全に吹き飛んでいかないみたいで、目をこすりながらも精一杯の柔らかな笑みを我が忠実なるメイドであり、一所懸命に頑張って仕えてくれてる側仕えのミリアに向かって浮かべた。


眠気がまだ抜けきれていなかった状態なのに、我ながら天使のような純粋な表情を浮かべられた私は、きっとこの無垢な心をよく表していると誰もが思うのでしょうね、ふふふ.....


「そろそろきちんとして頂かないと、朝食の時間に遅れますよ。」


毅然とした口調で言いながら、赤髪を揺らしているミリアは私のために赤色の優雅なフリルが一杯ついてる学院制服を準備し始めた。ミリアの手によって次々と服装やスカートが整えられ、起きたばかりのさっきのだらしなく皺くちゃな寝巻きナイトドレス状態から私は徐々に王族らしいお上品な学院生の姿として変えられていく。


鏡に映る自分を見つめ、少し目を細めた。


「今日は、初めての魔法学院の日ね。なんだかわくわくするわ。この2年間の特訓で、やっと成長した私の魔法をみんなに見せる時がきたのを思うと少し舞い上がってしまいそう。」


「ですが、あまり浮かれすぎないようにしてくださいね、お姫様。 2年前の【ナヴァラ市の敗戦】でランクAのリニヤンとの闘いで危うくお命を落としてしまわれそうなお姫様を救って下さったラインハルト将軍のお気持ちも汲んで慎重に臨んでください。.....もう、そういうの懲り懲りのはずでしょう?」


「ええ、...それは嫌と言うほど分かっていたことだわ、ミリア。そ、それに、...彼は、私に色んなものを...教えてくれた恩人であり、とても大事な師匠だから」


「それなら宜しいです。では、お支度も済ませましたし、早く行きましょう」


優雅なくるくるなツインテ―ルを結んでもらった王女である私と違って、ミリア自身は最後のチェックとばかりに、ポニテ―ルできつく結ぶために据えた後ろの髪飾りを整えながら、私に向き直って忠告してきた、


「あの学院には、この国だけじゃなくて、同盟国や貿易国からの他の貴族の子息令嬢たちも大勢います。その中に、スパイとかが紛れ込んで、我が国への工作活動を画策している輩も在籍しているのかもしれません。ですから、たまにはその前向き過ぎるひたむきさ、天使のような優しさと不屈さも兼ね備えたお姫様には仇となることもあります。」


またもそんなこと言うのね。まったく、ミリアってば心配性だね。

私に人を疑えというのなら、それも仕方がないかもしれない。


3カ国の同盟国を持っている大国でありながらも、我がカールドリア大王国に対して深い恨みや歴史的競争心を抱いている国はこの西方地域も中心地域もいっぱいあるからね。昔の帝国だった頃ならともかく、リニヤン達からの総力戦規模な襲撃を毎年受けてきて弱体化しづづけてきたた我が国の今なら、あるいは......いかない、考え事ばかりしてる暇はなく、早く朝食を取りに行かなくちゃー!


「分かってるわ、 ミリア。でも、私の力を信じるのよ。たとえどんな相手が私に挑もうとしても、絶対に打ち負かしてみせるから。それと、平和的に友情を結ぼうというのなら、私はどこの国の出身であろうと、みんなと仲良くなれる自身があるわよ?」


自信に満ちた表情で微笑んでみせた。私の微笑みは、きっと周囲の世界すべてを光で照らし出すはずだわ、ふふふ!


準備が整った私達は、城の大きな階段を降りて食堂へと向かう。広々とした食堂には、高い天井と壮麗なシャンデリアが飾られ、床には緻密な模様のカーペットが敷かれている。


「まあ、お父様とお母様は、まだいらっしゃらないの?」


「はい、本日の陛下と王妃殿下は、所用が御座います故、お席をお外しになられております。ですので、王女殿下とミリアお嬢様二人だけになられているんですが、ご朝食の準備が既に出来ております故、どうかお席についてお召し上がりください」


「所用?一体どういった要件なの?」


この王城の執事長であり、忠臣であるワイズマン・フォン・グレオが私達にそう知らせてきた。白髪のダンディなお姿をしている執事長ではあるけれど、実は70代の今の彼の顔から見れば、本当は想像もつかない程に若い頃の彼は本物の救国の英雄なの。


何故なら、聖騎士としての称号を授けられたワイズマンは至高なる【聖白銀元帥】としても今のラインハルト師匠をまるで赤子の手をひねるような強さを誇っていたから。(この国では、聖騎士の称号は公爵よりも名誉なことだから、引退してくれててもいいのに、こうも律儀に執事長に自ら進んでなってくれて、『王女殿下はわたくしがお城の仲だけでもお守りして差し上げなければ何が良い臣下だとおっしゃいますでしょうか!』って頑なだったし)


「陛下と王妃殿下は、【北のヴェルクスランド洞窟】にて設置された探査機から、不吉なる【魔の霧(デモニック・ミスト)】の濃霧化が奥の間から夥しく探知されるほどに堅調になった先日から齎された情報について、緊急会議を開くために重鎮を集めて会議室にて、朝早くから議論をお交わしになられていらっしゃいました。ですから、ご期待に沿えられずにご両親とのお食事をお楽しみになられなかったことをどうか心よりお詫び申し上げます」


「......えっと、もう一度言ってもらわない事?早口で何から何まで喋ってくれてたものだから、私はさっぱり飲み込めるの出来なくて混乱しちゃうのだけれど?」


本当は全部聞き取れたけれど、ワイズマンったら緊張感のあまり色んなのを捲し立てるように言ってきたのだから、そんな慌ただしい様をもうちょっと直してもらいたくて再び言うように要求してしまったのだけれど、


「はい!さっきは失礼しました。状況が状況なだけに、そして学院に通うことになられた王女殿下のご初登校日なのに陛下も王妃殿下もご一緒して食事をお供にできなかったことをこのわたくしめなりに案じております故、全てを報告するのに口と舌がみっともなく回り過ぎてかえって王女殿下を不快にしてしまー」


「はいストップ、 ワイズマン。もう、生真面目なのは分かってるんだけれど、もう少しルーズに接してはくれないの?子供の頃から私達は良く遊んでたじゃない?硬くなり過ぎよ、もう~!」


「まったくです!」


私もミリアも呆れ果てると、それからは朝食を取りながら、じっくりと再度彼からの報告を聞き終えた私達は、


「そう...なら、その対処を我が国の勇敢なる軍人さんに任せ、私達はただただ学業や魔法訓練に専念するよう、お父様達からのお達しもあったようなのね?」


「愛娘であるお姫様の身を案じての忠告、......やっぱりお姫様は恵まれたご両親を持っているようでちょっと羨ましいですね...」


「まあ、ミリア。そんなこと言わずに?もう貴女には私がいるじゃない?ふふふ...」


孤児だったから何なの?今はこんなにも立派な【戦闘力】を誇る我が忠実なる側仕えになってるというのに、両親がいないだけでも私さえいればー


「まあ、冗談です。それほど羨ましくもありませんよ?」


まったく。からかうの上手なんだから~。


それから、朝食を済ませた私とミリアは、城を出る準備を整えた。


制服は赤色を基調とし、胸元には王家の紋章が刺繍されている。確かに洞窟での騒動で、もしかしたら未曾有なSランクの大量なリニヤンの出現がそこから湧き出てくる、本当に恐ろしい事件が起こりそうなのは心配だけれど、やっぱり適材適所ってところなのよね。


彼らは彼らの仕事があるように、私達にも学院生活と学業を疎かにすることはできないんだもの。


私達は馬車に乗り込み、城の大きな門をくぐり抜けた。


外の景色はいつもの壮麗のもの。広々とした石畳の道が城門からまっすぐに伸び、その両側には王家の公園が広がっている。緑豊かな木々と色とりどりの花々が、まるで絵画のように美しく配置されているわね。噴水が太陽の光にキラキラと輝き、鳥たちのさえずりが耳に心地よく響くの。


窓の外を見つめながら、ミリアに話しかけてみた。


「あの学院の仲には、私たちの未来が待っているのね。...ふふふ、一体どんな人が私達のトリオのパートナーになるのか、今から楽しみね~」


ミリアはいつもの穏やか仕草で頷きながらも、シリアスな表情を崩さずに反応した。


「そうですね、お姫様。 ワタクシもそれが気になっているところです。まあ、一体どんな人がパトーナーになろうと、そしてこれから先、どのような困難が待ち受けていても、ワタクシが一緒ならお姫様に何があってもきっとすべてを乗り越えられると信じます」


ガードネル王立魔法学院には【トリオ戦術チーム】の制度がある限り、必ず三人組のチームを結成し、登録する必要があると聞いたわ。だから、一体どんな人が加わってくるのか、ちょっとだけドキドキするのよね。社交場で色んな王侯貴族と知り合いになった子もいたけれど、知らない人だったらどうするのよ~。親友のエリス公爵令嬢はもう2年間で、.....亡くなっーいいえ、暗い記憶はもう控えるべきよ!


学院生としての初日で苦い記憶は全部考えないようにするの!


馬車が城の門を越え、すぐ隣の建物に位置する魔法学院が見えてきた。堂々たる建物は古めかしい石造りで、塔や尖塔が空に向かってそびえ立っている。私の胸には期待と興奮でいっぱいになってるの。


「行こう、 ミリア。今日から、みんなに私たちの力を見せてあげるの!」


私は笑顔で気高い王女としての威厳で叫び、それと同時に馬車の扉が開くと、私と共にミリアも馬車から降りてきて、学院へと向かって歩き始めたのだった。


ふふふ、今日から楽しみね~~。見ていて、ラインハルト師匠~。


【必ず、貴方の願いを叶えてあげるから!】


もう、昔の未熟な私じゃなくなったんだもの。16歳になった今のガードネル学院生なら、不可能なことはないわよ!

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アルティメット・トリオ 黒のクワメと白のシレシア @silesia156

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