第1話:悪夢の果ての憎悪

俺の名前は、カイル・ド・クライスラーだ。


生まれも血筋もここの北大陸、【エール=ルニア】とは違う遥か別の大陸に自分のルーツがあると両親に聞かされ、自分の肌色や髪型が彼ら、ひいてはこのバークウィッチ王国の誰もと違いすぎるという点から考えれば、自然に受けいれられた事実。


神父アルバート、つまり、俺の養父に当たる人物は、侯爵の爵位を既に持っている養母クラリス・ド・クライスラーと結婚するまでに、単なる平民だったが、あの時、5歳らしかった俺を拾ってくれた時の優しい顔は本物だった!ってかろうじて覚えられたこと!


「お前、どっちさんの子なんだい?どうして、内の屋敷にいるんだ?」


「.....」


あの時、俺が父さんに初めて発見された時は俺が気絶したらしくて、屋敷の裏の森近くに寝転がってたところのを雑事の最中だった父さんに見つけられ、そして保護されたその瞬間から、同じ日の夜で俺が起きてきた時にそう訊いてきた父さんだったが、当時の俺は何言ってたのか分からなかったし、言語もここでのものと自分の国だった頃の言語もどっちも知らなかったので、5歳の子供には応えようがないがー


「ね、ねえ、おとうさまー。あのこはだれ?」


分厚いソファもある豪華なリビングルームで、対面しているように俺は養父にそう訊ねられた場面。いきなり、可愛いフリルのついたピンク色のドレスを着ている小さな金髪の女の子が2階から降りてきて、俺達のいるここまで歩いてきた時。


そう。あの時、うろ覚えではあるが、確かに俺が始めて、愛しき妹として受け入れられ合い、接するようになれる前に、何も知らなかった頃のせシリアと出会うことその瞬間こそが、俺がもっとも尊く思ってる瞬間なんだ。


「あー。この子か?あ、ははは......実は、その、なんだ。...えっと、それについても分からないんだよ。いきなり裏の森近くに横たわってて、気絶してるか寝てるかも分からない状態で見つけたものだったから、仕方なく保護して、この子が起きてくるまでに事情を聞きたかったが、さすがにこんな小っちゃいな子だと、『外見も何もかも違いすぎる点を踏まえると』、まともな情報が望めないか、あるいはー」


「もしくは、記憶喪失なのかもしれませんね」


「お母様ー?」


そう。あの場で、俺も初めて、俺の事をまるで実の子供のように愛してくれた母さんと出会った。


「そうか?明らかにこの国の、いや、『この大陸の人間すらいない子』がいきなりうちで寝転がってたところのを見れば、単なる言語の違いから俺達との会話が成り立てないだけだと思ったんだが、ママがそう言うのなら多分そうなんだろう。ママだしな」


「ふふ、分かればいいんですのよ。では、その遠い国からの人の子が、どうやって我が家の敷地内にまでやってこられたのか分かりようがないけれど、推察からすると、おそらく何かの【転送魔法】か何か似てる類で転送させられてきたと思うんです。そう、たとえそれが本人の【望まないこと】であっても...」


「......で、どうするんだ?明らかにヤバそうな理由で、この子を追い出したんだろう?自分の手に余るから、誰かもっと遠いところの人間が引き取って問題から目を背けた人が取った行動っぽいだろう?そうでなきゃ、わざわざそんな大がかりな魔法を使うまでにこの子をここまで転送する必要がなかったんだろう。...なら!」


「そんなの、考えるまでもありませんよ。アナタも神父なら、分かるでしょう?たとえどんな事情があったかにせよ、今のその子は無力な子です。そうなれば、答えは自ずと一つになるでしょう。全ては、我々がみんな一つの家族になることを我が偉大なるルヴェナ様が導いて下さった出来事ですのよ」


大神官だけが纏うことを許された純白な高級そうな衣の袖を上げ、両手で静かな祈りをささげる母さんは敬虔な信徒らしく目を閉じながら、俺のために祈ってくれただろうと父さんに知らされたこともあった(当時の初めて俺がこの家で発見された日のことを聞いた時に)


あの後、いくら俺に聞いてきても無駄だと分かってくれた【両親達】は、俺を自分達の子供のように育てると言い出して、名前も【カイル】として名付けてもらい、それで自分達の既に持っていた二人の娘達、長女の10歳だったマリア、そして末っ子であるマリアの4歳だった妹のセシリアに、それを受け入れてもらえるように、俺との面会の場を設けたが、


「まあ、遠いところからやってきた男の子がうちの家族の一員に加わるだなんて素敵ねー!それもこんな見たこともない肌色や髪型を持ってるカイルならラッキーだわ!」


なんか面白がってそうなキラキラな目を少年に向けるとは逆に、妹セシリアの顔色が優れなかった。


「......い、いや。...そ、そんな変な色の肌、......そして髪もチリチリな【イカシュス実】みたいに......わ、わたしたちがいっしょに暮らすなんてー」


「......」


戸惑うセシリア。そして何言ってるのか分からなそうな顔してた俺。


「「........」」


そんな沈黙とぎこちない場面を打破してくれたのはー


「はいストップ。お姉ちゃんがそんな二人に対して、いいアイデアがあるわ!」


「「...え?」」


そう。あの後、姉ちゃんの努力によって、俺達は色んな楽しい経験をして、二日間も経たぬうちに両方が打ち解けて、そして両親からの熱心なバークウィッチ語の言語習得を1年間以上も頑張ったことに功を奏したか、呑み込みが早かった俺は2年間にして、まるで現地の子供と同じような言語力を習得でき、そして、俺が9歳になって、セシリが8歳になった頃に、


「ね、ね、カイルお兄様!みてみて、最初はなにも感じることなかったんですが、今わたしの手から風がぶわってちょっとだけ吹きかけていったんですよー?」


「ん?」


屋敷のすぐ外の中庭で、俺と妹が【魔術師対リニヤン】ってお戯れで遊びながらついでに魔法の行使もまた懲りずにやっちゃうと、セシリの手からなんか風らしきものが吹き付け、辺りに放たれた。


そう。本来、才能や素質ある子であっても、魔法の行使が最初にできるのは年齢が11歳からでなければならないと、今までの常識で教えられてきた。


だが、実際にはセシリが8歳になってすぐ、威力が小っちゃいながらも【第1階梯の魔法】、【ソフト=ウィンド】の行使をできるようになった!騎士を目指す俺と違って、魔法使いとして将来の職業を選んだセシリからすれば歓喜するところだった!


実際にも―

ぱふー!

「やりましたよ、お兄様!やりましたー!わたし、初めて【魔法】というものを使うことが出来ましたよ!えへへへ!」


俺の胸に飛び込んできたセシリは、ふわりとその高級なドレスを俺の簡素な訓練用なシャツに押し付けられ、自分もふわふわって気持ちなってた!それに、こんな素敵そうな香りは、確かにヴェルン社の【アグリッパ香水】って類だっけ?普段、俺も社交場の時は貴族用の男子礼装を着たこともあるから、その時にそれっぽい香水も両親に勧められて、使う時もあった。


「すごいぞ、セシリ!まさかこんな若いながらも魔法の行使ができるとはー!大したものだ、うちの妹は!やっぱり前々から俺が思ってた通りに、セシリは賢い子でいつも勉強に手を抜いてない天才肌な子でもあるって!信じてきたよ!」

「うん!ありがとうお兄様!わたしの可能性を信じてくれて!え、えへへへ、ぐへ~!」


ほめそやされ、それで大満足だったのか、だらしなく涎が垂れそうに破顔しながら顔を赤らめた我が妹はなおもその小っちゃい身体を俺のそれに押し付けてきて、甘えてきてるようだ!ったく、俺の妹でありながらなんて甘えたがり屋な子だ、はは...


そう。


そんな素敵な日々を!


そんな素晴らしき思いでをー!

(思い出され)


俺の大切な妹、セシリをー!

(あの最悪な日を!)


良くも!

(俺の目の前に、俺があの日、妹と礼拝堂で、礼拝堂で、自分達の勉強と訓練の成長速度が上手く早まるように、白刃の民のための神様である【白刃系神】、12柱からその一柱である【聖白生神ルヴェナ様】に祈りを捧げているところ、いきなりー!)


グサ―――――!

ブシャーーーーーーーー!!!


「え?」


一瞬、何が起こったかも分からなかった!

でも、その後、俺自身も剣で切り付けられ、最初は俺の目を潰すが目的で片方の目だけを切られ視界を困難なものにされた前には確かに、起こったばかりの光景を頭ん中の深いところまで焼き付かれ、忘れようがなかった!


そう。

俺の一番大切で、一番愛しき妹セシリアが!


よくも、あの連中が!


俺のすぐ側で、妹の胴体から下、真っ二つにしてくれたものだー!!

それも斜め上からの切り下げだった!


ただただ、俺達の広い屋敷の敷地内にある礼拝堂で、神様に祈っていただけなのに、

何の不条理があって一番前の檀上の近くに膝を折って祈るだけの俺達が、そんな酷い仕打ちを受けなきゃいけないんだー!?


その後、必死に這いずり回って、連中から逃げて妹のために復讐してやるってことだけ頭いっぱいな俺は、ローブ男の戯れによるものか直ぐには殺されなかったお陰で、両親達も魔法剣士の腕としても自信あるマリア姉ちゃんが駆けつけてこられて俺を庇うこともできたが、生憎とー!


グサー!グさー!


あの白いローブの女の子らしき丸みの在りそうな体格してる者がー!


みんなーーー!!!


父さん、母さん!


マリア姉ちゃん!


そしてー!


......................


.......

「はッー!?」


汗だくな恐慌状態で起き上がった俺!


夢だ。


そう。


確かに今の俺は、『あの外道な人殺しの女への復讐のために、死から蘇ってきて4年も経った!』


そして、今は、その4年間の過酷な暗殺者としての訓練期間も経て、16歳になった俺が今、やっとこの国、西方地域にある大国、カールドリア大王国にある【ガードネル王立魔法学院】へと、4年前の悲劇の元凶たるこの国の第一王女であるプレセラ・フォン・カールドリアの命を奪うがために、学生として入学してきたのだ!


今日は新学期の始まりの日で入学式が行われそうだったので、先日の入学試験を無事に合格した今は王都ガルマングスの『協力者の家の部屋』で一夜を過ごした。急がないと遅刻そうだな。あの悪夢の所為で汗だくになったので早く拭きに行かないと。


それにしても、どうやらまだその最悪な日から続いてきた悪夢を未だに毎日かかさず、俺の頭の中でその熾烈すぎた、信じられないような残酷な光景が離れずに、妹の無惨な死に様をどうしてもショックに思い、トラウマみたいになってる俺があの女を許さないと誓えた呪われし証にはなったな!


絶対に許さない!


俺の妹、姉、両親、屋敷、命も何もかもすべてを奪った、


プレセラ!


お前だけは、この俺の手で苦しみながら、死ぬが良い!


それ以外に、お前に相応しき結末はないと知れ!


絶対に、お前だけはこの俺の手で殺す!










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