第5話 私は.....あたしは.....

「まぁそういう気分だったんだよ母さん」

「学校では冷徹な王子というので有名なのにねぇ」

「なんでそれを知ってるんだ!?」


微笑ましい親子の会話が聞こえてくる......が、奏星はそれどころではなかったのだ。


(なんでいちいちそんなことをするの.......?)


奏星からしたら本当にわけがわからなかったのだ。

ご飯なんて自分に手に入れる......それが月詠家だったのだ。


(だからこそあたしはこの能力を利用して盗みをしたという過去もある......だって、そうしないと本当に死んでしまいそうだったからだ。)


でもそれなら家にあるものをこっそり食べればいいだろう?───という声もあるだろう。でも奏星は違ったのだ。


(親に見つかる可能性があるくらいなら......盗んだ方がまし)


────という思考なのだ、奏星は。

奏星にとって、親が法律に等しかったが故に、そのような思考になってしまっていた。


(まぁなんやかんやばれなかったしね.......)


そう......奏星は失敗したことがなかったのだ。

確かにそれは能力のおかげでもあったが.......彼女の優れた運動神経のおかげでもあった。


(監視カメラと、周りの人たちからの死角を狙えばいいだけだからね......簡単ではあったね)


死角を瞬時に見極めれるのはもはや人間業ではないのだが.......それはおいておこう。


「あれ、奏星?」

「......っ!!」


彩月はドアの向こう側に奏星がいることに気づいたらしい。

彩月はドアの前でじっとしている奏星をどうしたのかと不思議そうな顔で見ていた。


「......お皿を返そうと思って」

「あぁなるほどな......もしかして聞いてた?」

「.......」


奏星は気まずそうに頭を下げて肯定の意を示す。


(あぁやっぱりかー.......なんか誰かいるような気がしたんだよな。気のせいだと思ってたけど)


どうやら俺がいちいちこのおにぎりを作ったことがバレてしまったらしい。

どうしたものかと困っていると、奏星が焦ったような顔で言ってきた。


「す、すみません......盗み聞きをしてしまって。なんでもします、何でもしますので.....,.許していただけませんか」


そんなことを、急に敬語で何かに怯えるように言ってきた。


(あのくそ野郎......一体どんな育て方をしたんだ)


たったこれだけで脅えるだなんて.......明らかに普通じゃない。


「......なぁ、奏星」

「はっ、はい.......」

「なんで敬語なの??」

「はい.......?」


奏星は虚をつかれたような顔をした。

恐らく癖なのだろうが.......なんとなく聞いてみる。

母さんは空気を読んだのか既にこの場からいなくなっていた。


「お世話になっている身分ですので....,..」

「俺はさ.....仲がいい幼馴染がほしいっていったでしょ?」

「ですが........」

「俺は敬語のやつの方が嫌なんだよ、奏星」

「わかり.......わかった」


無理やり敬語をやめさせる。

俺たちにそういうのは必要ないのだから。


「なぁ、奏星.......」

「........なに?」

「お前の俺へに対する気遣いは間違ってる、それじゃあお前は前に進めない」

「え......?」


そう、俺が奏星と仲いい幼馴染になるためには、今までの奏星の常識を覆す必要があるのだ。

だってその捻じ曲がった常識のせいで、たった盗み聞きをしたのがばれただけてあんなに取り乱しているのだから。


「だって、寂しいでしょ?.....そのままじゃ、また一人を味うことになるよ」

「.......一人は慣れてるから」


奏星はお前に何がわかるんだと......俺に非難するような目をむけてくる。

そう、それでいいんだよ奏星.......どんどん、自分に正直になれ。


「でもみんなでいた方が楽しいぞ!一人で生きてく人生なんてつまんないからな!」

「.......?」


奏星は何故かその言葉に凄く重い意味があるのだと感じた。

なぜだかこの男にはそれの説得力が増す何かを感じた。


(いや~ほんと......ボッチの高校生活なんて死ぬほどつまんなかったからな)


.......まぁただの彩月の前世の悲しい経験談なわけだが。


「でも.......父様たちはあたしがやること全部間違ってるって言ってくる。だから私は......」


奏星はやることなすこと全てを否定されて生きてきた.......だからこそ、奏星は自己肯定感が今は彩月よりも低い状態だ。

だからこそ奏星は友達なんて作る気もなかったし......彩月との約束も都合がよかったから承諾しただけなのだ。

普通を得ることができるから。

本当は一人になるのが嫌な少女なのに......


「じゃあ全部俺のせいにすればいいんだよ!」

「え?」


奏星は何を言ってるの?という目で俺のことを見てくる。

奏星は今普通の生活を求めてる......でも昔親に否定され続けたせいで、「あたしと関わったら不幸になる」と、思っているのかもしれない。

でもこの生活は失いたくない...,..全部が親のせいで中途半端になっているのだ。


(だったら......それを全部覆せばいいってことだろう.......?)


「そのままの意味だ......俺がこれから奏星の判断や責任を担ってやる、だから奏星、俺と一緒にいてくれないか?」

「え.....?」


彩月は......急にそんなことを言ってくる。

あたしは過去のせいで自分の行動に自身が出ないから、彩月とも仲良くできない。

だって、「あたしが決めた行動は全部まちがってる 」から、彩月を不幸にさせてしまうと考えてしまう、でもあたしはこの生活を失いたくない.......でも、そんな傲慢なあたしを、彼は受け入れようとしてた。


「君はきっと誰かのためになら動けるはずだ、ならこれからは俺のために動いてくれ、そこに迷いは必要ないよ」

(あぁ.......本当にこの人は)


あたしに甘い蜜だけを吸わしてくれる彼に.....あたしは

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天才的な頭脳を持つアイドル級美少女の幼なじみが俺を完全に堕とすまで りと @Raimgh

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